10.軟膏の作り手は
聖女様がテーブルに出した軟膏はカイが作ったものに見えるけど、なんでそれを作った人を捜しているんだろう。
「少し見てもいいですか?」
「もちろんです」と言って聖女様はビンをカイに渡す。
カイはビンを持ち上げて底を覗き込む。
「これは私が作ったものです」
聖女様が頷き、聖女様の隣に座る神官様は目を丸くしてカイをまじましと見て頷いた。
「たしかに、似ています」
何か確信を得たような二人の様子に僕は「まさか」と思いながら黙って様子を見守る。カイは緊張した様子で手を握りしめている。
「カイさん、この軟膏の作り方はどなたに教わったの?」
「母です。軟膏やポーションの作り方は母から教わりました」
「お母様のお名前をうかがっても?」
頷いたカイは唾を飲んで口を開いた。
「マリエです」
神官様が息を呑んで「やはり」と呟いた。
「その黒髪も黒い瞳もマリエ様ゆずりですね。
お父様の名前は、フェリックスでしょうか?」
「はい。黒髪に青い目をしていました」
カイが答えると、神官様は深く頷いて「間違いないでしょう」と聖女様に向かって言った。
「あの、両親が何か?」
「カイさんのお母様こそが史上最高の力を持つと言われる“伝説の聖女”マリエ・フルヤです。
彼女は女神の導きにより異世界から聖王国に現れたと言われる女性です」
「異世界? そんな話、聞いたことないです」
首を振って、信じられないと言いたげなカイに聖女様は前のめりになって質問を重ねる。
「信じられない気持ちもわかります。お母様は今どちらに?」
カイは再び首を横に張る。
「もう、亡くなっています。父も」
「それは、失礼いたしました。
よろしければ私にカイさんの力を鑑定させてもらえませんか?」
カイは手を自分の胸の前で組んで、差し出された聖女様の手と聖女様の顔を見比べる。
「伝説の聖女ではありませんが、カイさんにも強い力があるはず」
「私には特別な力は……それに、母が本当に伝説の聖女様だって確信はないですよね?」
「この村に張られた結界が阻むのは“魔獣”と“野生の獣”、“村人の招かない人”でした。
そして、何より“聖女を捜す者”から村を隠すよう設計されていました。カイさん、これが何を意味するか分かりますか?」
「聖女様を守るための結界ですか?」
聖女様はゆっくりと頷いて「私もそう思います」と言った。
「実際に、私達が“伝説の聖女”を探す時にはこの村には辿り着きませんでした。
ですが、隣町でこの軟膏を見つけまして。これは教会で授与しているものと同じレシピで、しかもこの軟膏には聖なる力を感じました。
これを作った方に会うことができれば伝説の聖女への手掛かりになると考えて、軟膏を売っていらした方に教わった道を来たらこの村に着いたのです」
聖女様の話を聞くと、確かにカイのお母さんは聖女だったように思える。
カイを見てみると唇を噛み、眉を寄せながら聖女様の手を見ている。
「カイさん、私の力ではレオンさんを元の姿に戻して差し上げることができないのです」
ハッとしたように聖女様を見るカイ。
僕はカイに変なプレッシャーを与えて欲しくなくて聖女様を見る。
「わんっ」
「レオンさん、これはカイさんが決めるべきこと。
貴方が口を挟むことではありませんよ」
厳しい目で僕を見る聖女様に僕は何も言えなくなる。
「私がレオンを助けられる可能性があるということですか?」
「私は十分可能性があると考えております」
それを聞いたカイは胸元で握りしめていた手を聖女様の方に伸ばした。
「それなら、よろしくお願いします」
わずかに震える手を見て聖女様が優しく微笑んだ。
「緊張なさらないでください」
カイの手を聖女様がとる。
「ゆっくり息を吐いて」
聖女様とカイが目を閉じて息を吐く。
「ゆっくり吸って」
そうやって聖女様が指示をしながら何度か深呼吸を繰り返した後、ゆっくりと聖女様が目を開いた。
「ありがとうございます」
聖女様の言葉で目を開けたカイに聖女様はにこりと笑った。
「見込んだ通り、カイさんは私よりも潜在的な能力が高いようです」
聖女様の言葉に神官様が手を組んでカイを拝み出した。
カイと僕はそれにギョッとしたけど、聖女様は全く気にせずカイを見ている。
「ですけれど、その力の使い方は教わっていないのですよね?」
カイは何度も聖女様に頷く。
「わかりました。では、僭越ながら私が手伝わせていただきます」
「クレア様、お待ちください。マリエ様のお子様は一刻も早く聖王国にお連れしなければ!」
「お黙りなさい。
カイさんは、レオンさんをこのままにして何処にも移動してはくれませんよ。
違いますか? カイさん」
神官様に見せていた厳しい顔をカイには一切見せずに聖女様は尋ねる。
「はい。私は少しでも早くレオンを元の姿に戻したいです」
カイの言葉に満足そうに頷いた聖女様はカイの手を取ったまま、カイの隣に来て視線を合わせた。
「カイさんが持てる力を使えるよう、微力を尽くします」
「精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
カイも立ち上がって頭を下げていて、それを見た聖女様は頷いていた。




