1ポスト目③ SNS担当官と申します…!
「もーーーーー!!ハルト君??男前が台無しやで!!!」
放課後、3人は大使館の空き会議室に集まっていた。
圭介と綾乃が持参した大量の機材やらなんやらで部屋が埋め尽くされ、一角にはきちんとした撮影スポットができていた。セットはテーブルに椅子、白い壁というシンプルな構成だ。しかし、照明など舞台裏はキチンと整えられていた。これは「ボンボンYouTuber」をやっている圭介の腕前だ。
肝心のハルトは言われるがままのお人形状態だった。そして今は圭介監督から熱血指導を受けている。
「はい、ほなもっかい冒頭から撮るで!」
「え…嘘でしょ?もう3回も撮ったじゃん…」
「あかんあかん!顔も固ければ、リアクションもうっっっっすいねん!!!さっきから言うてるやん!なんで『美味しいです』しか感想ないねん!幼稚園児でももっとインタビューされたら答えんで?はいもっぺん、最初から!」
ハルトは疲労を隠しきれておらず、さらには納豆ご飯を3杯食べたのでかなりお腹いっぱいだった。すでに思考することすら放棄したいレベルだった。
「こんにちは。在日アルヴェロイザ王国公式広報担当です。本日は、日本の食文化を体験をしていきたいと思います。」
「ってかさ、やっぱり台本変えへん?」
「は?待って、今更?」
カメラの向こうからヒョッコリと、悪びれもせず顔を覗かせる”金だけケースケ“の顔面をぶん殴りたいと、ハルトは初めて思った。
「せやかて、真面目を絵に描いたようなハルト君が『文化体験をします』ってかしこまってても、そのまんまやねん!」
「王国公式広報だから真面目にするんだろ?」
「インパクトがないねん!」
「要らないよ!インパクトなんて!」
「SNSは目立ってなんぼやで!!」
「悪目立ちして炎上したらどうするんだよ!!!」
「そんときはきちんと謝罪して、次にはネタにしてればええねん!」
「ネタとか簡単に言うなよ!!」
「ハルトと俺ならできるって!!」
「できない!!」
「できる!!」
「もう2人ともうるさい。廊下まで響いてて、職員さん驚いてたわよ」
スマホを片手に、「来客」と印字されたカードを下げた綾乃が現れた。ヒートアップしていた2人は、しばしの休戦となった。
「はー…おっそいねん、綾乃は。何してたんや?」
「まずはロケハンしてたのよ!この大使館、本当にどこで撮影しても映える未来しか見えない…!」
綾乃はキラキラした表情でこちらに近づいてくる。しかし、ハルトの周りを見た瞬間顔色が変わった。
「え、嘘でしょ?それがセットなの?え?リハ?」
「んなわけあるかい!ここが最高のスタジオや!!」
「え?どう見てもただの会議室じゃん。いや、家具はシンプルだけど、きちんと良いものだと思うわよ?でも、折角のアルヴェロイザの絢爛な大使館で撮ってるのに、ありえないじゃない!!」
「とりあえず、休憩させてくれ…」
ハルトは会議室の隅でお茶を準備し、綾乃は先ほど撮ってきたであろう大使館内の写真を何度もスワイプし、圭介はホワイトボードにセリフを書いては消してを繰り返していた。配り終えると綾乃の隣に座った。
「うーん、ここもいいんだけど、ちょっと主張が激しいかな…」
「ただの廊下じゃない?」
「そんなことないわよ!この壁紙も一見するとクリーム色単色に見えるけど、うっすらとオーロラのように波打ちながら光る模様があって、すごく神秘的じゃない!」
「あー、そういえばたしか、その壁紙の顔料に魔力鉱石が使われてるはず…」
「すごく素敵じゃない!そういうところもアピールしないと!」
「そうかな?王城では普通に使われてるし…」
「地球ではそんな技術ないのよ?」
「…!そう言われればそうだね。広報で王国の産業や技術もアピールできるかもしれないな…」
「なんだか思ったより大人な話になったわね…でもそれもハルトらしいアカウント運営方法かもしれないわね」
「よっしゃ、台本直したで!さ、ハルト君、撮影再開するか!」
