影の物語2
お陰様で仕事はクビになってしまった。
よりにもよって俺の息子が会長の息子を殺すことになるとは…。
「ふっぅううん。」
車内でタバコの煙を吐きながら背伸びをする。
「アイツ以上に親不孝なガキは見たことがない。全く、どんな育て方をしてたんだ…。」
帰ったら帰ったでクソ嫁がヒステリックを起こして騒ぎ出すのに付き合わなければならない。
そう考えるとストレスでおかしくなりそうだ。
「これからどうすっかなぁ…。」
信号が青になり渋滞が動き出す。
こういう時の前の車の遅さは異常だ。
もっと速くいけただろうにビビって速度を遅らせる車の多いこと。そもそも先頭は何をしているんだ…。
「全くめんどくせぇな!」
堪らずクラクションを鳴らしストレスを発散することにした。
目の前のナンバープレートが『し 44-44』という不吉な番号であることも俺のストレスを溜める1つの要因になったのだろうか?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
渋滞を抜け、なんとか家に戻る。もう20:00を過ぎているではないか。働く会社の面接に行っただけでこのザマだ。
月の光に照らされて『輝灯籠』の表札が不気味に光る。俺は何処となく背筋が凍る思いをした。
「あのクソ嫁がここがいいなんて言うから俺がこんな思いをせずに済んだんだ。」
長い棒状の手すりを掴み勢いよく開ける。
すっかり車の通りが少なくなった時間なだけあってドアの開く音が木霊した。
バタンと勢い良くドアを閉め玄関に上がる。
「チッ。また言われねぇと出てこねぇのか!あぁ!?」
何故、帰っきてそうそう怒鳴らなければならんのだ!
嫁というものは主人が帰ってくるのを玄関で待ち、荷物を部屋に持っていくものだろう!
数秒後、よろよろとした足つきで寝室からクソ嫁が出てきた。
「ご…ん……な…い。」
頬が腫れ上がっているからか何を言っているのか聞き取れない。
「おあね……。おあねを……。おあああんあ……。イヤッ!」
近付いてきて荷物も持たずに、俺にしがみついてきたかと思えば金銭を要求し始めた。
「なにふざけたこと抜かしてんだ!あぁ!?」
靴箱の上にある花の入っていない花瓶でクソ嫁の右頬を殴る。
花瓶が割れると同時に膨らんだ頬を花瓶と破片が切り裂いていく。
右頬を手で押さえ溢れ出る出血で手を赤く染めながら玄関の汚い廊下に倒れ込む。
「クソ!クソ!クソッ!」
靴を履いたまま廊下に上がりクソ嫁の腰を背中側から蹴る。
「ッ――――!」
うつ伏せになったクソ嫁のガラ空きの背中を何度も踏みつける。
その度に黒い靴の跡がクソ嫁の白い服に刻印されていく。
「お前がッ!お前が悪いんだろうがッ!」
苦痛に悶える声も絶望に歪んだ悲鳴も何も俺には聞こえない。
謝罪すらも俺の耳には入ってこない。
そうだ。こいつには悪いことをしている自覚がない。
だったら石を投げなければ。
自覚の無い悪意は俺がこうやって!
ギギギッ――――。
何の音だ……?
俺は聞いたこともない音が聞こえて周りを見渡す。
変わったところはない。
クソ嫁が俺に踏まれているだけじゃないか!
幻聴とでもいうのか!?
ギギギィッ―――――。
「何なんだよッ!」
明らかに幻聴ではない。
部屋中から………正確には外壁と内壁の間から何か強引に締め付けるような音が聞こえた。しかもさっきより高くなっている。
不可解な恐怖に苛立ちが湧き、クソ嫁を踏む力が強くなる。
ギィッ――――。
更に音が高くなった。木屑が天井から落ちてくる。俺は危険を感じ家の外へ出ようと―――――
バキッ―――――。
家の柱の崩壊を起点に壁がへし折れるように破壊され、屋根を支えることができなくなり、家全体が崩れ落ちる。
静寂に包まれた夜の住宅街を一軒の家屋の崩壊音が支配する。
土煙が舞い上がり家の破片が近所の住宅にも被害をもたらす。
外壁に傷を付け、窓を割り、自転車や車にすら振りかかる。
その煙の中で白い液体が人の形を取り始めた。
「これで良かったのかい?」
『あぁ、上出来だ、雲秋君。さて、後は彼の父親の生首でも探そうか。』
金属が重なる不快な音を響かせながら雲秋―――黒ミイラは倒壊した家屋に足を進めた。




