陰の物語1
『散々な言われようだったね。同情するよ。』
家に帰り、ご飯を食べようとした矢先だった。父親から今日の帰宅時間について文句を言われ、そこから入院費、学校の皆への迷惑だの、自分達に迷惑だの云々言われ、今はベッドの上で横になっている。
不思議と以前のような自己嫌悪に陥らない。彼等を捻るように殺せる力を持っている余裕なのか、そもそも耳を貸している余裕がないほど情報の整理・理解に一生懸命になっていたからなのか分からないが気分は悪くはない。
そうだ。一先ず今の状況を簡単に整理しよう。
僕がクリエイターとなり、雲秋君はパーティシペイターとなった。人間としての生活に支障はないが姿を変える毎に記憶が欠損するおそれがある。
そしてそんな僕達の役割は
「悪人を殺し、生まれるTHREATを殺し、最後にDISASTERを殺すこと。このループを永遠に繰り返す…と。」
『あぁ。その認識で間違いない。とはいえ、殆どのパーティシペイターはそんな役割放棄してるんだけどね。』
パーティシペイター側にある腕の装置を扱わなければ役割の放棄自体は簡単らしく、この裏技が広まってから誰も役割に従事しなくなり私利私欲の為に力を振るうようになった。結果として外国ではパーティシペイター達が国の権力を握っているという。
『本来、パーティシペイターは咎人の発見装置であり、清算装置だった。あの方に選ばれたスカウターが罪人をパーティシペイターに変え、罪人に罪人を裁かせる。そして、一定量の罪人が死ぬと比較的善寄りである人間をTHREATやDISASTERに変え、パーティシペイターを撲滅する。ただ、パーティシペイター側の戦力が善人のそれを大きく上回ってしまったことによりこの前提は崩壊してしまったのさ。』
「ん?それだと役割と矛盾してるじゃないか?」
『あぁ。だから役割はどちらかというと後付けなんだ。前提の崩壊をきっかけにあの方のガバガバルールの穴を突く者がワラワラでね。なんとかスカウター側でパーティシペイターを統治しようと作ったのが先の役割だ。まぁ、それもガバガバだったわけだが。』
じゃあ、無理に役割を果たす必要はないってことか。悪人といえども人殺しは避けたい。
『そうだね。奴に狙われたら逃げるか戦闘を取るかってこと以外は基本的に君の日常に支障はないよ。多分ね。』
最後の保険が気になるが、信じるしかない。それに、奴の話題が出たことだし奴についても整理しておこう。
「奴…トリプルネームの目的は世界の新生。そのためにはクリエイターの力が必要。だから僕を狙ってる。」
『その通りだ。奴は世界を新生して全人類が平等を享受できるようにすると言っている。でも、そんなのはつまらないから止めないと駄目だ。』
口ではこう言うが頭では別のことを考えているのが前任者の悪癖だ。全人類が平等を享受するということは全人類が平等を享受しなければならないということになる。これはほぼ同じ意味であり、そうなると平等を享受しなければ罰則が課される。罰則が課されるということは誰が全人類を見ているということであり、それは最早監視社会の完成だ。
そして、その監視者が奴になる。
これは確かにつまらない社会と捉えることができる。
「全人類の自由を生贄に平等を達成する…これが奴の世界新生……。」
『そうだよ。これは絶対止めなきゃいけないと思うだろう?』
だが、皆が平等なら傷つく人間が生まれないってことじゃ…
『そんな都合のいいことがあるものか。全く。君もそっち側か。そもそもね、人として生まれた以上は平等なんて不可能だ。平等って言葉は機械に向けられたものであって人間じゃない。』
「柄になく必死じゃないか。そんなに平等が嫌いなのか?」
『人間としての感性があるのなら嫌うのは普通のことだと思うけどね。君だって快楽殺人犯と自分が同等に扱われるべきだなんて思っちゃいないだろう?』
「一体どうしたんだ。前提から滅茶苦茶じゃないか。」
前任者は余程気に食わないらしい。とはいえ、僕個人としては興味がある。次に会った時に話し合えるのであれば詳しく聞きたいところだ。
そんな僕の考えに口を酸っぱくして前任者が拒否を出し続ける。
今日はもう疲れたことだし、こいつのことは無視して寝てしまおう。
『………その記憶も無くしてしまったのか…。まぁ、好都合だ。』




