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成り行きで始める裏仕事

 で、指定された場所に到着した。


「……どう見てもゴミ溜めにしか見えない」


 でも場所に間違いはないし、伸ばした理力糸にも人間大の反応がある。

 ……自分の、言わば生体エネルギーみたいなもので、ゴミの中を探るというのは、結構な抵抗感がある。


「あのー、すみませーん……」


 気を取り直し、ゴミの山に向かって声を掛ける。傍から見たらおかしい人だ。

 けれど、何の反応もない。聞こえていないのだろうか。

 いや、ひょっとして、ゴミに埋もれて身動きが取れなくなっているのかもしれない。


「もしもーし!」

 少し強めに呼び掛けてみると、ややあって。


「……何の用じゃ」

 うわっ、ゴミが喋った! って、それはさすがに失礼か。

 しかし、声はすれども姿は見えず。


「と、その……頼まれて手紙を届けに来たのですけれど」

「頼まれた?」


 声から少しだけ間があって、ずるりとゴミの山から老人が這い出してきた。

 どうでも良いけれど、人一人分体積が減ったはずなのにゴミの山は崩れてこない。どうなっているのだ、これ。


 そんな疑問は頭の隅に追いやりつつ、ゴミの山から這い出してきた割りに、思いの外小綺麗な格好をしている老人に、改めて目を向ける。

 老人は、私の姿に怪訝な表情を浮かべている。


「……誰からじゃ」

「シアからです。はい、どうぞ」


 差し出した手紙がひったくられるように奪われる。

 老人は、そのまま何も言わずに手紙を読み進める。


「……わしは、これでも耳が良い方でな」

「……、はぁ」


 いきなり何の話だ。自分は老人じゃないよアピールだろうか。

 そう尋ねてみたら、比喩表現だ馬鹿者、と怒られてしまった。ですよね。


 要するに、この老人は情報の売り買いや、表に出せない仕事の斡旋を生業にしていると言うことらしい。


「えーと、つまりその手紙は、シアが売った情報ということですか?」

「まあ、間違ってはおらん。わしが買った情報ではなく、あやつがわしから買った情報の、対価として寄越したものだがな」


 ふぅん、シアが何かと物知りだったり耳が早いのは、こういう伝手があるからだろうか。

 何にせよ、深入りはしないでおこう。


「事情はよく分かりませんけれど、取りあえず私の用事は済みましたので、これで失礼します」


 変に巻き込まれては堪ったものではないので、さっさと逃げだそうとしたのだけれど。

「待たんか。話はまだ終わっておらん」

 あえなく失敗。


「最近、行方不明者が増えていることを知っておるか」

「えぇ、まあ噂程度には……」


 少し前、鍛冶屋のガレルさんから話を聞いて以来、ちょくちょく耳にしている。

 初めは下町だけで被害が出ていたけれど、近頃は一般層にまで広がっているとか。さすがに見過ごせず、守護隊の本隊でも本腰を入れて捜査を始めたらしい。


「この近くでも子供が一人行方不明になっとってな。わしがシアに求めたのは、この子供を助けられる人間の情報じゃ」

「助けられる? その言い方だと、居場所も犯人も分かっているみたいですけれど……」


 おぉその通り、と何でもないように頷かれる。

 いやいや、そんなにあっさりと犯人が見付かるのなら苦労はないだろう。


「勘違いするでない。こいつは下町のとは別口じゃよ。大方、今ならそっちの連中の仕業に見せかけられて、足が付きづらいと考えたんじゃろ」


 あ、そういうことね。それなら良く聞く話である。


「とはいえ、誰も気にしない下町(あっち)と違って、一般層(こっち)で人を攫えば目にも付く。で、実際普通に足が付いた訳じゃ。守護隊じゃあまだ別口だと認識していないから、目の付け所は良かったんじゃがな……」

「それで、その攫われた子の家族なりが、助けてくれる人を探しているということですか? でもそれなら、居場所を守護隊に知らせて任せておけば良いのでは……」

「立場のある人間の中には、表立って助けを求められない人間もいるんじゃよ」

「……あぁ、存在しないことになっている子供、とかですか」


 ある意味私も該当するのだろうか。いや、一応認知はされているから別か。

 でも、私がそういうことに巻き込まれたら、当主にはこれ幸いと見捨てられるのかもしれない。


「察しが良いの。それで連中、案外退き際が良いみたいでな。近々、“商品”を連れて都を離れるらしい」


 この国では、“人”を商品にすることは禁じられている。その辺りは結構しっかりしているのだ。

 なので、物語のように奴隷市場でヒロインと運命的な出会いをする機会は、残念ながらないのである。

 まあ例外として、犯罪者が刑罰としてなる“犯罪奴隷”と、戦争などで捕虜になった兵士が返還交渉などで折り合わずになる“戦争奴隷”はいるので、ワンチャンなくはないけれど。


