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外れたもの

「――つまり、詳しいことは誰も分かってないのですか?」


 “外れ”。正式には“外れたもの”と呼ばれているその存在については、分からないことだらけらしい。


「そ。名前だって、ルーテリーア教がそう呼んでいたからって定着したものだし」


 何でも、生き物なら持っているはずの理力を一切持たないことから、“理から外れたもの”ということでその名前を付けられているそうだ。

 相変わらず、右目が疼きそうな単語である。


 その行動様式は単純明快。

 ひたすら生あるものを求めて這い回り、その身に取り込もうとする。

 ただ、植物だけは例外で、一定程度大きさがないと取り込む対象にはしないらしい。


 取り込む優先順位はあるようで、一般的に知能の高いものが狙われる。つまり、家畜と人であれば人が狙われるということだ。


「人も食べるのですか?」

「もちろん。見境無しだよ」


 食べる、といっても、それが栄養補給のためかは疑問だそうだ。自分の体積以上の家畜を取り込んだ例もあるとか。

 その上、人どころか魔獣だって食べるらしい。


 摂食方法は、まあ、怖い方のスライムをイメージすれば分かりやすいだろう。

 あのぶよぶよした身体で覆い被さり、獲物を身の内に収め消化する。


 って、あれ?


「さっきレンさんは素手……というか直接触っていましたけれど、大丈夫だったのですか?」

 確か、散々殴る蹴るをしていたはずだ。普通に考えれば接触した時点で、取り込まれるのではないだろうか。


「あん? 大丈夫じゃねぇように見えるか?」

「見えないから聞いてるのですけれど……」

「それが不思議なところでね。何かの形を取った“外れ”は、摂食部位がその形の口に当たるところだけになるんだよ」


 何でそんな面倒なことを、と思わないでもないけれど、そういうものだと言われてしまえばそういうものなのだろう。


「んー……なら、不定形よりも何かの形をしている方が、まだ安全なのですね」

 人間を丸呑みできるような口を持つ生き物なんて、そうはいない。触れもしないようなものよりは対処もしやすいだろう。現に、レンさんも対応出来ていたわけだし。

 そう思ったのだけれど。


「齧り付いた口を起点に、身体が裏返って牛一頭を丸呑みにしたなんて例もあるがな」

「それに、さっきみたいに成ったばかりなら動きも鈍いけど、成ってからしばらくすると、元になった生き物と遜色ない動き方をするようになるよ」


 つまり、もし狼の形を取った個体がいたら、狼の素早さで飛び掛かり、噛み付かれたが最後哀れ丸呑み、とそういうことか。

 何それ、インチキ。


「……さっきのは人の形をしていましたけれど、どうやってあの形に? 偶然ですか?」

「さて、理由は分からないけど。ただ、形については何でも有りだよ」


 人の形を取るものもいれば、獣や虫の形を取るもの、植物のものまでいるらしい(植物の形になっても歩けないと思うのだけれど)。

 大きさに至っては、全長が人の数倍あるものも確認されているとか。


 頭の中に、人の胴体ほどもある茎から大きな花弁とぐねぐねと蠢く蔦を生やし、自走する巨大花の姿が思い浮かぶ。

 何というファンタジー。いっそ、倒したらお金を落としたりしないだろうか。


「形に、何か意味があるのでしょうか……」

「どうだろ。食べたものの形を模倣してるって、誰かが言ってたような覚えはあるけど」


 おぉっと……なら先ほどの“外れ”には犠牲者がいたということになる。個人を特定できるような素振りを見せなかったのが、救いと言えば救いかもしれない。

 でも、元になった生き物と同じように成るということは、人間らしく振る舞う“外れ”も存在するのだろうか。

 そういえば、何か言葉を発そうとしていたっけ。


「じゃあ、人のように振舞う“外れ”が何処かにいるかもしれないのですか……それは、何だか怖いですね」

「いや、それはないんじゃない? 絶対とは言わないけど、不思議と人間の形を取った“外れ”って、時間が経っても動きがぎこちないらしいし」

「お陰で、対処しやすくて有難いなんて言われてるぐらいだからな」

「え? でも喋ろうとするぐらいだから、いないこともないのでは?」


 私の言葉に、二人が顔を見合わせる。


「喋るぅ? それこそねぇだろ。どれだけ形を真似ても、頭の中まで真似出来てるようには見えねぇよ」


