陰の物語7
雲秋は文字を見た瞬間に姿を変えようとし始めた。
「待てッ!」
そんな雲秋を止めるべく思わず口に出してまで静止させようとしてしまった。
当然、意味の分からない周囲の生徒は不思議がるもの嘲笑するもので溢れかえる。
『…………君はまだ諦めていないのかい?彼に勝てないんだから君に発言権は無い筈だろう?』
それはお前の中での理屈だ。最後の最後まで人殺しを止めようとする僕は間違ったことなどしているつもりはない!
(じゃあ、このまま何もしないでおくのかい?)
雲秋が言うようにその方法が一番良い。だが、役割に縛られてしまった以上、雲秋が黒板消しを投げた人間―――今末星乎から離れられなくなる。
『分かっているじゃないか。だから彼の行動を妨げる君は間接的に彼を…』
違う!
僕には一つ策がある。クリエイターの身体を使っていくうちに思いついたんだ。
パーティシペイターであれ、スカウターであれイメージが理屈よりも先行するのは変わらない。
だからこそ、あらゆるものに形式的であれ意味があると考える雲秋が変幻自在の動きが出来るのだ。
形式的な意味で身体が反応すると言うことは抽象的なイメージでも身体が反応するということに等しい。そこを上手く利用してしまえば…
『ほう…。よく考えたじゃないか。』
雲秋!役割から解き放たれた自分をイメージしてくれ!
(了解。)
普通に考えればイメージのしようもない自分だが雲秋のような抽象的な男であればイメージは容易い筈だ。
実際、雲秋は一瞬、皆の前から姿を消し再び同じ姿で戻ってきた。
この様子を見ていた生徒達は見間違いだと思いつつも現実的でないことが起こるのではないかと恐怖心と好奇心に駆られて身体を動かせないでいる。
さて、文字は消えたのだろうか?
(あぁ、TARGETの文字は消えた。だが、変な英文が目の前に出てきた。)
どういうことだ……?取り敢えず、視界の共有をして欲しい。
《What mean do you exist?》
これが雲秋に見えている英文……。
僕は英語のスラングは分からないから直訳すると《あなたが存在している理由は何ですか?》となる筈だ。
どういうことを言いたいんだ…。これは……。
『成る程ね。私も初めて見たよ。彼/彼女らは役割から解放されたのではなく新たな役割で上書きしたというわけか。』
我先に納得されても困る。僕や雲秋は何がなんだか分かっちゃいないんだ。
『あぁ。憶測でいいのなら説明しよう。パーシペは人類の咎という話はしただろう?パーシペは悪を裁くことであの方に存在を許されてる存在なんだ。そこに私達が役割を付与したことでパーシペには役割が必要という固定概念が生まれた。ここまではいいかい?』
端的に言えばパーシペ―――略してあるから面倒だがパーティシペイターは役割が無いとあの方に存在が許されないってことだ。ここまで来ると流石に先が読める。
『その通りだ。役割を取っ払うと存在理由が無くなる。それがパーティシペイターだ。そして、役割が無い者へ存在理由を聞くためにパーシペに備えられた機構が今、君達の目の前に出ている英文だろう。これの返答によっては本当に自由の身になれるかもだ。』
《What mean do you exist?》
こいつの言うように存在理由で誰も殺さずに済むようになるかもしれない。
(僕の存在する理由………。)
雲秋。君は答えなくていい。
こういう時に抽象的なことを言ってしまうと大抵拡大解釈されて悪用されるのがオチだ。
だからかなり具体的な内容で一つしか捉え方のないような要求にするしかない。
どうするか。単純に誰も殺さない為としたいが、これだと殺さなければ何をしてもいいということになる。
なら、誰も傷つけない為。これならば殺すのは勿論の他、誰かに手を挙げることすら不可能になる。
(じゃあ、それでいいのかい?)
あぁ。これならどんな捉え方をされようが誰かが傷つくことはない。
「僕の役割は誰も傷つけないことだ。」
「……はぁ?お前までどうしたんだよ。」
雲秋が声に出した為、疑問になった勝が雲秋に問いかける。
《OK》
見事承認された。これでやっと普通の……
《So,let's kill him !》
は?




