11.伝説の聖女様
聖女様はまず、カイがどうやって軟膏やポーションを作っているか知りたいと言って二人で調剤室に入っていった。
その時、僕に「神官を見張っているように」と言い置いて。
「彼が聖王国や教会本部に連絡するとカイさんが面倒なことになりかねませんからね」
そう言った聖女様は本当に面倒そうな眼で神官様を見ていた。
「あの、貴方がクレア様と魔王討伐をされた勇者、レオンハルト様なのですか?」
「……わん」
さっき聖女様もそう言っていたのに疑ってるのか、聖女様が言っていても信じ難いのか、いかにも胡散臭げな顔で僕を見下ろしている。
「クレア様にも困ったものです。カイ様のことを思うなら、聖王国にお連れして教会本部にて修練を積まれる方がよろしいに決まっているはずなのに」
ぶつぶつと呟いたかと思うと、はっと目を見開いて立ち上がった。
「こうしてはいられない。教会本部に連絡を入れなくては!」
まずい。止めないと。
「わんわん、わんっ」
「レオンハルト殿、この村に外部と連絡をとるための道具はありますか?」
今すぐにでも連絡をとりに走り出しそうな神官様に必死で頭を横に振る。
「こんな田舎の村じゃ教会にも伝達の魔道具が配備されていないのか」
悔しそうな表情で座ったと思ったら、神官様は再び立ち上がる。
「隣町の教会ならもしかしたら」
「まあ、少し落ち着いたらどうかな? 神官殿」
相変わらず突然現れる第二王子が神官様を宥めて再び椅子を座らせて、慣れた態度でお茶を淹れ始める。
「貴方は?」
「私はこの国の第二王子アルベルト。今は犬に姿を変えられてしまったこのレオンと聖女クレア殿と共に魔王討伐をした魔法使いだ」
「失礼しました。私は聖女クレアと共に“伝説の聖女”捜しをしておりました神官レミと申します」
慌てて立ち上がって深く礼をする神官様に苦笑しながら先に着かせて、第二王子はお茶とお菓子を勧める。
「まあ、ゆっくりお茶でも飲んで。
クレア殿はいまカイと一緒なんだよね」
「ええ。本来ならカイ様にも教会本部にいる優秀な指導員に教わる方が良いのです」
「なるほど。でもクレア殿も聖王国で最も優秀な聖女なのでは?」
第二王子は神官様の言葉を否定せずに問いかける。
「はい。クレア様は最も優秀な聖女です。
しかし、指導者の資格は持っていません」
「指導者の資格ですか」
「はい。カイ様を立派な聖女に育てるためには、聖なる力の正しい制御法はもちろん、聖女としての振る舞い、そして聖女に相応しい精神を養っていただく必要があります」
早口でまくしたてる神官様の言葉を第二王子は頷きながら聞いている。
「なるほど、聖なる力を持つ者は力の制御と共にその精神性を育む必要があるのですね」
「そう! そうなのです殿下! クレア様は聖女としては立派な方ですが、後進の育成についてはあまりご興味がないようで力の制御や慈善活動に関しては積極的に行ってもらえるのですが、社交に関することに関してはあまり関わってもらえず」
第二王子の相槌に気を良くした神官様は「困ったもので」というような表情でするすると話を続ける。
第二王子は痛ましそうな表情で「気苦労が絶えないのですね」と頷く。
「わかってくださいますか!」
「ええ。今の時代、教会といえども慈善活動だけでは成り立たないこともありますからね」
「そうなんです! そもそも伝説と呼ばれた聖女様もそうです」
カイのお母さんの話だ、耳がピクリと動く。
神官様が一口飲む。
「伝説の聖女様も社交には積極的ではなかったのですか?」
「あの方は社交はしてくださっていたのですが」
「それ以上の何かを?」
第二王子が尋ねると、神官様は「話し過ぎましたね」と笑って紅茶を飲んだ。
「こんな気になる所で話を止められるとはお人が悪い」
第二王子は茶化すような笑って「こっそり教えてもらえませんか?」とひそめた声で聞きながら、茶菓子を差し出す。
小さなクッキーを食べた神官様は「くれぐれも私から聞いたということは内密にお願いしますよ」と言って小さな声で話しはじめた。
「実は、伝説の聖女様には行方をくらます前に縁談の話が上がっていたのです」
「縁談ですか。聖王国の貴族の方と?」
「当時の王太子です」
「それは」と口にして黙る第二王子に神官様は深く頷く。
「もう、教会内は上を下への大騒ぎですよ。
しかも、聖騎士の一人の行方もわからなくなっていたので駆け落ちだなんて話も実しやかに囁かれて、教会の面子は丸潰れです」
神官様は深いため息をついて頭を振る。
「王太子には縁談の話の前から婚約者がいましたから、聖女様はそれを苦にして姿をくらましたのだ。ということにして話をおさめました。
事実、王太子の婚約者は王太子と聖女様の仲が良いことに対して思うところがあったようですからね」
そもそも婚約者のいる相手との縁談をまとめようとするのが、どうかしているのでは? と僕は思うんだけど、政治的には違うのかな。
第二王子の顔を見てみると「気苦労が絶えませんね」と言いながらも、目が冷め切ってる。
「まあ、そういう所をまとめるのも神官の務めですよね」と言いながら頭をくらくらと揺らしていた神官様がテーブルに突っ伏した。
びっくりして両耳が立ってしまった僕に第二王子が笑う。
「やっと効いたね」




