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後始末

 どうしよう、なんて考えたところで、結局出来ることは限られているわけで。


「おー、よく燃えるよく燃える」


 フラムさんの下から這い出した私は、団長がバラバラにした人形を火にくべていた。

 幸い、地下の部屋は床も壁も石造りだったし、灯りに蝋燭が使われていることから酸素の確保にも問題がないことは分かっていたので、躊躇いはあまりなかった。


 とはいえ。


 人の形をしたものが、炎に巻かれて焼けただれていくのを見ているのは胸に悪い。しかも、鼻をつまみたくなる程度には臭いもひどい。ひょっとして、焼ける臭いまで人と同じなのではないか。


 叶うならこの場を離れたいけれど、万が一火が着いたまま動き回られて、延焼しようものなら目も当てられない。

 何しろ、焼けてなお、各パーツが蠢いているのだ。


 うーん、しばらく肉類は食べたくないかもしれない。


 やがて動くものもなくなったころ、顔をしかめた団長が戻ってきた。


「ひどい臭いだな、おい……。にしても、この短時間でよく燃えたな」

「いえ、燃えやすい素材だったのか、あっという間でしたよ?」

「素材は関係ないだろ。人の身体なんて、ほとんど水だ」


「……へ? いやいや、いくら名前を屍人形にしたからって本物の訳がないじゃないですか。やだなぁ」

 ははは、冗談きついって。


「生きてたか死んでたか、と言われれば多分死んでたとは思うが、あれが人間の身体だったのは間違いないぞ。何であんなことになってたのか、タネは分からんが」

「……、本当に?」


 頷く団長。


 えぇ……そういうことは先に言っておいてほしい。

 普通、死体を勝手に火葬したら大問題だ。


 団長は燃やしたことに問題を感じているようには見えないけれど この世界、死体損壊罪とかないのだろうか。


 それなら、まあ、あんな状態でいるよりは、安らかに眠らせてあげた方が良かったとも言える。むしろ私は、良いことをしたのではないだろうか。

 ……うん、そういうことにしておこう。


「それで、団長のもうひと……、一体の方は……」

「ん、おぅ。ちっと、端切れが必要でな。部屋の中になかったか?」

「端切れ? それなら隅の方に、ずた袋がありましたけれど……何に使うのです?」

「戦利品の保管」


 団長がその手に提げた“戦利品”を掲げて見せてくれる。

 首級(くび)である。


「いやいやいや、戦場じゃないのですから」

 戦利品扱いはないだろう。


「まあ、さすがに冗談だが……こんな得体の知れないものが街中にいるとなったら、放っておく訳にもいかん。が、口で言ってすんなり理解されるとも思えないだろう」

 さすがにこの世界でも、死体が動くのは常識外れか。


「それなら現物を……あれを見せれば一発だ」

 顎をしゃくって部屋の入口を示す。


 見れば、バラバラになった人のパーツがずるずると床を這って、団長を追い掛けて来ていた。手や足だけでなく、どう考えても動きそうにない胴体の一部も混じっているのだけれど。

 どうやって動いているのだ、あれは。


「……え、あのまま放っておくのですか?」

「あの入口なら出てこれん。それに、この部屋なら扉もある」


 扉を開けるような知能はないらしい。それに確かに、腕一本脚一本でこの地下から脱け出せるのなら、これまでの私の苦労は必要なかった訳で。

 団長が良いというなら、任せておこう。


「にしても……」

 さて、そういうことなら、そろそろフラムさんにも起きてもらおうか。

 いやでも、手やら足やら這いずっているのを見たら、また気絶するかもしれない。

 このまま、団長に背負ってもらった方が面倒はないかも?


