青年の誓い
これからは主人公の視点に戻ります。
そして、今回は主人公の過去にも少し触れていきます。
オレは夢を見ていた。
今まで何度も何度も見た夢を。いや、過去を。
今自分が見ているのが夢だと分かるのはそのためだろう。
...............
目の前には白いベッドに横たわる人物。
その顔には白い布切れが置かれ、既に命を落としていることが分かる。
オレはそのベッドを部屋の隅で眺めていた。
あまりの喪失感から、ただただ無表情で眺めていた。
涙などは出てこず、代わりに沸き上がるのは自分への憎悪だけ。怒りだけ。
オレが殺してしまったも同然なのだ。
この世で最も大切な人物を、大好きな人を、オレは自分の矮小さ故に死なせてしまった。
思えばこの頃からだろうか。
オレがあまり笑顔を晒さなくなったのは。
これ以前はもう少し笑顔が出来た覚えがあるが、これ以降、腹の底から笑ったことがない。
笑えない。
自分が幸せを感じる度に、何かが耳元で囁いてくる。
「お前に幸せを掴む権利があるのか?」
......と。
「人の幸福を奪っておきながら、自分は幸せに過ごすのか?」
......と。
許される訳がない。
いや、オレ自身が許さない。
夢の中のオレは、手首に巻かれたミサンガを見つめる。
そして、ようやく涙を流し始めた。
「............ごめん」
小さくそれだけ呟いて、オレは静かに嗚咽を上げた。
..................
ふと目を覚ますと、室内は真っ暗だった。
......リビングか。
どうやらオレは、いつからかリビングのソファで寝てしまっていたらしい。
壁の掛け時計に目をやると、もう夜の八時過ぎを示していた。
母親が近所のスーパーへパートに行っている時間だ。
ソファから立ち上がり、部屋の電気を点ける。
リビングと壁を隔てず隣接しているダイニングの大きなテーブルには置き手紙が置かれていた。
『夕飯置いとくから。チンして食べてね』
了解。
置き手紙のすぐ側には二人分の手付かずの夕食が置かれていた。
「......アイツはまだ食べてないのか」
まぁ、子供じゃあるまいし、わざわざオレが呼び掛けなくても自分のタイミングで食べるだろう。
オレは早速キッチンへと一人分の夕食を持っていき、レンジで温める。
しばらくして「チン!」と音がなり、オレはダイニングテーブルへとそれを持ち帰った。
「いただきますっと」
もしゃもしゃと食材を口に放り込む。
何て言うか、いつも通りのオレ好みの味だ。
何の感動も無くただ黙々と食事を続けていると、リビングのドアが開いた。
「! あ、もう夕飯食べられてるんですね」
オレを見るやそう言う千歳。
そしてオレの方へと歩み寄って来て、向かいの席へと腰を落とした。
「実は、おば様がお出になる際、夕飯時になったらユウくんを起こしてあげてと頼まれまして」
笑顔でそう言う千歳。
「そうか。悪いな、わざわざ気を使ってもらって。でも、ちょっと遅いんじゃないか?」
我が家の夕飯時刻は大体午後七時ほどだ。
母親から伝え聞いてはいなかったのか。それとも千歳はこの時刻に夕飯を食べるのか。
「あ、その......実はユウくんを起こすまでの間、少しベッドで休もうかと思ったら、すっかり寝入ってしまいまして」
照れくさそうに頬を赤らめる千歳。
「一緒に食べてもよろしいですか?」
しかし、次の瞬間にはあの穏やかな笑みを浮かべている。
「ああ......あ、レンジはキッチンにあるから」
特に断る理由もないし、素直に誘いに乗じておこう。
「はい! 分かりました!」
オレの承諾を得た千歳は、華やかな笑みを浮かべ、夕飯を手にキッチンへと向かっていった。
やがて「チン!」という音がなり、千歳が戻ってくる。
どうやら、電子レンジはちゃんと使えるらしい。
世間知らずなお嬢様は電子レンジとは無縁なのではないか、と勝手に決め付けていたことは心中で謝罪しよう。
「では、いただきます」
上品に手を合わせ、そして料理へと箸を伸ばしていく。
「あ! そういえば、今日のお昼にユウくんの友人の方達と会ったんですけど......」
千歳は嬉しそうな笑みを携えてオレに話し掛けてくる。
オレの話題で話をするのが嬉しいようだ。
その話に相槌を打ちながら思う。
やはり、オレは約束を果たさなければならない運命にあるらしい。いや、運命ではなく義務か。
それが、あの日何もかもを失ってしまったオレに残された唯一の物だから。
きっと、母親もオレを恨んでいることだろう。
オレはあの人の大事な物まで奪ってしまったのだから。
だが、例え肉親から嫌われていようと、最後まで約束を果たそう。
必ず君を幸せにしよう。
オレは心中で目の前の女の子にそう誓い、再び箸を動かし始めた。
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