陰の物語3
「…灯君。その少年の頭上にTARGETって文字が浮かんでいるのだが、これが君達の言っていた役割というやつなのだろうか?」
……役割だと…!?
馬鹿な。腕の装置を作動させなければ役割は無視できる筈だ。
『あぁ。これが役割だ。装置を動かさなくとも自分から頭を突っ込んだら、そりゃあ、こうなるに決まってる。だからドライになれと言ったんだ。』
いじめっ子の少年は目に涙を浮かべ、息を絶え絶えに逃げていった。
対していじめられっ子の少年は膝をつき、恐怖に満ちた虚ろな目で僕を刺す。
「…じゃあ、彼を殺してしまえばいいのか。」
「……は?」
およそ人とは思えない発言に絶句した。そんな簡単に人を殺すだと…?
それも彼はまだ僕達と同じ学生じゃないか。それに、彼が悪いやつとは決まった訳じゃない。そうだ。まだ、殺す必要なんてないじゃないか。
『…頭を働かせてよく考えるんだ。TARGETの文字がある時点で彼を殺さないと雲秋君がここから動けないわけだよ。だからとっとと終わらせてあげようじゃないか。やってしまえ。雲秋君。』
「翻訳」
朝の光の中で漆黒を光らせる剣を右手に持ち黒ミイラがゆっくりと歩み寄る。
ただ、少年はなおも僕の方ばかり凝視する。いや、そもそも彼の瞳には黒ミイラが映っていない。見えていないのだ。
僕は…この少年を見殺しにするのか…!?いや、できるわけがない。殺すなんてそんなこと。
『灯君。馬鹿な真似はするんじゃない。冷静になって考え直すんだ。これがパーティシペイターという―――」
「うるさい!翻訳ッ!」
僕の姿も黒い瞳孔から消え、2mの巨体で黒ミイラに襲いかかる。力づくでも止めるしかない!というより雲秋に話が通じるわけがない!
「この馬鹿野郎ッ!」
拳が直撃し、白い液体をばらまいて雲秋は路地裏から吹き飛ぶ。
「―――――――ィ」
背後、すなわち少年の方からグチョッという生々しい音と呼吸に少しの声が混じったかのような普通に生きていたら聞くことのないような音が静かに響いた。
「まさか…。」
悪寒を感じながら振り返ってみると先ほどの少年が地面から伸びる黒い棒に尾てい骨から口にかけて貫かれていた。絶命したのかしていないのか、身体はまだピクピクと痙攣し、真っ赤に染まり空を見上げる眼球から涙が溢れている。
「……………。」
やがて黒棒から枝のようなものが生え、それは少年の体内――隅々の全ての血管内に侵入し腕から見える青い血管を眼球に張り巡らされた赤い血管を全て黒で上書きし、瞬時に膨張。少年の身体を内部から完全に破壊せしめ絶命させた。
残ったのはナイフだけ。
「役割はこれで果たせたということでいいのだろうか?少なくともTARGETという文字は消えているようだ。」
太い枝を持った木のような黒棒は白い液体へと分解され空気中から凝縮した白い液体と合わさり黒ミイラを形成した。
『あぁ。成功だ。それにしても流石だよ、雲秋君。私も見たことがない身体の使い方だ。今の君ならパーシペ最強ランキング1位に堂々と入れる。やっぱり君の思考回路とパーシペは相性が最高のようだ。』
歓喜している前任者。納得している雲秋。そして、それらと対立する感情を抱く僕。
僕はなんでこんなにあの少年に味方できるのだ…。
境遇が似ているからだろうか。その上、被害者側を否定されたからだろうか。
いじめで被害者が悪なわけがないのだ。悪いのは絶対的に加害者であって裁かれるのは加害者だ。だが、今、生きているのは加害者ではないか。
凄惨な死を迎えたのは被害者じゃないか!
「なんで彼が死ななきゃいけないんだよッ!」
「それに意味があるからではないだろうか?」
「――ッ!お前ッ!」
『おいおい止めるんだ灯君。』
僕の中で何かがプツンと切れ、考えるまでもなく雲秋を殴っていた。