「随分あっさりしてるんだな、リリ」


 言われた言葉に、身体の動きが止まる。


「……やっぱりそう思いますか?」

「まあ、そっちで寝ている嬢ちゃんの反応が普通とまでは言わんが、その反応の薄さはちっと、な」

「…………」

「生き死にを理解していないって年齢(とし)でもないだろう? むしろ何と言うか……興味を引かれていないって感じか」


 うまい言い方だ。

 自分でも驚くぐらい、死体そのものに対する忌避感はない。

 ひょっとして私は、この世界で目覚める前、死体を見慣れるような殺伐とした生活をしていたのだろうか。

 平和な暮らしをしていたと、そう思っていたのだけれど。


「っと、悪い悪い。だから何だってことでもない。考えようによっては、冷静に行動出来るってことでもあるからな」

 言葉を返せない私をどう思ったのか、団長は頭を掻きながら、フォローのような言葉を口にして話を打ち切った。

 そのまま、壁際に転がっていたずた袋に首を仕舞い込み、部屋から出ていこうとする。


 その背中に、私は。


「……団長」

 まとまらない考えの中で、それでも言っておかないとならない言葉を投げ掛ける。


「フラムさんを忘れてますよ。私じゃ運べません」

「……、おう」


 いや、フラムさんぐらいなら背負えるのだけれどね。


◇◆◇◆◇◆


 それからは何事もなく事が済んだ。(意識を取り戻したフラムさんが、自分に括り付けられたずた袋の中身を見て、再度卒倒するという一幕はあったけれど)

 今回の件の後始末については、団長が自分に任せておけと言うので、放り投げるのも申し訳ないとは思ったもののお言葉に甘えてしまった。

 

 団長に指摘されたこともそうだけれど、そもそも自分の姿形(どころか性別まで)が変わったことを認識しているのに、そこまで違和感を感じていないって、改めて考えてみると妙な話だ。

 これが噂の異世界転生かっ、というテンションで流していたけれど、それで済むものでもないだろう。


 使えなかったはずの理術が使えるようになっていたり、理力の流れが見えるようになっていたりということもある。ひょっとして、何処かが致命的におかしくなっていたりするのかもしれない。


 そんな訳で、色々とゆっくり考える時間が欲しかったのだ。

 けれど。


「――こんな小さな娘が……へぇ~」

「ふふふ~、驚くわよね~。でも本当なのよ~」


 翌日。

 何故か私は、金の髪も鮮やかな女性に、髪や身体をぺたぺたとまさぐられていた。


 朝、職場に顔を出してすぐ、昨日の件でちょっと、とメルリアさんに言われ、連れてこられたのはまさかの王宮。だからと言って、もちろん王族に面会に来たわけではないのだけれど。


「あの、メルリアさん。この方は一体どなたなのぇひょぅ……」

 うにー、と両頬を引っ張られる。伸びる伸びる、じゃないってば。


「彼女はるーちゃんって言って、この国で一番の理術士さんよ~」

「はぁ……その一番の理術士さんが、どうして私の身体を弄んでいるのでしょう……」

 放っておくと、服の中にまで手を入れてきそうな勢いなのですけれど。一番の理術士になると、女の子の身体を触り放題なの?

 何それ羨ましい。私も目指したい。


「ふふ、ごめんなさい。貴女が可愛らしかったものだから、ついつい」

 私の言葉に我に返ったのか、るーちゃんと呼ばれた女性は手を離してくれた。


「こんにちは、私はルーシャ。何を基準に一番というかは分からないけれど、理術士をやっているわ。よろしくね」

「あ、はい。私は――」

「クレイルシルト家のリリね」


 何と。既に素性もバレているらしい。自己紹介に迷わなくて済んだけれど、メルリアさんから伝わったのだろうか。


「実はりーちゃんが理術を使えるって聞いたから、少し相談していたのよ~」

「相談? いやでも、私は別に理術士になるつもりはないのですけれど……」

「あれ、知らなかった? 理術が使える人は、職業に関係なく、全員国に届ける必要があるのよ」

「と言うか~、普通、生まれたときに調べられて~、才能があるような子は~、紐付けられちゃうものなんだけど~」


 ああ、そういえば聞いたような気もする。この国では、生まれてすぐに理術の才能があるか調べられるとか何とか。私に才能は無かったらしいけれど。


「ちょっと、メルリア。その言い方だと、国が何かを強制するみたいに聞こえるじゃない」

「でも~、理晶具の購入を国が補助していることなんかを説明しているんでしょう~? 民生品と言っても、一般家庭には結構な負担だものね~」

「理術士が増えることは国益にも叶うんだから。別におかしいことじゃないでしょう?」

「そうよね~。補助する代わりに、国の要請には必ず応えることって言ってるのも、おかしなことじゃないわよね~」

「あ、当たり前じゃない、慈善事業じゃないんだから。それに、ギルドだって同じような条件で独自に補助をしているくせに」


 何故か言い争いを始める二人。けれど互いに楽しそうである。きっと仲が良いのだろう。


 ……私、もう帰って良くない?

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