3ポスト目③ 日常業務デー…?
ハルトの最初のポジションは身分証と予約のチェック係だ。難しい仕事ではないが大勢を相手に笑顔を絶やさない接客は初めてで、最初の方はぎこちなかった。次第に慣れてきたころに何名かから「SNS担当官さんですか?」と聞かれた。知名度が上がっている証拠であり嬉しい反面、前のように絡まれたらどうしようという不安もよぎる。
「…ハルト君、そろそろ撮影に回ってもいいですよ」
入口で挨拶をしていたフェリックスが、一瞬だけインカムを外しハルトの横で耳打ちする。
「はい!ありがとうございます!」
「あ、腕章も忘れずにお願いしますね」
記憶力の良さといつも気配りを忘れない姿勢を見ると、フェリックスが公使に選ばれた理由が少しわかった気がした。
報道と日本語と王国語で書かれた腕章を身につけ、会場入りする。壇上では早速、日本人の旅行系インフルエンサーの男性が外国と王国の違いなどを面白おかしく話していた。
「王国ではですね、スマホ圏内がめっちゃ限られてるんですよ!だから、ちょっと外に出ると本当に無力ですよ!なのに、王国民ときたら『なんで魔法使わないの?』みたいな目で見てくるんです!使えるなら使いたいですよ!!」
ドッカンドッカンと笑いが起こる。一歩間違えれば王国の悪口にも聞こえるが、軽快な切り替えしで上手いこと笑いに昇華している。ハルトはカメラを構え、YouTuberと笑顔のお客さんの動画を撮る。そしてブースに移動し、来場者と笑顔で接客している風景などを撮る。そして手が空いてそうなタイミングを計って、インタビューをした。
『王国の絶景を見に行きたいと思いました〜!』
モニターには若い女性2人組が楽しそうにインタビューに答えていた。
「…ここは動画で使いたいな。構成は…どうしようかな」
そして早速お昼を食べながら映像チェックを行なっているハルト。
『え、お兄さんが動画出てるんですかー?えー!今すぐフォローします〜!』
「あー、ここでチャンネルの案内をサッとしたかったなあ…名刺とか、ステッカーでも作ろうかな…」
そうこう考えているうちに、一人の若い男性職員が大慌てで休憩室に飛び込んできた。
「すいません!どなたか、エルド・グランさん見かけてないですか?」
室内は静かになり、辺りをキョロキョロ見回す人もいたが、探し人はいないようだった。
「ああ…どうしよう…どうしようぅ…」
絶望で地面に突っ伏し出した彼にハルトは思わず声をかけた。
「あの、エルドさんって今日のメインゲストですよね…。どうされたんですか?」
「ハルト君…それが、時間通り楽屋入りはしてくれたんだけど…ちょっと目を離した隙に、こんな書き置きが…」
差し出された紙ナプキンには「ちょっとそのへん、さんぽ エルド」と書かれていた。
「もう、どうしよう…エルドさん、絶対帰ってきませんよ…」
職員は今にも泣きそうになっている。それもそうだろう。登壇予定のエルド・グランは自由人として有名なのだ。そんな彼だからこそ、日本と王国に繋がる井戸を見つけたのかもしれない。
「今日の僕の仕事はエルドさんの見張りだったのに…どうしようぅ…」
「トードさん、大丈夫ですか?話は聞きましたよ」
そこに颯爽とフェリックスが現れた。インカム経由で話が伝わったのだろう。
「トードさんは裏口で待機していてください。何人かに外に捜索に行かせますので。もしもの場合は私がなんとかしますから」
「フェリックスさん…」
フェリックスはトードを支えながら立ち上がらせ、笑顔で話しかける。そして、あと一滴で涙が溢れそうになっている彼の顔を見て、ハンカチをスッと差し出した。
「これはあなたのせいではありませんよ。チームで解決しましょうね!」
「…はい!!!」
すっかり立ち直ったトードは駆け足で裏口に向かった。
「さて。ハルト君、撮影のほうは順調ですか?」
「そうですね…ほとんど終わっていると思います」
「そうですか。それは良かったです」
フェリックスが今までに見たことがないほどの笑顔を見せてきた。
「えー、この時間は本来なら、日本とアルヴェロイザ王国の架け橋となった、初めての訪日アルヴェロイザ王国民のエルド・グランさんのトークショーの予定でしたが…残念ながら、いつも通り気ままに散歩に行ってしまわれましたので…」
会場の観客の視線が、壇上の話者に刺さりまくる。
「変わりまして、在日アルヴェロイザ王国大使館公式SNS担当を勤めております、私ヴァッハロイザが担当いたします」
次回は8/6 18時半の公開です!




