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私は実に運が良い……の?

うっかり削除してしまったため再投稿です。

 さて、この状況は、果たして運が良いと言えるのだろうか。


「君みたいな小さな女の子が、こんなところを独りで歩いているなんて感心しないなぁ……」


 お爺さんと別れた直後。

 テンプレートな不審者台詞を吐く、何処かで見たことのある顔をした一人の男性に声を掛けられていた。

 そう、具体的に言えば、わずか数分前に見た気がする顔である。


「そうそう。こうやって、俺たちみたいな悪いお兄さんに攫われちまうんだから」


 別の声に振り返れば、連れと思しきもう一人の男性が、私の退路を断つように立っていた。


 ……この人たち何処から涌いたのだろう。お爺さんと話したところからは一本道だ。路地の入口は大人が通るには不便すぎたし、途中、隠れるようなところも無かった気がする。だからこそ、わざわざ理力の糸も使わずにいたのだけれど。

 何、また屋根から降ってきたの? この世界は屋根も通路の一部なの?


 なんて、益体無いこと考えていないで、どうするか考えよう。

 どうやら鴨がネギを背負ってきたと思われているようである。幼女が一人で人気の無いところを歩いているのだ、無理もない。


 このまま攫われてしまうこと自体は、目的にも適うので、まあ良い。けれど、当然何の準備も無いので、救出劇は出たとこ勝負になってしまう。

 かと言って、このまま逃げ出すのもどうだろう。今回逃げてしまえば、当初の予定通りにはいかなくなる。


「おっと、怖がらせちゃったかな? ごめんごめん。でも、大人しくしててくれれば怖いことなんて何もないから」

 何の反応も返さない私を見て、怯えていると勘違いしたか、二人は無造作に距離を詰めてくる。明らかに油断しているようで、その気になれば簡単に逃げ出せそうである。

 さて、困ったな。


「……大人しくしてなかったら、どうなるのですか?」

「んー、お互い楽しくないことになるなぁ……。僕たちは女の子を虐めて楽しむ趣味はないし、君だって痛いのは嫌だろう?」

「まあ……痛いのは、嫌ですね」


 そうだろうそうだろう、と頷く男性。


「だから、君には二つの道がある」

「……二つ?」

 この流れで、大人しくついていく以外の選択肢があるのだろうか。いや私からしてみれば、逃げ出すという選択肢はあるけれど。


「一つは大人しく僕たちと一緒に来る道」

「……もう一つは?」


 男性は、勿体ぶる様に溜めを作ってからニヤリと笑って、


「――僕のお嫁さんになる道だ!」


 そんな、愉快な選択肢を吐き出した。


「……お嫁さん?」

「その通り! 君くらいの歳なら憧れるでしょ? 頼りになるお兄さんとの結婚なんて」

「えーと……」

 とりあえず自分で頼りになるって言うな。そもそも、人攫いやっているお兄さんが頼りになるとは思えないぞ。


 それはともかく、何だこの状況。何で私は、いきなりプロポーズ(?)されているのか。


「あの、私、まだ八歳ですけれど……」

「えっ、八歳!?」


 年齢を聞いた男性は、驚きを見せる。

 え、そこ驚くところ? 自慢じゃないが、私の見た目はむしろ――。


「五、六歳ぐらいだと思ったのに……」

 もっと幼いと思っていたのかよ。そして落胆するのか。


「い、いや、大丈夫。愛に歳の差なんて関係ないからね」

 良く聞く台詞だけれど、八歳女児に囁く台詞ではない。

 と言うかこの人、思い切り自分の欲望優先だけれどそれで良いのか、ともう一人の男性の方を見てみる。


「……?」

 特に疑問を感じてないような様子である。あれ、私の感覚がおかしいの?


「あの……大人しくついていったら、私はどうなるのですか?」

「んっ!? あ、あぁ、その場合は他の子と同じように、子供が欲しいって言ってる脂ぎったおっさんのところに連れて行かれるんだよ。君は頭が良さそうだから、どっちを選べば良いかは、すぐ分かるだろう?」

