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合流

「……つまり、あれは人間ではなくて人形ですの?」

「そうですそうです。だから、断面を見たら身体を動かしていた仕掛けが……」


 なかった。

 首のもげた人形の身体には、生々しく赤黒い断面が覗いていた。


 あれ、本物? 本物の……人間?


「どうしたんですの? 何か見つかったんですの?」

「――いえ、何でもありません。ところで、フラムさんはどうしてここに? 穴が塞がってから暫く待っていたのですけれど……」


 うん、見なかったことにしよう。

 これは人形。ちょっと断面とかのつくりに、力が入りすぎちゃっただけの、ただの人形。


 自分に言い聞かせながらも、人形に近づこうとするフラムさんの進路をさり気なく遮っておく。

 それが奏功してか、単純に気味が悪いからか、フラムさんは唐突な話題の転換にも気にすることなく乗ってきてくれた。


「あ、それがあの後、同じようにしても床が開かなかったんですの。それで、仕方なく人を呼びに一度外に出たんですの。そうしたら、出てすぐのところで室長さんとお会いしまして……」


 室長……ああ、団長のことか。

 それは珍しい。この近くに行きつけの酒場でもあったのだろうか。


「え? なら、団長が一緒なのですか?」

 それにしては姿が見えない。部屋に入ってきたのはフラムさんだけだ。


「あ、あれ? さっきまで一緒にいたはずですの。何処へ行ってしまったんですの?」

「あー……ならきっと、先の部屋に向かったのだと思います。取り敢えずそちらに行ってみましょうか」


 基本、自由な人なので何か気紛れでも起こしたのだろう。

 むしろ、フラムさんに呼ばれてわざわざ助けに来てくれたのが意外……というのは、仮にも守護隊の人間に向かって失礼だろうか。でも団長だしな。


「わ、分かりましたの。確かにこの部屋、気味が悪くて早く出たいですの」

「まあ、そうですね。人形とはいえ、バラバラになった人型は、見ていて気持ちの良いものではありませんよね」

「あ、いえ、そちらではありませんの……いや、それも十分気味が悪いですけど、こっちのことですの」


 そう言ってフラムさんが嫌そうな顔で指をさすのは、人形が凭れ掛かっていた壁。

 そこには、禍々しい幾何学模様が血のような塗料で描かれている。


「確かに、薄気味悪いですけれど……」

 バラバラ人間よりはマシなのでは?


「だってこれ、“外れ”を神の遣いだなんて言ってる、ちょっと頭のおかしい人たちが好んで使うシルシですの……知らないですの?」

「えー……聞いたことがあるようなないような……」

「……その反応は間違いなく聞いていませんの。聞いていたら忘れるはずがありませんの」

「そ、そんなにですか?」 

「だって、ルーテリーア教の教えに唾を吐いてるような存在ですの! 考えられないですの!」


 フラムさんがぷんぷん怒る。この国は敬虔な信徒が多いのだろうか。

 だとすると反応に困る。国教でしたっけ、とか言ったら引っ叩かれそうだ。


「あー、そういえば“外れ”って名前、ルーテリーア教が付けたものなのでしたっけ」

「そうですの! それを崇めるなんてとんでもないですの!」

 理から外れているからとか何とか。

 であれば、まあ、信徒からすればこういう反応になるのも致し方ないのだろう。


 その上、人間は“外れ”に飲まれ、取り込まれることで神の御許へ召されると考えているらしく、人を攫っては取り込ませているなんてと噂されているのだとか。

 うーん、まさにありがた迷惑。本人たちは、人助けのつもりかもしれないけれど。


 何にせよ、何処の世界でも狂信者とかカルトとか、そういうものはいるのだな、と思いました、まる。


◇◆◇◆◇◆


 さて、いきなりいなくなった(らしい)団長の行方を求め、部屋を後にした私たち。

 図ったようなタイミングで、通路の奥から何かが崩れるような音が聞こえてきた。


 フラムさんと顔を見合わせる。


「……何かいるみたいですね」

「何かって何ですの。室長さんに決まってますの」


 通路を進んでいくと、すぐに扉に行き当たる。初めは薄暗くて分からなかったけれど、この地下はそんなに広くはなかったらしい。


 おもむろに扉へ手をかけたところ、慌てたようなフラムさんに制止される。


「こ、声を掛けなくても良いんですの……?」

「え? いえ、だってもし団長じゃなかったら大変じゃないですか」

「だからっ、室長さんじゃなかったら何がいるって言うんですの!」

「えー……」


 動く死体?

