影の物語1
「自分が何をしたのか分かっているのか!?」
「もう絶縁よ…。あなたなんかを育てる育てる責任はないわ……!」
「殺された側の気持ちを考えたことがあるか!この辛さをどうしてくれる!」
「返してよ!私達の星乎を返して!あなたに何の権利があって星乎を奪えるの!?」
「お前みたいな生徒は俺も初めてだよ。まぁ、精々罪を償っていくことだ。俺はもう知らん。」
それだけか?
正確にはそれ以上の事を言われたが要約すると上の通りだ。
そう。たったそれだけ。1人の命を奪って受ける仕打ちがこの程度なら星乎の命はきっと安いものだったのだろう。
自らの拳が僕の右頬を直撃する。
「何を……ッ!何をッ!何をぉぉぉッ!?」
頭を首から引き抜き牢屋の壁にぶつける。
僕の視界は首のない僕の身体を捉えケタケタと笑い出す。
惨めだ。無責任だ。そう言わんばかりに。
怒りを覚えた僕の身体は濁った大理石の床を踏み鳴らし自分の頭の真前まで来ると勢い良く踏みつけた。
痛覚は全くない。自らによってグチャグチャにされていく視界だけが支配する。
いや、嘘だ。僕を支配しているのは後悔だ。全てどうでもいいといいながら僕は…。
「僕はッ!」
口も変形してしまっているのに鮮明な音を出す自身を呪いながら尚も強く自分の頭を粉々にしていく。
『…いい加減にしないか?毎日毎日こんな光景を見せられている存在がいることを忘れないでくれよ。いつか発狂してしまいそうだ。』
「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!」
『またそれか。何度も言うようだが贖罪なんて形だけだろう?本質的な贖罪なんて言葉はない。無駄な時間をこう何日も繰り返すくらいなら…』
「黙―――」
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!
『はぁ…。そろそろ時間なんじゃないのかい?』
白色の液体をぶちまけ見る影も無くなってしまった顔を首から創り上げる。
その際、白い液体は僕の体内へと吸収され顔を創る要素となる。
そして、前任者の言うように時間がやってきた。
「面会だ。」
黒い服の看守に連れられて手錠を付けて牢を出る。
定期的に僕には同じ人が面会に来る。
弁護士ではなくただの少女だ。
自分なりに何か謎を解き明かそうと懸命に頑張る、僕の被害者の少女だ。
烏珠俾涅華。
彼女は僕の不可解な殺人と自分の母親の不調に何かしら接点があると考えているらしい。
「何度も話している通りだ。彼も君のお母さんも僕が殺した。もう、満足してくれないか?」
俾涅華は首を横に振り落ち着いた様子で口を開く。
「無理に決まってるでしょ。そもそも灯君には動機がないじゃない。誰かを殺すだけの動機が。」
白い面会室の白い机に両手を置いて、更に僕から何かを聞き出そうとする。
「いじめっ子に関しては動機が考えられるだろう。なんであれ、事実、彼も君の母親も僕のせいで死んだんだ。君の母親は僕の申し訳なさで身体だけ復活させたに過ぎない。君が知るべきことは以上だ。もう関わらない方がいい。」
「いや、だからおかしい点があるでしょ!復活って何?もし、あなたにそれが出来るのなら、その代償として誰かを殺す必要が……」
「違うッ!僕が未熟なだけだ!僕が馬鹿なだけなんだッ!全部…全部僕のせいだッ!」
机を叩き、頭を抱えて目を瞑る。
もっと、僕の決断が早ければ…あの現場にいなければ…投げられた上靴を避けてさえいれば……。
慙愧の念が次々と湧き上がってくる。
その上で、俾涅華に何もできない。唯一できることは彼女を僕達から離すことだけなのだ!
「説明になってないよ!一体灯君に何があって、どういう状況になってるの?それが分かりさえすれば私だって来なくて済むんだよ!」
来なくて済む……か…。
面会の度に言われていたが、確かにそうかもしれない。僕が何もかもを包み隠さず全て打ち明けてしまえば……。
僕の中でそれを否定する何かが湧き上がるが、もう、どうでもいい。やってしまおう。
頭を上げて無言で彼女の顔を見る。
自分を縛ろうとする自分の鎖を無視して左腕を肩ごと胴体から抜いた。
「ひっ」
白い液体が飛び散り、僕と彼女を隔てる透明の壁にへばりつく。
俾涅華は驚いたように机から飛び退いて、身体全身を小刻みに震わせ、口を手で覆い、焦点が合わなくなっている。
僕に驚いているのは立ち合いの刑務官も同様だ。
「これで謎は解けたと思うよ。僕はもう人間じゃない。殺すも生かすも僕次第。後は、納得できるように解釈してくれ。」
『灯君。まずい。退避行動を……!』
前任者からの警告の直後、天井が突き破られ、耳付近、肩、肘、腰回り、膝付近、そして爪先が鋭利なシルエットが煙の中に現れ、外から差し込む光により白銀がチラチラと発光する。
目の前にいた俾涅華はなんとか守れたものの遠くで記録を取っていた刑務官にまでは手が届かなかった。
「全く……君のようなクリエイターは見たことがない。まさか政府に捕まるとはね。」
煙が晴れていくとともにその容貌が明らかになっていく。
白銀が輝き、乳白色の無機質な顔が僕を見つめる。
そして奴の得物である双剣がこれでもかとギンギンに輝いて戦闘意志を誇示するかのようだ。
「中々絶好な機会だろう?しつこいアイツは別件。ここにはお前しかいない訳だ。新人。」
ギギギと音を立てて大理石の床を削りながらゆっくりと近づいてくるのが分かる。
……割と好都合だ。
『いいから逃げるんだ灯君!君じゃあ、奴に勝てない。今から雲秋君がいる座標を送る。そこにワープをするんだ!』
そんなことをする必要がどこにある?
「なぁ、話をしないか。三つ名持ち。」




