裏の物語5
雲秋の細腕による拳は当然のように躱され、ガラ空きの背中を突如生成された白銀の剣で刺された。
「……ぁ…。」
目の前で雲秋が刺された事実を見て、声にならない息が出た。
いきなり過ぎる。あいつは確かに嫌な奴というイメージが強いが、それでもこんな年で命を落とすのはあんまりだ。
「まだだ。諦めるのはまだ早い。むしろ彼の感じだと才能がある。」
クリエイターの声に呼応し、雲秋は剣を頭の方までスライドし、上半身を真っ二つに、白い液体を垂らしながら自由を得ることに成功する。
そんな雲秋を無視して白銀の奴はクリエイター、僕達の方へ接近する。
無機的な顔から殺意が感じられる。
そんな不気味な光景と死の恐怖に冷や汗が止まらない。
背後を見せた白銀の奴に対し、雲秋は全力で飛びかかる。が、先ほどの剣が人型に変形し、雲秋の突撃を妨害した。
刺される度に白い液体が雲秋から噴出する。そのグロテスクな光景に思わず目を背けた。まるで拷問だ。
というより、もう思考が追いついていない。さっきから何だ。どうなっているんだ!
そんな現実からも逃げるために目を瞑る。
「灯君。それはいくらなんでも可哀想だ。雲秋君があんなに頑張っているのに君はそんなこと知らないというように逃げるのかい?いや、そうか。雲秋君も君にそんなことをしたから君にもする道理はあるか…。」
何を言っているんだ!もう、訳が分からない!僕だって未知の恐怖と死の恐怖に脅えて、押し付けられてもう、正気を保つことすら怪しいんだぞ!
「ん……?こいつ、本当に初心者か?」
聞き慣れない声につい、目を開ける。
見ると、依然刺されながらも、飛び出る白いドロドロとした液体で、白銀の奴を拘束しようとする雲秋の姿があった。
「そうだとも。それより、いい加減諦めてくれないか?NEUTRAL、EQUALITY、そしてFAIRNESSのトリプルネーム。」
トリプルネームと呼ばれた白銀の存在はさらに生成した剣をクリエイターに突きつける。
「無理だ。お前も理解している筈だ。これは俺の創る世界に必要なことだと。」
「それはつまらないと何度も言っているじゃないッ…かッ!」
クリエイターは再び飛び上がり、トリプルネームの斬撃を躱すと今度は前にいた病院方面を目指す。
「逃がすかッ!」
白い液体を斬り払い、トリプルネームも追いかけようとするが異常な速度で再生する液体が幾度も身体を縛りつける。
「チィ…。しつこい奴め。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
クリエイターは僕がいた病院の細い裏道に着地する。
人ひとりおらず、静かな場所に赤く燃える夕陽が輝く。
この静かさに任せ、頭の中を順番に推測を混ぜながら整理する。
「私はあのトリプルネームに狙われている。目的は……、いいや、話すと余計に君を混乱させてしまうね。」
そんなものはこの状況を見れば分かる。それよりも僕の聞きたいことは…
「……そんなことより、雲秋君は大丈夫なのか…?彼の身体は…一体…。」
「それは気にしなくていい。パーティシペイター同士の争いで死ぬことはないし、なにより、トリプルネームの能力で決着すら付かないよ。」
命に大事はないようで、ひとまずは胸を撫で下ろす。
「それは良かった…。それで、雲秋君はいつも通りの生活に戻ることはできるのか…?」
クリエイターは装飾をカランと小さく揺らし、首を傾け答える。
「人間の姿に戻ること自体はできる。ただ、そんなことをする必要が何処にある?君がクリエイターを断った以上、次の候補が見つかるまで彼にはトリプルネームを抑えるために私の元で働いてもらうよ。」
「そ、そんなの勝手じゃないか!」
思わず叫んでしまった。そもそも、クリエイターとトリプルネームだけのいざこざなのだ。何で、そこに雲秋が加担する必要がある?彼は何の関係もない一般人だろうに。
「そうだよ。とはいえ、パーティシペイターになった以上は私の勝手に付き合ってもらう必要はある。彼にパーティシペイターのいろはを教える代わりにね。」
それは自分で敷いたレールの上に他人の人生を乗せているようなものだ。
そうだ!雲秋にも雲秋の人生があるのだ。そんなことは断じて許されてはいけない。
「やっぱり勝手だ!お前は自分の都合に他人を巻き込んでることに自覚がない。もう、僕達と関わるのは止めてくれ!お前達だけで勝手に争っていてくれよ!」
僕の言葉に何を感じたのか、クリエイターは僕を懐からゆっくりと地面に降ろす。
「ハッハッハ。君がいじめられる原因がなんとなく分かったよ。けどね、それは出来ない相談だ。何しろ私の行いは日本全体を巻き込むことになるのだからね。そうしないと私は彼から逃れることが出来ないのさ。」
最初の皮肉は置いといて、日本全体を巻き込むだと…?候補者探しの他にも何かするっていうのか?
「ヒィッ!?」
思考している脳内に突然、甲高い女声が響く。その声に驚いて背後を振り向く。
そこには烏珠俾涅華の母親の姿があった。




