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4.勇者は故郷に帰ります

 どうするか決まったら第二王子の行動は早くて、聖女様にだけ挨拶をするとすぐに転移の魔法陣を準備してくれた。

「準備はいい?」

「わん!」

「レオンに会ってから、一番いい返事だな」

「レオンさん」

 見送りに来てくれた聖女様の声に振り向くと、聖女様は静かに息を吐いて、ギュッと杖を握りしめたようだった。

「解呪の方法、引き続き探します。待っていてください」

 聖女様は厳しい人だけど、人に厳しくする以上に自分に厳しい人だ。きっと僕の呪いが解けないことに、必要以上に責任を感じているんだろうな。

「わん」

 待っているけど、あまり気にしないで。

 そんな僕の気持ちが聖女様に届くといいけど。

「私の研究結果が出る方が早いかもね」

 ニヤリと笑う第二王子に聖女様は目の端をひくつかせたが、小さく息を吐いて第二王子を見た。

「どちらが解呪してもかまいません。レオンさんが呪いから解放されるなら」

 第二王子も静かに笑った。

「そうだね。じゃ、そろそろ行くよ

「レオンさん、また近いうちに」

「わん」


 □■□■□■□■


 僕が返事をするのとほぼ同時に魔法陣が起動して、城の煌びやかな一室とは全く違う山の中に景色が変わる。

 少し湿った土と木の匂い。

 大きな街の中の人のざわめきとは全く違う、鳥と虫と獣の声。

「まだ昼過ぎなのに、やけに静かだな」

 静かすぎる村の様子に胸が騒いで村の中心まで走る。

 村長の家も、雑貨屋も、料理屋も、金物屋も、どこにも人の気配がない。

 小さな公園のブランコが風に揺られるのを見て、村はずれのカイの家に走っていた。

 絶対いる。カイは僕との約束を破ったりしない。

 そう思うのに、胸が痛いほどに鳴って僕を急かす。

 小さな畑と花壇に囲まれたその家は時間が止まっていたみたいに、最後に見た時と変わらない様子だった。

 柔らかな花の香り、爽やかなハーブの香り、懐かしいカイの家の匂い。

「ここがレオンの家かい?」

 僕は第二王子の問いかけに答えるのも忘れて扉を叩いた。

 犬の手じゃ扉を叩けなくて、爪が扉を掻いてしまって慌てて手を引く。

 慌ただしい足音が家の中から響いた、と思う間もなく扉が開かれた。

「レオン!?」

 黒い大きな目をした女性が飛び出してきた。

 男の子みたいに短かった髪は高いところで結んでいても背中まで届くほどに伸びているけど、間違いない。

 カイだ。

「あれ? レオンは?」

 第二王子を見て目を丸くしているカイに、第二王子も驚きに声を失っている。

「わん」

 こっちを見て欲しくて思わず声を上げると、目をぱちくりと瞬かせたカイが「え、え? まさか」と僕の前にしゃがみ、顔を両手で掴んできた。

 王女様より遠慮のない手つきだけど、不安も不快感も全くない。

「れおん……?」

「わんっ」

 思わず尻尾が揺れる。

 カイは僕の頭から首までを撫でると、首に腕を回して僕を抱きしめた。

「おかえり」

「っわん」

 カイの震える声につられるみたいに僕の胸が苦しくなる。

「感動の再会のところ悪いんだけど、少しいいかな?」

 第二王子が咳払いをして僕たちの視線を集める。

「あ、すみません。えっと、あなたは」

 立ち上がったカイが第二王子と僕とを見て、第二王子に改めて自然を向ける。

「私は、レオンと共に魔王討伐に向かった魔法使いのアルベルト。以後、お見知りおきを。レオンの幼馴染み殿」

 かしこまって挨拶をする第二王子にカイは目を丸くして「もしかして」と呟いた。

「魔法おた……魔法に精通しているという王子様ですか?」

 絶対『魔法オタク』って言おうとした。

 巷で第二王子が『魔法オタク』と呼ばれていることは僕たちも知っていて、第二王子もその呼び名を気に入っている。

 いまも少し嬉しそうだ。

「アルベルトで構わないよ。レオンの友人同士、仲良くしてくれ。

 君がカイでいいかな?」

「はい。カイです。よろしくお願いします」

 第二王子に差し出された手をためらいながら取って小さくお辞儀する。

 さすがのカイも緊張しているみたいだ。

「レオンの状態のこととか説明をさせてほしいんだけど、お邪魔させてもらってもいいかな?」

「もちろん。狭いですけど、どうぞ」

 招き入れてもらった部屋は昔と変わらない。

 壁に飾られた刺繍の絵、棚には乾燥させたハーブや酢漬けの入った瓶、テーブルには小さな花が飾られている。

 昔と変わらない様子なのに、この家にもカイ以外の人の気配がない。

「どうぞ、かけてください。レオンはクッションでいい?」

 聞きながら僕の前にクッションを置いてくれる。

「お茶を淹れますけど、飲まれます?」

「ぜひ」

「レオンは、念のため水にしておこうか」

「くぅん」

 この姿になって、生肉を出された時くらい悲しい。

 けど、カイは僕に意地悪をしてるわけじゃないから仕方ない。

 ふわりと華やかな香りが部屋を漂う。

 おばさんが作っていたハーブティの香りだ。

「どうぞ」

「ありがとう。いい香りだね」

「我が家の特製ですから」

 お茶を飲んで一息ついてから、第二王子がカップを置いた。

「レオンには父親がいると聞いているけど、どこかに出かけているのかな」

 カイは少し目を閉じてから改めて僕を見て言った。

「レオンのお父さん、3年前に流行病で亡くなったよ」


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