裏の物語6
「この際だ。誰でもいい。」
カランカランと全身の装飾を鳴らし、2mを超えるようなピエロは僕を素通りし俾涅華の母親の方へ向かう。
「…よせ!やめろッ!」
僕は走って、クリエイターの前に大字で進路を防ぐ。
「君も勝手じゃないか。君はクリエイターにならないんだろう?なら、さっさと手を引いたらどうだい?」
「断る!」
俾涅華の母親は腰が抜けて立ち上がることすらできない。だから何としても、僕が守らないといけない。僕にとっての恩人なんだから。
でも……僕に何が出来る………?
「………あまり邪魔をするなら君を殺すことも視野に入れるよ。灯君。」
その言葉で一気に全身の力が抜ける。完全に油断していた。相手は動物を沢山殺した奴だ。やろうと思えば人間なんてすぐに殺せる。
かろうじて立ててはいるが大の字に開いた腕は落ち、足もガクガクと震えが止まらない。冷や汗で背中がびっしりと濡れ、視界は恐怖の涙で見えづらくなる。
それでも。立たないといけない。俾涅華の母親をクリエイターにして日常を奪うようなことをしてはいけない。家族を殺した奴の正体が実は母親だったなんていう誤解が起きてしまうし、何より、俾涅華には母親と父親が必要だ!
「逃げなさい!灯君!」
「出来ませんッ!」
左側から強烈な質量を伴った痛みを感じると同時に僕の身体が宙に浮いたと思うとすぐに病院のコンクリートの壁に叩きつけられ身体がめり込む。
「ガハッ!?」
ひどい耳鳴り、ひどい頭痛、猛烈な吐き気、閉塞感、ぼやける視界。あり得ないまでの全身の悲鳴。
脳内で痛いという言葉が反響する。
呼吸が出来ない。
「や……め……ろ……ぉ……ッ。」
かろうじて言葉は紡げたが、殆ど音として機能していない。このままでは確実にやられる。
僕はかねてより考えていた最悪の行動を取ろうと再び言葉を紡ごうとする。
「ぼ……く……が………ぁ…。ッハァ…。ぼ……く……が…………。な………ッ!?」
僕がなる。これしか他に手段はない。だから決意を表明しようと精一杯、必死で酸素を取り込んで吐いて音を出し、最後の一文字を放とうとしていた矢先、一筋の白い光が軌道を描いて一直線に地面に落ち、赤い液体を噴出させた。
「…………あ……ぁ………あ…。」
酸素不足でまともに機能していない癖に僕の頭は俾涅華の母親が殺されたのだと繰り返し高速で反響する。
「望みのままに。灯君!」
突然胸の中央に光が刺さり、口から血が噴き出たかと思うと無理矢理引き抜かれ、上空に跳び上がる。
「よせ!クリエイターッ!」
「翻訳」
クリエイターの腕が胸の中央に刺しこまれ、そこから白い液状のドロドロとしたナニかが溢れ出し僕の全身を蚕の繭のように円形に覆い尽くす。
四肢が破裂し別の太い腕や足に創り変えられる。腹も、内蔵も頭も全て別のパーツに創り変えられていく。
そのパーツの全てがクリエイターと同じものだ。あの装飾や衣装は身体の一部だったわけだ。
顔面が道化の泣いている仮面に変化した後に繭が解け、液体となって身体に吸収される。その影響で、全体的に太り、身長を2mを超えた。
頭の中に一気に情報が送り込まれる。自分が何者になったのか。これからするべきことはなにか。ただ、僕の視覚情報がその中の何よりも高いウェイトを占めた。
「………クソッ!」
「チッ。戴冠させたのか…ここにッ!」
目の前にいるのは先ほどまで雲秋と戦っていたトリプルネーム。周囲にいないクリエイター。そして、そいつの物と思わしき白銀の剣が俾涅華の母親を真上から貫いている光景。僕がいた場所に刺さっている光景が鮮明に情報として脳に送り込まれる。
「悪いことは言わない。その力を渡すんだ。」
トリプルネームは僕を刺していた剣を抜いて血を払い、歩みを進める。
3歩ほど僕に近づいた所でトリプルネームの頭上に白い液体がポタポタと降ってきた。
「また君か。しつこいんだよ!」
白銀の剣が綺麗な剣影をたなびかせ虚空を斬る。それはやはり、ただ、虚空を斬っただけであり、雲秋は奴の背中にへばりついて身体を生成し、腹を腕で貫いていた。
即座に俾涅華の母親を殺した剣が四肢を持って動き出しトリプルネーム諸共、雲秋を串刺し、腹の上を切断する。腕の取れた手首はまだ動こうと藻掻いているが真っ二つにされ液状に変わる。
「話をしようじゃないか。新たなクリエイター君。俺だって君達と争うことは望んでない。」
もう1本の剣の姿が変化し、無機的な顔を持つトリプルネームの姿を取った。これまでトリプルネームだったモノはやはり、あの液体へとなる。
「殺人犯と話すことはない。」
僕はきっぱりと断った。
後悔と殺意を同時に抱えながら。