 例え、どんなに優れた身体能力のある生き物の形になっても、やることといえば、ただひたすらに目に付いた生き物に襲い掛かるだけ。

 基になった生き物の行動、例えば狩りの仕方などを真似ることはない。

 それが常識だという。


「それに、そもそも人の言葉どころか唸り声一つ上げないからね、アレ」

「いえ、でも私は確かに……」


 言葉にはなっていなかったかもしれないけれど、何かしらの音を発していたのは間違いないはずだ。唸り声一つ上げないということはないはずだ。


「……リリ、君はちょっと疲れているんだよ。人間、休むことも必要だよ?」

「いくら金が要るからって、仕事のし過ぎはやめとけよ」

「……私の仕事の一部には、お二人がやるべき仕事が――」


「――おっと、そんなことより、肝心の対処法を教えてあげないとね!」

 ちょっと、話題逸らしが露骨過ぎでは? ほとんど諦めているから良いですけれど。


「まあ、対処法って言っても、完全にどうにかするには、さっきみたいに理術で燃やすしかないんだけど」

「普通に燃やすのではダメなのですか?」

「ダメ。火の中でも平然と動き回ったみたいだよ」


 昔、廃屋に“外れ”を誘い込んで、火を放ったことがあるらしい。家屋が完全に燃え落ちた後には、最初と変わらない姿の“外れ”がいたのだとか。


「……なら、理術の火を種火にした炎とか」

「あ、良いところに気が付くね。それなりに効果はあって、“外れ”が火を避けようとするから街の入り口とか門の篝火とかは、理晶具で火を点けてるよ」


 火力は必要ないから、民生品の理晶具でも効果を発揮するため、ポピュラーな対処法であるらしい。

 とはいえ、あくまでも消極的な対処に過ぎず、撃退には純粋に理力を基に発生した炎でなければならないのだそうだ。


「じゃあ本当に、理術士以外の人が遭遇したら逃げる以外ないのですね……」

「そういうこと。だから、見掛けた場合は最寄りの守護隊に連絡するようにってお触れが出てるの」

「でも理術士って、数がそんなに多くないのですよね? 大きな街ならともかく、小さな村ではどうしようもないのでは?」

「いやいや、大きさ関係なく、どの町や村でも守護隊みたいな治安組織はあるからね? 理術士だって、状況に応じてちゃんと国から派遣されるし」


 あれ、そうなのか。こういうのって大抵、辺境の村なんかは放っておかれているものかと思っていたのに。そして、異世界から現れたヒーローが、何やかんやと活躍するのでは。


「……どんなことを想像してるか分からないけど、自分の国の民が住むところの安全を確保しないって、統治者としてダメでしょ」

「ま、亡国一歩手前、なんて状況ならあるかもしれねぇがな」


 言われてみればそうだ。この国の統治機構が健全で何より。


「ちなみに、際限なく増えるということでしたけれど」

「あー……ごめん。際限なくって言っちゃうと少し語弊があって……」


 “外れ”が、分裂増殖を行うということは分かっているけれど、具体的に何をきっかけに分裂するかは、はっきりしていないという。

 唯一、物理的に分割された場合は、確実に増殖するらしい。

 しかも、分割された個体も、そうやって増殖した個体も、何故か元々の一体と大きさは変わらないらしい。つまり、十の大きさの個体を半分にしてしまうと、十の大きさの個体が二体になるということだ。

 物理法則とか何処へ行った。


 そういえば、先ほどミーネさんが“外れ”の腕を弾いてくれたとき、剣は鞘に納めたままだったっけ。


「そういう訳で、理術士じゃない人にとっては、天敵みたいな輩なんだよ」

「はぁ……聞けば聞くほど不思議な生き物……生き物? ですね」


 そもそもどうやって生まれたのだろう。よくあるSFなら、科学実験の結果、美香k人生命体が生まれたりするけれど。

 でもこの世界、科学はあまり発展していないから……誰かが錬金術で人間を創ろうとして失敗したとか。

 ははは、まさかね。


「相手すんのは色々と面倒な野郎だが、要するに寄るな触んな、見掛けたら報告しろってことだ。……自分なら何とか出来るかもしれねぇからって、わざわざちょっかい掛けんなよ?」

「いやいや、掛けませんよ」


 降りかかる火の粉は払うけれど、好き好んで危ないことしたいなんて思いません。

 転生幼女リリは、静かにひっそり暮らしたいのである。

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