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十年前の約束 君を幸せにする約束  作者: 東頭明治
押し掛け女房(仮)
16/39

恋敵 1

今回は視点が変わり桐花の過去のお話です。

       

         夜



 私、川島桐花は、とある男の子に恋をしている。

 そいつは、少々感情が読み辛かったりデリカシーに欠ける所もあるけど、それでも、私はそいつのことが好きだ。


 小学二年生の春の思い出。

 私は、今でこそ最低限の女言葉を使えるが、当時の私は男の子のような口調で喋り、それが原因で、入学して間もなく、クラスメイトにからかわれていた。


 それは進級すると同時にからかいから虐めへと変わり、暴言や嫌がらせなどを毎日のように受けていた。


 ある日、私は掃除の時間に教室で水を掛けられた。


 その水は水道水ではなく、バケツの中の雑巾を絞るために使われた汚水だ。


 堪えきれず、大勢のクラスメイトの前で涙を流した。


 しかし、誰も私を気遣ってはくれなかった。

 それどころか、皆はその私の姿を指差して笑いだす始末。


 辛かった。ただひたすらに。


 ここに私の居場所は無いんだと思ったその時、ヒーローが舞い降りた。


 バシャャャン、と、水が床に叩きつけられた音が響く。


 涙を流しながら顔を上げると、先程私に水を掛けた男の子がずぶ濡れになっていた。


 そして、その男の子の横に立っているのは、また別のバケツを持った一人の少年。


「おー、これは確かに面白いね。......? どうしたの? 顔から笑顔が消えてるよ? こんなに面白いことしてるのに笑わないの?」


 淡々と抑揚が無い声で告げる少年。

 その口調からはどことなく不気味な気配が漂っていた。


「......何してんだよテメェ!!」


 水を掛けられ、激昂する男の子。

 標的は私からその少年に変わり、拳を振り上げて少年に向かっていく。


 対する少年は物怖じすることなく、男の子へと立ち向かっていった。


 少年と男の子の喧嘩が始まる。


 私は恐ろしくて動くことが出来なかった。動けず、ただその光景を眺めていることしか出来なかった。


 でも、その少年の姿が、私の瞳には輝いて映っていた。



..................




 その喧嘩が駆けつけた先生達の手で取り押さえられ、少年と男の子がお叱りを受けた数時間後、私は下校中の少年に後ろから声を掛けた。


「......どうして私を助けたんだよ? 今度はお前が虐められるかもしれないのに」


 少年は振り返ることもせず、スタスタと歩き続ける。


「......ねぇ、ちょっと!?」


「......? ぼくに話し掛けてるの?」


 ようやく声が届いたのか、先程と変わらぬ間の抜けた顔で振り返ってくる少年。

 唯一先程と違う点があるとしたら、鼻先に貼られた絆創膏くらいだ。


「お前以外にいないだろ! 私を助けてくれたのはお前しかいないんだから!」


 すると、しばらく少年はボーっとした顔で考え事をしだした。「うーーん」と唸り、今更になって理由を考えているようだ。


「たぶん腹が立ったんだと思う」


 考え抜いた末の結論が発せられた。


「......それは、私が虐められてることに?」


 もしそうだとしたら、この少年は紛う事なきヒーローだ。


「ううん、ぼくが真面目に掃除してるのにアイツらが真面目に掃除しなかったことに」 


 しかし、少年は変わらず淡々と言葉の意味を付け加えた。

 私の期待は無感情に砕かれる。


「そ......そう」


「別に君が虐められてようが、ぼくには何の関係も無いしね」


 更なる追い討ち。

 そこまで言い終えると、少年は踵を返して下校を再開した。


「あ! ちょ、ちょっと待って!!」


「? 何? ぼく、早く帰ってアニメの再放送見たいんだけど......」


 若干表情に不満を滲ませ、歩を止め、振り返る少年。


「......私、これからどうすればいいかな? もう、皆と仲良くすることなんて出来ないだろうし.....お前みたいに、私に話し掛けてくる人もいないし」


 すがるように、少年に尋ねる。

 私を救ってくれたこの少年ならと、淡い期待を込めて。


「? 気が合う人を探せばいいんじゃない?」


 少年は、当然のことのようにそう言うだけだ。


「......無理だよ。誰も私と関わろうとしてくれない。そんなこと、お前も分かってるだろ?」


 少年は体ごと私に振り返り、こう言った。


「いや、ぼくがいるじゃん。ぼくと遊べばいいんじゃないの?」


 変わらず、当然のようにそう言う少年。


「え......? でも、それだとお前に迷惑が掛かるんじゃ......」


 すると、少年は「はぁ......」と呆れたように溜め息を吐いた。


「だから、言ってるじゃん。君が虐められてることはぼくには関係無いって。何で他人が君を虐めてるからって、ぼくまで君を虐めなきゃいけないんだよ」


 やはり当然のように、淡々とそう言う少年。


 その言い方のせいだろうか、その言葉が嘘偽りの無い物だと、不思議と素直に信じることができた。


「そうそう、ソイツの言う通りだよ!」


「珍しく良いこと言ったね」


 私の背後から突如響いた二つの声。

 振り返ると、二人の男子が立っていた。


「お前達は......?」


 確か私と少年とは別のクラスだったと思う。廊下で幾度かすれ違った記憶がある。


「オレは一馬で......」


「ぼくは渡だよ」


 ニカッと大きく笑みを浮かべる一馬と、穏やかに微笑む渡。


「一馬に......渡」


「二人とも、ぼくの友達だよ」


 少年が情報を付け足してくる。

 そして、さらに言葉を続けた。


「で、今からは君の友達でもある。さっき、ぼくと男子が喧嘩したのを見てたらしくて、それで事情を聞かれたんだけど......そしたら、二人とも君と友達になりたいって言ってたよ」


 その言葉は、私には余りにも嬉しすぎて、初めは頭が真っ白になった。


「......え?」


 間抜けに声を漏らす私などお構い無しに、一馬と渡は私の手を取る。

 

「「よろしくね!」」


 そう言って笑い掛けてくる二人。

 ふと振り返ると、少年もそんな私達の姿を見て優しい笑みを浮かべている。


「二人とも良いヤツだから、そんなに警戒すること無いと思うよ。わざわざ虐められっ子の君と仲良くしたいって言い出すヤツらだし」


 そう優しく言ってくる少年。


 一馬と渡が「「お前が言うなよ」」と同時に突っ込んだ。


 私は両手に繋がれた二人の手へと視線を落とし、やがて顔を上げて......


「うん! よろしくね!」


 涙を溢しながら、精一杯の笑顔でそう口にしたのであった。


 こうして、私はかけがえの無い友人を三人手に入れたのだった。

 







 

 

 

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