恋敵 2
今回は主人公が立ち去った後のファミレスでの話と、その後の夜の物語です。前回同様桐花視点です。
私は湯船に浸かりながら、今日の昼の出来事を思い出す。
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ユウが店を出て三十秒ほどして現れた一人の女。その女は、私達の元に来て早々こう言い放った。
「先程ユウくんに振られてしまった、白峰千歳と申します」
そんな大胆な発言に、私達三人は一斉に声を上げた。
「差し支えなければ、お教え頂きたいことがあるのですけど......」
女は一瞬顔を驚愕の色に染めたが、すぐに上品な微笑みを浮かべてそう言った。
「いやいやいや、ちょちょちょ、ちょっと待って!!??」
たまらず私は制止の声を掛ける。
ついその均整がとれた顔立ちに見とれてしまったが、何とか意識を取り戻した。
「はい、何でしょうか?」
私の焦燥とは対照的に、女は淑やかな声を発する。何なのだろうか、この余裕は。
「振られたって......じゃあ、貴女がさっきユウが言ってた......」
改めて女を見る。
透き通る程に白い肌。それに腰ほどまで伸びているその柔らかな茶髪......いや、亜麻色に近い髪の毛。
そして、清楚さを醸し出す白いワンピースと、おてんばのイメージを与える麦わら帽子が見事に調和している。
美少女、というやつだろう。
昼間ユウが言っていた「アイドル級」という例えも納得できる。
一馬と渡は、先程からずっと女の顔をボンヤリと眺めている。いや、確実に見とれている。
男連中はこういったか弱そうで庇護欲をそそる女の子に目がないらしい。
そんな私達を気にも留めず、女は私の問いに答える。
「はい、私がその振られた女です」
そんなことを言いながらも、女の顔には恥じらいといった物が見受けられない。
肝が座っているのだろうか。
「なあなあなあ!! 千歳ちゃんって、どこから来たの!? スマホ持ってる? 番号交換しない!?」
やっと正気に戻った一馬が、ガバッと椅子から腰を上げ女に言い寄る。
「あ、ごめんなさい。スマホは持っていないんです」
露骨な態度をとる一馬に気圧され、一歩引く女。その顔には苦笑が浮かんでいる。
「なぁんだ持ってないのか。じゃあどうやったら君と連絡とれるかなっとぉわっ!?」
暴走を続ける一馬のベルトを掴み引き、無理矢理椅子に座り直させる。
「怖がってるでしょ。やめなさい」
「......ちぇー」
一言注意をすると、一馬は素直に引き下がった。こういう聞き分けが良いのは一馬の良いところだ。
「えっと......白峰さん、だっけ? 僕達に何か用でもあったのかな?」
半ば見とれながらも女に質問する渡。
確かに、何故ユウに振られたという彼女が私達に接触してくるのだろうか。
「あ、いえ。実は、ユウくんと別れた後、しばらく車に乗ってこの町をドライブしてたのですが、そうしたら、偶然この店に入っていくユウくんの姿が目に入ったもので。気になって店の前まで来てみたら、すぐにユウくんが出てきてしまって。
追いかけようか迷ったのですが、店内にユウくんと同じ制服を着ている人を見かけたものですから声を掛けさせて頂いたのです」
なるほどね。
やってることはストーカーと大差ないように感じられるが、この見るからに漂う世間知らずなお嬢様という感じからして、別に悪気はないのかもしれない。
やってることはストーカーと大差ないが。
「それで? 私達に何か用件でもあるの?」
ただ話したかったという訳では勿論ないだろう。
そう聞くと、女は返答してきた。
「はい、実は皆さんに、ユウくんのお宅の住所をお尋ねしたいと思いまして」
やっぱりストーカーなんじゃないのこの子。
振られた女が振った男の住所を尋ねるだなんて復讐でも考えているのではないか。
「いや、それは流石に......そもそも、そんなにアイツの家に行きたいんなら店を出たところからアイツと一緒に行けば良かったじゃない」
後ろめたいことが何もなければそうできると思う。そりゃあ、気まずさはあるだろうが。
「初めは私もそう思ったのですが、そこでピーンと来たんです!」
フフン、と自慢気に鼻を鳴らす女。
「何も知らせず急に家に現れるのって、サプライズになると思いませんか? 私、昔テレビで見たんです! 単身赴任で離れ離れに暮らしている我が子のために、クリスマスに内緒で家に帰りパーティーの準備をした父親の話を!」
「それは互いに愛情があるからサプライズとして成立するのよ。一方通行な恋心でそういうことをするのはサプライズじゃなくてストーカーって呼ぶの」
何とも天然な人だ。まるで一般常識を知らない。
「? ......そうなのでしょうか?」
可愛らしく小首を傾げる女。計算でそういう仕草をしているのだろうか。それとも素?