 などと言ったら怒られそうだ。


「――まあ、開けてみれば分かりますよ。念のため、灯りは消してくださいね」

「え、あ、ちょっと待っ……」

 わたわたと慌てるフラムさんを置いておいて、扉を少しだけ開けてみる。


「あ」


 隙間から覗き込んだ私の視界に飛び込んできたのは、見覚えのある後ろ姿――団長が、向かい合った人間の首を刎ね飛ばしている姿だった。


 人頭が、ぽーん、とボールのように宙を舞い、やがて壁にぶつかって落ちる。


 切断部から血が噴き出してこないあたり、やはりさっきと同じ人形なのだろう。


「あ、あわわわ……く、首……! 首が……!」


 中々にショッキングな光景に、うろたえるフラムさんを宥めようと思ったところで、団長が動く。


「――ふっ!」


 頭を失い頽れそうになっていた人形へ、止めとばかりに更に剣を奔らせる。

 一瞬間があって、剣の軌跡に沿って人形の身体がバラバラと崩れていった。


 見事なものだ。素人から見ても、その技量の高さが見て取れる剣捌きである。


 というか、団長が握っているのは良く見ると剣じゃない。剣より大分短く、ナイフより長い……包丁か、あれ。どこから持って来た。


「――――?」


 と呆れていると、ふと何やら圧迫感を感じて振り返る。けれど少し遅かった。

 目の前で起きた光景に、どうやら精神のキャパシティが振り切れたらしいフラムさんが、私に覆い被さるように倒れ込んでくる。


「――ふぎゃっ……!」


 支えようとしたものの、急なことだった上に体格差もあって、そのまま下敷きにされてしまう。


「お? おぉ、リリ。生きてたか、心配したぞ。……何してんだ?」

「……お陰様で。見ての通りです」

「おいおい、会ったばかりだってのに随分仲が良くなったじゃねぇか。だが、いかんぞ女同士じゃ。子どもが出来ん」


 何言ってるんだ、この人は。

 どう見たらそんな言葉が出てくるのだ。


「……そんなことより団長。それは……」

「あん? 屍人形のことか?」


 かばねにんぎょう。随分と不穏な名前である。

 ひょっとして、本当に動く死体だとでも言うのだろうか。


「良く分からんな。こんなもん見たことも聞いたこともねぇ」

「? なら、どうして名前を知っているんです?」

「そりゃお前、今付けたからに決まってるだろ。どうだ、格好良い名前だろう?」

 えぇ……、そんな誇らしげな顔をされても。


「はぁ。まあ、言い得て妙な名前の気はしますけれど……。でも、人間ではないのですよね?」

「俺の知ってる人間は、真っ二つにされた身体が独りでにくっついたりはしないな」

「それはそうでしょう……って、え? くっついたのですか? 勝手に?」

「おぉ、上半身と下半身がそれぞれ這いずって、元通りに繋がったのは見物だったぞ」


 そう言ってからからと笑う団長。笑うところかな、そこ。


「まあ、それはともかく、バラバラにでもしてやれば大丈夫かと思ったが……」


 言葉を区切り、足下に転がった塊を爪先でつつく。

「ダメだな。時間は掛かりそうだが、元に戻りそうだ」


 倒れ込んだままだと、今ひとつどうなっているのかよく見えないけれど、声のトーンで何となく想像が付く。

 バラバラになっても元通りって、何だそのインチキ。


 ん? そうすると、さっき私を襲った人形も甦っていたりするのだろうか。


「……あの、団長。私、さっきそれと同じものに襲われて、放り出してこちらに来たのですけれど」

「何だ、ほかにもいたのか。じゃ、リリ。こっちのバラバラにした奴の後始末は任せたぞ」

「……は? 任せたって、何をどう――」

「知らん。それも含めて任せた!」


 言い置いて、団長は(とフラムさん)を跨いで通路へ出ていってしまう。ちょっと、せめてフラムさんを起こすぐらいしてくれても良いのではないですかね。


 バラバラの残骸と二人(一応フラムさんもいるけれど)、部屋に取り残される。


 何とかしろで何とかなるなら、世の中苦労はないのだけれど。

 さて、どうしよう。


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