 いや、間違っていないかもしれないけれど、それ凄い偏見入っていないか。


 何だろう、この人を見ていると、行き当たりばったりでも何とかなる気がしてきた。


「はぁ……分かりました。なら、大人しくついていきます」

「そうか! お嫁さんに……、えっ」

「大人しく貴方たちについていきます。それで良いのですよね?」


 何でそこで傷ついたような表情をするんだ。

 こちらの世界ではどうか知らないけれど、私の中の常識では、八歳女児に真面目に求愛する人はまともじゃない。


「そ、そんな……。脂ぎったおっさんが良いなんて、そんなの歪んでる!」

 違うわ。あんまり愉快なこと言ってると、張っ倒すぞ。


「それで、私はついていけば良いのですか?」

 わなわなと震えだした男性は放っておいて、もう一人に声を掛ける。

 ……何だか、超笑顔なのだけれど。相方が振られたのが、そんなに嬉しいのだろうか。


「いや、悪いがそのまま連れて行く訳にはいかない。通りに出たところで騒がれたら困るからな」

「そんな気はないのですけれど……。なら、私に縄付けて引っ張っていきますか?」


 ちなみに、言った通りこの世界には基本的に犯罪者以外に、縄に繋がれるような存在はいない。だから、子供を縄で縛って歩かせていたら、超目立つ。


「いや、口だけ塞いで俺が抱えて連れて行く。それで顔を隠していれば、口元は見えないだろう」

 私が首の後ろに下げていたフードを指して、被るような仕草をしてみせる。

 そういえば、お爺さんと会った時に外したままだったっけ。


 仕方ないと頷いた私に、男性は猿轡を噛ませ、抱え上げた。

 くっ、見知らぬ男性に抱っこされて運ばれるというのは、想像以上に精神的ダメージが大きい。

 やっぱりやめておけば良かったという気持ちがもたげてくるけれど、我慢だ我慢。


 隣で、「あぁっ、それ僕の役目!」と騒ぐ声が聞こえるけれど、気にしている余裕はない。


「……、むぐっ?」


 って、何だか身体に回された手に力がこもり過ぎている気がする。

 心なしか、男性の呼吸も荒くなってきている。

 言っておくけれど、抱えただけで息が荒くなるような負担になるほど、私は重くない。

 どうしたことかと首を巡らせて振り仰ぐと、男性と目が合った。


「はぁ、はぁ……」

 目が合って直感した。

 こっちもアレだ。同類(ヨウジョスキー)だ。


 何てことだ。見える地雷に気を取られ過ぎて、もっと危険な存在に気が付かなかったなんて。

 この状況、ひょっとして私の人生最大の(貞操の)ピンチなのでは!


 気付いてしまうと、ほんの少しの動きですら気になってしまう。

 例えば、腕が疲れた(てい)で、もぞもぞと手を動かしているけれど、単に私の身体を触りたいだけじゃないのか、とか。

 周りを警戒するように頭を動かしているのは、本当はただ私の頭に頬ずりしたいだけなのじゃないか、とか。


 少しの辛抱だ耐えろ、と自分に言い聞かせていたけれど。


 髪を触られた。我慢した。

 背中をを指が這い回った。我慢した。

 お尻を撫でられた。が、我慢した。

 スカートに手を入れられて、脚をまさぐられた。


 我慢出来ませんでした。


◇◆◇◆◇◆


「やってしまった……」


 私の前に転がる二体の屍。いや、殺してはいないよ。

 え、大人二人をあっさりのし過ぎじゃないかって?


 だって、抱えてくれていた方は私の身体に夢中だった(嫌だな、この字面)から、胸元の理晶具からの石礫で顎を撃ち抜いて一発だったし。

 もう一人も、気絶する男性から飛び降りて駆け寄っていった私を、何を勘違いしたのか両手を広げて迎え入れようとしたので、勢いのまま急所を一蹴りだった。


 これからどうしよう。

 さすがに、ここから改めて誘拐されるのは無理がある。

 とすれば二人から情報を引き出せるだけ引き出して、次善策を考えるしかないか。


「と、その前に……」


 さすがに、このままにしておく訳にもいかない。

 とりあえず猿轡に使った布があるから、急所蹴りで倒した男性を拘束しておこう。

 もう一人の方は、もっとしっかりと拘束しておきたい。出来れば、簀巻きにするぐらいの勢いで。


「人攫いなんてやっているのだから、縄ぐらい……あ、あった」


 男性を後ろ手に縛り上げながら、腰に提げていた雑嚢を漁ってみると、予想通り一本の縄が収められていた。

 それを使って、もう一人もぐるぐる巻きに拘束していく。


「よし、これで大丈夫」


 それでは尋問を始めよう。

 ……どうやって起こそう。水でもぶっ掛ければ目を覚ますかな。

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