......どっちの可能性も捨てきれない。
「まぁ、どのみちユウの住所は教えないわよ? アイツ、勝手に個人情報をバラされるの嫌がるし」
「そうそう! アイツ、知らないヤツには自分の誕生日すら言いたがらないもんな!」
「ちょっと神経質過ぎるくらいにね」
続いて一馬と渡も言葉を発する。
「そうなのですか? ......困ってしまいました」
眉を八の字にしてみせる少女。
その表情にやられたのか、一馬が提案をする。
「......まぁ、条件によっちゃあ教えてあげてもいいぜ?」
やたらと格好いい声で言う一馬。
しかし、内面がアレなため全く心に響かない。
「条件......ですか?」
そして、女も一馬の提案に興味を示す。
「ああ! オレに連絡先を教えてくれたら、ユウの住所を教えてしんぜよう!」
自分の欲求を満たすため平然と友を切り捨てた我が友。
「ちょっと一馬。アンタ何勝手なこと言って......」
流石にこれは止めなければ。
私が一馬を制止しようとすると、その一歩手前で女が口を開いた。
「分かりました。私の連絡先をお教え致します」
「あれ? さっきスマホは持ってないって......」
渡が疑問を投げ掛ける。
「はい。しかし、要は私と連絡が取れればいいんですよね?」
女はそう言って一馬を見つめる。
「......! あ、ああ、そうだよ!」
女は「では」といって懐からメモ帳を取り出すと、適当なページを開いてツラツラと電話番号を書き始めた。
やがて書き終わり、そのページを破ると、一馬へと手渡す。
「これで私と連絡が取れますので、ご用の際はお掛けになってください」
その紙を受け取った一馬は歓喜の雄叫びを上げて両腕を天井に突きだした。
「それで、住所のほうは......」
「ん......ああ、ユウの住所はーーーーー」
そして女へと告げられるユウの住所。
ごめんユウ、貴方を守れなかった。
「......では、私はこれで失礼しますね」
用件を済ませた女は優雅に店の出入り口へと踵を返す。いつの間にか少女の脇に立っていた執事らしき男の人もそのあとについていった。
「へへ、早速掛けてやろっと」
ニコニコと幸せそうに笑う一馬。
まだ店外へと出てない女に電話をかけようとしている。そんなにあの子に電話できるのが嬉しいのだろうか。
ダイヤルを終え、スマホを耳にかざす一馬。
その視線は少女の後ろ姿を捉えている。
すると、少女の一歩後ろを歩く執事が懐から古風のガラケーを取りだし耳にかざした。
「はい、もしもし」
直後、一馬のスマホから漏れでる男性の声。
「お前の電話番号かよ!!!!」
怒りと悲しみで一馬はスマホを机に叩きつける。
どうやらあの美少女に一本取られたらしい。
確かにこれならば、少女と連絡を取ることができる。通話はできないけど。
頭を抱え悲痛の叫びを上げる一馬を尻目に、女は優雅に店外へと出ていった。
...................
浴室から出て自室へと戻ると、丁度一馬からチャットが届いた。
『なあなあ、明日ユウの家に集まらないか?』
『なんで?』
『なんでって......お前は気にならないのかよ千歳ちゃんのことが』
まぁ、気にならないって言えば嘘になるけど。
『でも、ユウは彼女のことを振ったって言ってたし、別に今更気にしてもって感じ』
これが彼女とかならば思い切り食い付いただろうが、振った女のことを気にしてもしょうがない。
『へぇ、意外とお前って大人なのな』
『アンタが子供すぎるだけでしょ』
告白の一つや二つで盛り上がるのはアンタか中学生くらいなものだ。
『そっか。じゃあオレと渡の二人で行ってくるよ』
『行ってらっしゃい』
『あ、因みになんだけど。千歳ちゃん、今日ユウの家に泊まるらしいぜ?』
っ!!??
え、何それ!? どういうこと!? 確かに昼頃にあの女が家に来てるってユウから連絡来てたけど......何でそこから泊まるって話になってるの!?
『んじゃ、おやすみー』
『ちょっと待ちなさい!! それ本当!? ホントにホント!?』
会話を終わらせようとする一馬を強引に引き留める。
『......お、おう。さっきユウからそうチャットが入ったけど』
何で私に言わないのよあの男は!?
『私も行くわ』
『え?』
『私も行くから。明日、朝の八時に集合ね』
『お、おう分かった』
今日自分を振った相手の家に泊ろうだなんて、あの女、一体どういう神経してるのかしら。
それはともかく、明日はユウの家に集まることになった。
何も起こらないようにしっかりと監視しておかないと!
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