「もうお腹いっぱいだって…」
「待って、その服で撮影してたの?」
ハルト含め皆制服のままだった。
「え、ダメかな?」
「ダメでしょ!!学校特定されてもいいの?」
「そっか…失念してた…」
「まあどっちみち全部ボツなんやから、落ち込まんでええんやないの?」
「落ち込むって!!!!」
次の日、執務室にてアンディウスがタブレットを熟読していた。
「どうすれば、納豆国際問題を鎮火させられるか。父上のご指示に従い、企画を立案いたしました」
デスク越しに、ハルトが少し緊張した面持ちで様子を伺っている。
「ふむ」
ハルトが提出したペラ1の企画書のタイトルは「5月1日定例記者会見で問題提起された、納豆国際問題解決に向けたSNS投稿について」だ。
「背景、目的、期待される反応、リスク分析。とても簡潔にまとまっている」
そしてアンディウスが眼鏡を外し、広報担当のほうに笑顔を向けた。
「ありがとうございます」
「ではこの企画を承認する」
「はい!」
「んで、この動画になったっちゅーわけか…」
「そう…なんで思った反応が得られないんだろう…」
いつもの昼休み。圭介のスマホにはアルヴェロイザ王国公式SNSの一本の動画が映されていた。
「こんにちは。在日アルヴェロイザ王国大使のアンディウス・ヴァッハロイザです」
笑顔の大使の隣に程よく緊張している様子のハルトが立っている。大使館の見栄えの良いホールで撮影している。
「こんにちは。私は在日アルヴェロイザ王国大使館公式SNS担当官です。本日は大使と一緒に、日本の食文化を体験します。それは、こちらです!」
すると画面外からお皿にのった納豆巻きが2本出てきた。
「納豆巻きです!」
「では、いただくとするか」
「はい!いただきます!」
二人のイケメンは納豆巻きを手に取り、一口齧る。
「…」
「…」
咀嚼をする。
一口齧る。
そして咀嚼する。
三口目を咀嚼し終え、ようやく彼らは口を開く。
「うむ。やはり納豆巻きは美味しいな、SNS担当官よ」
「はい。とても美味しいです、大使。」
目線を交わし、その後カメラ目線になった。そして動画は終わった。
「なんでこんな仕上がりでアップしてんねん…」
圭介は珍しく低燃費モードで話し始めた。
「え…?結構リアクション頑張ったんだけど…あとは、父上…親父のネットでの評判も悪くないから、登場して貰ったんだ」
「イケメンやもんな。ハルト君に似て」
逆なのでは、と思ったが自分がイケメンだと言っているようなものなので、ハルトはそのまま流した。
「なのにコメント欄が…」
『リアクション以外は完璧。特に顔面。笑』『カメラの向こうで人質取られてる?』『みんな気づいてないけど、実は2人とも納豆菌に意識を支配されていて、無理やり食べさせられてるんだよ。』
「ちゃんと撮影場所も厳選して、企画書も台本も親父に承認を得たのに…!」
「いや、俺言うたやん。ちゃんとリアクションせえへんとって」
「え…したんだけど…笑顔じゃん」
圭介は流石YouTuberと言うべきか、口を大きく開き、目も見開いてから続けた。
「なんで無言でモグモグすんねん!!動物園のおやつの時間ちゃうんやぞ!」
「それは私も圭介に同意かな。動画だから普通の反応じゃ薄く見えちゃうのよ」
いつも通り、気がつくと綾乃がいた。
「まあでも、結果オーライなんじゃない?だって、バズったじゃない!」
そう、この投稿がアカウント開設以降初の爆発的な伸びとなった。ネットニュースにも取り上げられ、フォロワーが一気に1,000人を突破した。
「うん…そうだね。想定したような結果じゃないけど…」
「SNSなんて色んな意見が飛び交うんやから、しゃーないて」
「それもそうだね…!二人とも協力してくれてありがとう!」
次回更新は8/2 12時です!フォローはもうしてくれましたか?
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