2.魔王を倒した勇者は
当初の予定では、魔王討伐が完了しだい領主の館から城に連絡を入れて、魔王討伐を無事に終えたことをアピールしながら王都に入る予定になっていた。
しかし、聖女様は浄化魔法で力を限界まで消費した影響により動けず、騎士様は瘴気に当てられて意識を失っていて、勇者である僕は犬になっている。
全滅したり、誰かを失ったりするよりは良い状況とはいえ、胸を張って王城の門をくぐれる状態ではないかもしれない。
これからどうするのか、と第二王子を見てみると、唯一無傷な王子は腰に下げたマジックバッグから巻物を取り出した。
「とりあえず、城に戻ろうか」
広げられた巻物には魔法陣が描かれている。
何の魔法陣だろう、と近くに寄って見ていると隣に杖を支えにして聖女様が立っていた。
「転移の魔法陣? 王城まで転移するような魔力が残っているのですか?」
「まさか。魔力を補充してある魔石を非常用に幾つも持っているんですよ」
笑いながら騎士様を引きずって魔法陣の上に寝かせると、再びマジックバッグからバラバラと魔石を取り出して魔法陣の上に落としていく。
何個か騎士様の頭に落ちたけど、騎士様は何の反応もない。まだ意識が戻らないらしい。
「さ、早く魔法陣の上に。こんな場所に長居しても仕方ないですからね」
確かに。聖女様には休息が必要だし、騎士様は早くお医者様に診てもらわないと。
僕と聖女様は顔を見合わせ、お互いの意思を確認すると同時に魔法陣に乗った。
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前触れもなく執務室の中に現れた僕達の姿に、国王陛下も隣にいた宰相様も目を丸くして固まった。
「父上、王命に従い無事に魔王討伐を終え、ただいま帰還致しました」
おかしな事など何もないみたいに、軽やかな動作で膝をついて挨拶をする第二王子に宰相様は唇を引き攣らせ、国王陛下は頭を抱えている。
「ご苦労。しかし、私は魔王討伐を無事に終えたなら、一報入れるよう指示したはずだが?」
「父上、無事ではなかったので急ぎ戻って参りました」
国王陛下が顔を上げて改めて僕達を見るのに合わせて王子も僕達を見る。
「聖女様は」
「私は問題ありません。少し休めば大丈夫です」
杖を支えに立つ聖女様が片手を上げて自己申告をする。
聖王国から派遣してもらっている聖女様が無事であることにひとまず安心した様子の国王陛下と宰相様。
「聖女様は大丈夫とのことなのですが、国一の剣士として付けていただいた第三騎士団長は、魔王の瘴気に当てられて意識を失っておりますので治療をお願い致します」
「わかった。手配しよう」
「そして、今回の功労者の一人である勇者ですが、魔王の最期の力により呪いを受けて犬になってしまいました」
国王陛下はポカンと口を開けて、宰相様は目が落ちてしまうんじゃないかと心配になるほど、目をまんまるにしていた。
「そ、その犬が、勇者レオンハルトだと?」
僕の名前は「レオン」だけど、ただの「レオン」じゃ威厳が足りないということで、勇者としての名前は「レオンハルト」となっている。
大人しく頭を下げると、第二王子が重々しく頷いた。
「そうです」
国王陛下は大きな息をついて宰相様を見て、それを受けた宰相様は小さく咳払いをすると一歩前に出て軽く頭を下げた。
「第二王子殿下の冷静な御判断に感謝いたします。
魔王の呪いというのは、殿下の魔法で解呪可能でしょうか?」
「調べてみないとなんとも。でも、基本的に呪いは教会の専売みたいな所があるから」
ちら、と王子が聖女様を見ると、聖女様は眉を寄せて王子を睨む。
「教会は商売で行っているわけではありません。
少し休んで回復すれば解呪できるかもしれませんが、見たところ呪いの根が深いため難しいかもしれません」
聖女様が眉間に深いシワを寄せ、睨むような目で僕を見る。
自分の耳が垂れて尻尾が巻かれるのを感じて、僕はなんだか人間の時より自分の気持ちが表れてしまっている気がした。
「その姿で国民の前に出られては困りますね。
聖女様、難しくとも解呪をお願いできますかな」
「もちろんです」
「呪いが解ければよし、解けなかった場合のことも考えておきましょう」
宰相様はメガネの位置を整えて僕を見下ろす。
宰相様に見られると、僕は背筋がゾッとするような心地がして俯いてしまう。
『マナーも学もない、魔術はおろか剣術も体術もろくにできないアナタが神託の勇者だなんて私は認めませんよ』
城に来たばかりの頃、宰相様は眉間にシワを寄せて目を細めながら僕にそう言った。
僕は僕を見る宰相様の目や言葉が怖くて、勉強や訓練が辛くて思わず逃げ出してしまった事がある。
行く所ももなくうろつく僕を見た宰相様は「どうぞお逃げください」と静かな声で笑った。
『学びの機会を得ても努力しない者を無理に縛りつけたとしても、益はありませんので』
ここから逃げたかった。でも、逃げたって自力で家に帰れるなんて思えなかったから、逃げられなかった。
この場所でやって行かなければいけない事を、僕は宰相様に教わったんだ。




