9.村への訪問者
村に張られている結界については、魔法オタクの第二王子に聞けば何かわかるかもしれないけど、第二王子に連絡する手段もないし、言葉が通じない今、どうやって聞けばいいかもわからないため、聖女様の知らせを待つ以外僕にできることはない。
そんな事を考えながら教会の掃除をするカイを手伝っている。
「レオン、ありがとう。高いところは全然手が届かないから本当に助かる」
天井付近に溜まったホコリを軽い風魔法で払い落とし、隙間に溜まっていたチリと一緒に外へ出してしまう。
浄化の魔法で一気に綺麗にしてしまうか最初に聞いたけど、悩んだ末にカイは「仕上げにやってもらおうかな」と言っていた。
『やれることは自分でやる』『楽をしない』と言っていた神父さんの意思を汲むらしい。
カイが楽をしてるとは思わないけど。
教会の中の掃除を終えて、壁をに付いている蔦を払っている時だった。空気が揺れるような感覚に動きを止めて感覚を研ぎ澄ませる。
誰かが結界に干渉しようとしているみたいだ。
こんなことするのは誰だ?
誰かがカイに害を与えようとしている可能性を思うと、じっとしていられなくて走り出した。
結界に干渉しようとするのが魔物か人間かはわからないけど、今も小さな揺らぎのようなものが感じられる。
魔王討伐の旅の時、宿全体に張っていた第二王子の結界を解こうと外部から干渉をされた事がある。その時にも、こんな風に空気が揺れるような感覚があったことを考えると、獣というより人間が結界に細工をしているんだろう。
この村に繋がる道は一本だけだ。先ずはそこの様子を見よう。
村の入り口を隠れて見てみると、ローブで姿を隠した二人組が柵の向こうにいる。
明らかに怪しい。攻撃をして追い払うのがいいのか、何も被害がないのだから諦めるのを待つのがいいのかと考えていると背の低い方の人が顔の前に手を当てた。
「レオンさーん!! いますかーー!?」
それはよく聞き覚えのある声だった。
「知り合い?」
膝に手をついて息を切らしながら声をかけてきたのはカイ。
何でカイがここにいるんだ、と目を丸くしているとカイが村の入り口に近付いていく。
「レオンのお知り合いですか?」
「貴女は?」
「私はこの村の住人でレオンの幼馴染のカイです」
カイの言葉を聞いて「失礼しました」とフードを外した。
「私はレオンさんと旅をした聖女クレアと申します。こちらは私の供をしています神官です」
聖女様に続いて、神官さんもフードを外して頭を下げた。
「そうでしたか。どうぞお入りください」
「え? いえ」
戸惑う聖女様に僕もカイの隣に立って頷く。
聖女様はお供の神官さんと顔を見合わせて、神官さんが先に村に入り、目を丸くして聖女様を振り返って頷く。聖女様も確認するように村に足を踏み入れ、カイを見た。
「村の結界はどなたが?」
「結界? ああ、野生動物や魔物が入らないように結界を張ったと聞いたことがあります。
確か、神父さんが」
「この村の神父が……?」
考えるような表情を見せて聖女様が神官さんを見ると、神官さんは首を横に振る。
「村の神父に会うことはできますか?」
「いえ。高齢の方で、もう随分前に亡くなりましたので」
「そうですか……結界を張った時、どなたかに依頼された。などはありますか?」
「当時のことを知る人がいないので、はっきりはわからないんですけど、外部の方に依頼はしていないと思います」
カイが「知ってる?」と僕に尋ねるけど、僕も知らない。
いや、そう言えばお父さんから聞いたことがある気がする。
『村にまで魔獣が来なくて済むのは、カイちゃんのトコのお母さん、お父さんのおかげだな』って。
あの時はカイのお父さんが狩をしてくれていることを言ってるんだと思っていたけど、いま思うと結界のことを言っていたのかもしれない。
「わん、わんわん」
「んー……ごめん、レオン。わからない」
さすがに伝わらなかったらしい。仕方ないか。
「良かったら私の家に来ますか? たいしたおもてなしはできませんけど」
「お言葉に甘えて、お邪魔させていただきます」
家で第二王子が置いていった紅茶を出したカイ。紅茶を飲んで一息ついた聖女様は、姿勢を整えて僕を見た。
「あいさつが遅れましたが、お久しぶりですレオンさん。お元気そうですね?」
「わん」
王城にいた時と比べると、自分でもわかるくらいに元気な自覚がある。
「何よりですね」
「聖女様は、レオンを探しにいらしたんですか?
アルベルト様から“伝説の聖女様”を探されていると聞いているんですが」
村に来た聖女様はお供の神官さんと二人だけで“伝説の聖女様”はいないみたいだ。
「伝説の聖女は今も捜しております。その途中、私たちはこれを見つけまして」
聖女様がテーブルに何を置いたのかが気になり、見てみると小さなビンが置かれていた。
「この軟膏を作った方がこの村にいると聞いて来ました。これを作ったのは、あなたですか?」
聞いているが、聖女様の目はカイだと確信しているようだった。




