絶対防衛ライン
前の話はちょっとシリアスだったので、今回は息抜き目的の話です。
オレはベッドに仰向けになり、天井を見上げる。
「よくよく考えれば、そんなに不都合なことでもないのか......」
先程は千歳が我が家に宿泊することに異議を唱えたが、考え直してみると、逆に好都合かもしれない。
この家に宿泊するということは、オレが千歳の動向を監視できるということでもある。
もしこの家から追い出せば、何処かでオレの情報を耳にすることがあるかもしれない。
それこそ、千歳がこの家にたどり着いたのは、一馬から住所を聞いたかららしいし。
幸い、致命的な情報は千歳の耳には入っていないようだったし、これ以上野放しにするのも愚策というやつか。
「......それにしても、人の個人情報を勝手に流すってどういう神経してるんだよ。ガキの頃から言ってきた筈なんだけどな。オレの知らない人間にオレのことを話すなって」
まぁ、千歳は一応オレの知り合いではあるわけだが。
それでも一馬の無神経さには流石に呆れる。
もう遺書も書き終えただろうし、これから行って叩きのめしてやろうかと考えていると、隣部屋から声が聞こえてきた。
「そういえば、ユウくんのアルバムとかは無いのですか?」
「アイツのアルバム? ああ、確か下の廊下の押し入れに入ってたと思うけど......」
先程呼び出された母と千歳が会話をしている。
どうやら話題はオレのようだ。
「なんなら見てみる? 千歳ちゃん。アイツ専用のアルバム本があるわよ」
オレ専用って......そんな物作ってたのか。
オレのような可愛らしくも格好いい男のアルバムだなんて、そんなものアイドルの写真集と何も変わらないではないか。
「わあ! 是非見たいです!」
いや、見たいのかよ。
我ながらそんな物見るべきじゃないと思うけどな。
散々アイドルとか言ってたけど。
「じゃあ今から見に行こうか!」
「はい!」
二人の元気な声が響いてくる。
やがて隣部屋のドアが開く音と、二人が階段を下りていく音が聞こえた。
ま、オレ専用のアルバムを見られた所で、別に恥ずかしくも何ともない。その親馬鹿さは恥ずかしいが。
普通アルバムなんて家族全員の写真がごっちゃになっているんじゃないのか?
それとも一人一人のアルバムを作るのが普通なのだろうか。
......。
「押し入れ!?」
反射で体がベッドから跳ねる。
そして足が床に着くと同時に駆け出した。
部屋を出て、階段を四段飛ばしで駆け下りていく。
左を向くと、今にも押し入れを開けそうな母親の姿が......!!
「はいやぁぁぁ!!」
スライディングで押し入れと母親の間に無理矢理割り込む。
「ひゃあ!?」
「きゃあ!?」
二人が突然現れた不審者に悲鳴を上げる。
オレはスライディングをしたポーズのまま、母親に語りかける。
「おい母親。何をしている」
先程までの必死さはどこへやら、オレは無表情でクールな声を発する。
焦っているときほど冷静にならなければ。
「いやアンタが何してんのよ」
まぁ、そう思うよな。オレもそう思う。
「いや、オレはアレだよ......アレだよ」
「答えになってないわよ」
オレもそう思う。
「まぁとにかく、オレのアルバムを見せるなんて許さんぞ。恥ずかしいだろうが。顔真っ赤になっちゃうだろうが」
取り敢えずそれっぽい理由を並べる。
「何が恥ずかしいのよ。アンタが恥ずかしがるモノなんて顔くらいなもんじゃない」
「どういう意味だそれ!?」
いくら母親といえども言って良いことと悪いことがある。
今の言葉、高校生だからもう何とも思わないが、小学生の時だったらトラウマになると思う。
「まぁ、アンタの気持ちも分かるわ。そんな顔してたら人様に見せたくないって言うのも自然なことよね」
なおも続く母親の攻撃。一撃一撃が致命傷の威力だ。
やられっぱなしなのも腹立たしいので反撃に転じよう。
「ああそうなんだよ。どっかの母親の遺伝子を継いでるから、こんな酷い顔になっちまったんだよ。謝罪してほしいもんだ」
母親の眉間にシワが寄る。
「へぇ......言うようになったじゃないの。アンタ、覚悟は出来てるんでしょうね?」
禍々しいオーラを全身に纏う母親。
内心少しだけ怖じけながらも、男のプライドを振り絞り虚勢を張る。
「......はっ、何の覚悟だよ?」
「アンタがこの押し入れの奥にアダルトな本を隠してる。それをママ友達との話のネタにされる覚悟よ」
「調子のってました。ごめんなさい」
既にバレていた。
一体オレは何のためにここまで憐れな姿を晒したのだろうか。
「? アダルトな本......?」
千歳は意味が理解できていないみたいだ。
有り難い。
こういう時に箱入り娘の世間知らずさには救われる。
実の母親にバレ、さらに同い年の女の子にまでバレてしまったら、もう首を吊る覚悟ができる。
「ーーーーーーな本って意味よ」
「っ!!!!!」
何故説明するんだ母親。
アンタそんなにオレが憎いのか。愛すべき息子だぞオレは。
千歳は顔を見たことがないほど真っ赤に染め上げ、どうしていいか分からず俯いてしまっている。
「取り敢えずアンタはそこをどきなさい。アルバムが取り出せないでしょ」
「あっ、はい」
素直に応じるしかない。
このうえ更にママ友達に嗤われるのだけは回避しなければ。
サッと立ち上がり押し入れの前から離れる。
そして母親が押し入れのドアを開け、ゴソゴソとアルバムを探し始めた。
その光景を眺めていると、千歳が話しかけてきた。
「あの、ユウくん......?」
遠慮がちに声を掛けられる。
いや、確かに嫌われるのは目的だったが、流石にこの嫌われ方は辛い。
「なんだ? 別に男の子がそういう本を持ってるのは何も不思議なことじゃないぞ? むしろ健全な男の子なら持っていて然るべしだ」
もう開き直ることにした。
「いえ、そうではなくて......」
じゃあ何なんだ。
「私は、ユウくんの顔は格好いいと思いますよ! 中の上くらいだと思ってます!」
「......ありがとう」
いや、別にオレも母親も本気でそう罵り合ってた訳じゃないけどね。
中の上という判定は喜ぶべきなのかどうなのかよく分からなかった。
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