陰の物語8
『さぁ、彼を殺してしまおう!翻訳するとこうなるね。結局、殺すしか無くなっちゃったねぇ。』
………何故だ……?
どう捉えたらそうなる?僕は誰も傷つかないことを望んだんだ。それを雲秋に言わせた。傷つけないと言っているのに殺すというのは最早矛盾どころではない。
『まぁ、あの方の独自解釈だからね。あの方の頭で考えた結果、傷つけたくないのなら殺せという結論に辿り着いたんだろう。』
あの方というやつはそんな捻くれた考えを持っているのか!
どうしてそんな考え方になる!
クソ!やり直しだ!
イメージが先行するなら理論上何度でもやり直せる筈だ。
(了解。やってみよう。)
《You can't skip your order !》
雲秋と共有している視界に映し出された文字を見て疑問が浮かぶ。
イメージが先行するんじゃないのか…。
『流石に何でもかんでも思い通りとはいかないみたいだね。』
どうしてだ…。どうしてこうなる!
そもそもだ!殺す必要が一体全体何処にある!
『我儘を言ったってしょうがないだろう?結局のところ、彼を殺すしか手はなくなった。君の奥の手もあの方の気分でオジャンになっちゃったんだから。』
ふざけるな……ッ…。そんなこと認められるか!何か!何か案を…ッ!
(つまり、彼を殺してしまえばいいわけだね。そうすることで君の目的は果たされて違う目的に変えることができるんだから。)
違う!僕の目的は人殺しじゃない!なぁ!本当にキャンセルは出来ないのか!
(目の前に浮かんでいる言葉が答えだ。)
雲秋は皆の前から消え、僕にだけ見える黒ミイラに変身する。
トリプルネーム戦で用いた剣を何処からか取り出し、ゆっくりと今末星乎の元に近付いていく。
「お……おい!どうなってんだ!なんで…ッ!」
突如として雲秋が姿を消したことにクラス内の空気が恐怖に包まれる。
ギシリ、ギシリと教室の床を踏む足音が星乎に近付き、本人は運動場側の窓まで移動し、腰を抜かして立てないでいる。
「なぁ!おい!俺ッ!どうなるんだよッ!灯ッ!」
恐怖で僕の耳をつんざくような悲鳴が星乎から上がるが誰も助けようとはせず、その場に立ち竦む者ばかり。
僕も…その中の1人だ……。そんなことが……ッ…!
「待てッ!雲秋!」
結末が変えられないとしても、抗うことはできる筈だ!あの方の思う通りにしてたまるものか!
「……………僕が……ッ!僕がやる。僕がやるんだ!剣をよこせッ!」
「……は……?ハァァッ!?」
『……悪いが…それは出来ないよ。灯君。』
苦渋の決断をした僕の耳に入ってきたのはおよそ信じられない言葉だった。
……どう…して……
『どうしても何も、そういうルールなんだよ。最初に教えなかった私も悪いがスカウター側には明確にルールがある。その1つがパーシペ代行禁止だ。』
なんだよ……なんだよそれは!
いや、待て。だったら、僕がそれを思いついた時点で雲秋みたいに警告が出る筈だ。出ないってことは……
『早まるんじゃない!警告は実際に行動を起こそうと武器を持ったタイミングで出る筈だ。それすらも突破した場合、どんなペナルティがあるか考えもつかないんだぞ!』
僕はどうなってもいい!
『君だけの問題じゃない!君はペナルティでこの世界の人間全てを手に掛けるかもしれないんだぞ!それに比べれば1人の命くらいちっぽけなものじゃないか!』
………なんだよ…なんだよ!何なんだよッ!
やりたいことを悉く防がれてフラストレーションが爆発する。
そんな僕をよそに雲秋の距離は縮まり、剣で星乎の胸を貫く構えだ。
「やめろぉぉぉッ!」
僕の叫びが何の意味もなすことはなく、無慈悲にも見えざる剣は胸の中へ突撃した。
刺された感覚だけを感じ、口から血を流す星乎。自分が何故このような目に遭わなければならないのかすらも分からずに白目を剥いて、漆黒の剣に血をべったりと塗って絶命した。
その光景を目の当たりにした生徒はパニックになり発狂しながら教室を出ていく。
そんな中、1人だけ逃げたくても逃げれずに涙や鼻水、小便までもを垂れ流している生徒がいた。
石田勝である。
次に死ぬのは自分だと確信し、それ故のただならぬ死の恐怖で足が言うことを聞いてくれないのだ。
「…………剣を貸せ…。もう、たくさんだ。」
僕のメンタルは限界を迎えた。こんなのやっていけない。自分がやりたいことは全て後出しで拒絶される。
くだらない理由でやりたくもない人殺しを強制され見返りもない。
説明と何もかもが違うじゃないか!
何が普段通りの生活には支障がないだ!1日で2人も殺してるんだぞ!
クソったれだ!こんなのは人のやることじゃない!
だから、僕は逃げる。何もかもを放り捨てて少しはましな生き方……いや、死に方をしてやる。
雲秋は何の躊躇もなく僕に血のついた剣を渡す。
その剣を受け取るとそれを実体化させ現実に目視できるようにした。
「いいか。彼を殺したのは僕だ。早く警察を呼んだ方がいい。次の被害者が出るぞ。」
生徒達のパニックに乗じて教室に慌てて来た扉の前の先生達に向かい、剣で地面に円を描きながら僕は諦める道を選んだ。
その後は逮捕、裁判、実刑判決で牢屋行きが決まった。
僕の供述に反省の色が見られないとして終身刑を言い渡されて一生牢屋生活が始まった。
いっそのこと死刑にでもしてくれればよかったものを…。
まぁ、もう、どうでもいい。何であれ僕にとっては心底どうでもいいんだ。