 ともかく、王都で堂々と人身売買をするつもりはないということらしい。


「そういう訳で、助けるのなら急がんといかん。準備は出来とるのか?」

「……? 準備って何のですか?」

「助けに行く準備に決まっておろう」

 ……んん? 意味が分からない。


「どうして私が準備するのですか。私は手紙を届けに来ただけですって」

「何じゃ、何も聞いておらんのか。シアが寄越した文に書いてあるのはお前さんのことじゃぞ」

「いやいや、聞いてませんし。そもそも私みたいな子供が一人で、何が出来るって言うのです」

「そうは言っても書いてあることは事実じゃしな」


 ほれ、とシアからの手紙を渡される。

 えーと、何々……。


『爺様へ

 先日の件、この手紙を届けた子を推薦します。

 一見、ぽやーっとした世間知らずのお嬢様で、実際ぽやーっとしていますが、その分人が良いので引き受けると思います。

 何だかんだと渋るのは、形だけですので気にしないでください』


 ふぅん、シアは手紙の時に敬語になるタイプなのか。

 ではなく。


「…………」

「おいおい、無言で人の手紙を破ろうとするでない」


 はっ……! あまりの内容に、無意識に手に力がこもってしまった。


「――こほん。手紙については、言いたいことは色々とありますけれど、それはシアに対してなので置いておきます。それで、まさかこんな手紙で信用しようなんて考えませんよね?」

「いや、引き受けるのなら任せるつもりじゃが?」

「何でですか……。何処の馬の骨かも分からない人を紹介して失敗したら、信用問題でしょうに」


 (そっち)の世界では、何より信用が大事なのじゃないのか。それを、ほいほい初対面の、それも子供を使うって有り得ない。


「ま、シアには紹介しろと言ったが、自分で引き受けると思っておったのは確かじゃがな……。が、他人を信用しないあ奴がここまで推薦するんじゃ。大丈夫じゃろ」

 えぇ……何なのその信頼関係。シアは貴男のことを苦手だって言っていましたよ?

 と言うか、この手紙って私のことを真面目に推薦しているように見えないのだけれど。


「……それ、私が断ったらどうなるのです?」

「別にどうもせんよ。わしはあくまでも仲介役じゃ。ま、一応、他を当たってはみるがの」

「当たってみて、見付からなかったら?」

「さてな。依頼人は他の伝手で何とかするかもしれんし、形振り構わず守護隊を頼るかもしれん。ま、間に合うかは五分五分か、それより悪いだろうがな」


「もし間に合わなかったら……」

 あぁ、聞いてしまった。どう考えても聞かない方が良いことなのに。


「予定通り売られて終いじゃろ。ま、わざわざ高い金で買われるんじゃ、運が良ければ今より大事にされるかもしれんぞ」

 非合法の奴隷を、まともな理由で買おうとする人間がいるとは思えない。まともじゃない欲望の捌け口にされるということだろう。

 それはつまり、運が悪ければ死ぬよりひどいことになるかもしれないってことだ。


「はぁ……」

 私は、人が良すぎるのだろうか。

 一歩間違えれば、自分がそうなる羽目になるというのに、見知らぬ誰かを見捨てられないなんて。


「――分かりましたよ引き受けます。でも、真正面から乗り込む何てこと出来ませんからね? もっと穏便な方法でやります」

「分かっておるよ。シアが引き受けると思っておったから、そういう方向で下準備はしてある」


 薄く削った木の皮で作られた人相書きを渡される。

 そこには、何処か気の弱そうな男の顔が描かれていた。

 

「この人は?」

「さっき言った子供を攫った男じゃよ。今の時間なら、この先にある安酒場にいる。酒場の人間に、この近くでいなくなった友人を探していると尋ねて回れば、相手から声を掛けてくるじゃろ」

「はぁ……つまり良いカモが現れたと思わせて、同じように攫われろと、そういうことですか」


 そういうことじゃ、と頷かれる。


「相手も大所帯という訳でもない。お前さんの(なり)なら油断されこそすれ、警戒されることはないじゃろ。油断したところで、ぶすりと一発よ」

「そんな物騒なことはしません」


 それはともかく、そんなに上手くいくだろうか……。

 私、何処にでも……いるとは言えないけれど、ただの幼女なのだけれど。


 取り敢えず、攫われた子供がいるという場所を聞き、念のため人相書きも頭に留めておく。


 まあ考えてみれば、別に私一人でやる必要もない。依頼人が直接守護隊を頼れなくても、結果的に守護隊に助けられた、という形なら問題はないはずだ。

 急ぐと言っても、分室に戻って事情を話す時間ぐらいはあるだろう。本隊はどうか知らないけれど、フットワークが軽いのが我が分室の良いところだ。


 お爺さんに別れを告げて、来た道を引き返す。


 さてそれじゃあ、分室の誰に、何と説明して手伝ってもらうことにしようか。

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