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7.解呪の手がかり

 カイの家に入ると第二王子は手土産のクッキーをテーブルに出し、マジックバッグからティセット一式を並べた。

「すごい。本当に魔法の鞄だ」

「新鮮な反応が嬉しいよ。近頃はマジックバッグも珍しくなくなってきたから」

「この辺は田舎だからね。初めて見る」

 楽しそうなカイの反応に満足そうな表情で第二王子はお茶の準備を進める。

「王子様もこんな事するんだね」

「毎回頼むのも手間だから覚えたんだ。自分で言うのもなんだけど、なかなか上手いよ」

 席をすすめられたカイが出されたお茶に口をつけて「おいしい。いい香りだね」と言って、また第二王子を喜ばせる。

「お気に入りの茶葉なんだ。よかったら置いていくから使って」

 このままじゃいつまでも本題に入りそうにない。

「わん」

「ごめんごめん。今日は城での話をしようと思って来たんだった」

 軽く謝って第二王子は咳払いした。

 カイもカップを置いて姿勢を正す。

「実は私達が魔王討伐を終えた後、隣国の王弟から妹に縁談があったようでね。会ったこともないような男と結婚するのは嫌だと駄々をこねているんだ」

 その“駄々”の一つが、僕にキスをする事だったらしい。

 僕にキスして呪いが解けたなら相思相愛の相手がいると示せる。しかもその相手が魔王を討伐した勇者であれば、相手も引き下がると思ったらしい。

 それに、僕が結婚相手なら今までと同じように気苦労なく生活できると思ったのだそう。

 僕はため息をついて床に伏せた。

 カイの様子を見てみると、カイはぽかんと開いた口から息をついて言った。

「レオンには災難だけど、お姫様も大変だね」

「否定はしないけどね、私は義務だと思っているよ。

 私たちは生まれた時から衣食住の心配なく生きて、最高の教育を受けてきた。それはこの国を守ること、あるいは豊かにすることで返す必要がある」

「結婚じゃなくても、国に貢献する方法はあるでしょう?

 アルベルト様だって魔法の研究で国に貢献しているんだし」

「確かにそうかもね」

 第二王子はカイの言葉に腕を組んで頷いた後、がっくりとうなだれた。

「その言葉は妹の口から聞きたかったな」

 苦笑しながらカイは第二王子が持ってきたクッキーをかじる。

「アルベルト様、クッキー美味しいです。これ、レオンに食べさせても大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。前にも言ったけど、姿が犬なだけだからね」

「気分的にこの姿のレオンにタマネギとか、絶対にあげられないですよ」

 そう言いながらカイは椅子から降りて僕の前に膝をついてクッキーを差し出してきた。

 姿だけと言うけど、匂いや物音には人間の時よりも敏感になっていて、強い匂いを嗅ぐのはつらい。

 クッキーはバターの匂いが少し強いけど、サクサクしていて美味しい。

「レオンの呪いを解く方法の方はどうですか?」

 僕の首元を撫でながらカイが第二王子にたずねる。

「聖女様が自分より強い力を持っているかも知れない聖女の情報を手に入れたみたいだよ」

「かもしれない?」

 手を止めて改めて椅子に座ったカイが第二王子に聞き返す。

「もう十年以上昔に姿を消した伝説の聖女らしい。

 詳しくは聖王国の秘密情報だから話せないということで教えてもらえなかった」

「伝説の聖女」

「すごいね」と声に出さずにカイは僕に伝えてきた。

 でも、本当にそんな聖女が存在するのだろうか。

 僕達は魔王討伐の旅の中でなんども「伝承の」とか「村に代々伝わる」とかいうものの話を聞いたけど、そのほとんどが存在しなかった。

 第二王子の顔を見ると、困ったような笑顔で頷く。王子も僕と同じ事を考えたみたいだ。

「今回は、その“伝説の聖女”に会ったことのある人物がいるから、全く存在しないわけではないみたいだよ」

 それでも、その“伝説の聖女”がまだ生きているのか、どこにいるのか、本当に聖女様より強い力を持っているのかはわからないのだろう。

 少しうつむきかけた時、カイの声が聞こえた。

「新しい手がかりが見つかって良かった。何か手伝えることはありますか?」

 明るいカイの声につられて顔を上げる。

 カイはニコニコしながら第二王子を見ていて、王子も僕と同じように目を丸くしていたけど、すぐに笑顔を浮かべた。

「聖女様が情報をもとに捜してくれているから、今は待つしかないかな。でも、なにかあったら頼むよ」

「任せてください。レオン、私も頑張るよ」

 眩しいほどの笑顔に僕は目の奥が熱くなる。

 カイはいつも僕を明るい方に連れて行ってくれる。ーーそれは子供の時だけのことじゃなかった。

 明るいところから、暗いところにいる僕に手を差し伸べて光を見せてくれる。

 カイが居てくれれば僕は大丈夫な気がする。

「じゃ、私はそろそろお暇しようかな。

 カイ、これをこの家のあまり人が来ない部屋に敷いておいてもらえる?」

 第二王子が巻物をカイに渡す。王城に帰るときに使っていた物とよく似ているから魔法陣かな。

「次ここに来る時は何人かで来ることになりそうだから、転移の魔法陣を設置しておこうと思って」

「これを敷いている部屋に転移して来るの?」

「だから、目のつかない所にお願い」

 快くカイが巻物を受け取ると、第二王子は城に帰っていった。

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