10ポスト目① 交流会、そして休日
「それでは軽く自己紹介をお願いします」
ハルトはカメラの向こう側から聡子に話しかける。
「はい。…あの、これってカメラ目線の方がいい?それともあなたを見て答えればいいかしら?」
オフホワイトのボウタイ付きのブラウスに、黒のスラックス、ふわっと巻いた髪、一見丸の内で通勤していそうなビジュアルの聡子が尋ねる。
「そうですね…では私の方を見ていただけますか?」
「わかったわ。島津国聡子と申します。慶嘉大学法学部3年です」
「ありがとうございます。ではこの夏季インターンの約2週間を振り返って、特に思い出深い出来事を教えてください」
「そうですね…。政務部ですかね。そこでは、日本国内で行われているアルヴェロイザ関連事業について、各種報道やSNSなどでどのように広報されているかを調査し、今後の発信方法についてまとめるという演習を行いました。実務に近い経験により、日本におけるアルヴェロイザの認知をもっと広めることの重要性を改めて認識しました」
「なるほど。では次に、当大使館のインターンは、王国からの参加者と日本人がペアになっての体験が多かったと思います。その点についてなにかエピソードがあればお願いします」
「そうですね…。私のペアは、飛び級をした15歳の子だったのですが、土曜日に開いていただいた大使館職員や民間企業との交流会の場で…」
「ふう…緊張するわね…」
聡子はパウダールームで化粧や髪型のチェックをしていた。念のため、美容室でセットしてもらった髪に、ちょっとお高めの花柄ワンピースにヒールだ。母から借りた真珠のピアスとネックレスで格式を上げている。完璧な容姿を確認してから、聡子は交流会会場へ向かった。
「おお!聡子ー!こっちこっち!」
1日目と同じスーツだが、グレーのシャツに赤・紺・黄色のアイビーストライプのネクタイ、赤のポケットチーフで決まっている嵐學が手招きする。
「わあ〜!似合ってるね〜」
初日と同じく、王立大の礼服に特に整えていなさそうな髪のイムハシ。
「イムハシくん、ありがとう。…あれ?ミミリーナってまだ来てないの?」
「まだ見てないよ〜。…あ〜、来たかも〜」
聡子は振り返り、入口を見る。しかし、見慣れた姿の子はおらず、初めて見る服のミミリーナに背格好がよく似た子が入ってきた。
「あー!みんなー!早いね!」
深紫色のベレー帽をかぶり、長い髪をシニヨンにきっちりまとめ、グレーの軍服に身を包んだ少女がピカピカのブーツで駆けてきた。
「軍事学部だったんだね〜」
「そうなの!あれ、言ってなかったっけ?」
「え、ミミリーナって軍人なの…!?」
「うん!まあ、まだ学生だから正確には、王国軍隊員補だけどね」
「かっこいいな!似合ってるぞ!」
「ありがとうー!」
”教官“からの推薦と言っていたり、発表の時の堂々とした態度に軍事学部生という立場に合点がいった聡子だった。
「ホテルでアイロン借りてたんだけど、初めてだから時間かかっちゃって…。本当は魔法使いたかったけど」
「軍事学部って大変だよねえ〜」
「もう、本当にね…授業は面白いんだけど、規律とかに慣れるまで叩き込まれるから…」
「軍学生は共通科目でも集団行動取ってて本当にすごいよ〜。僕なんていつもギリギリなのに〜」
「まあでも進学できてるならいいんじゃないか?」
「だよね〜」
「大学って真面目に通い詰めるゲームじゃないもんね。私はGPA気にしてるけど」
「島津国さんはすごいね〜」
そうしてそのほかの参加者も続々と揃ったところで交流会が始まった。アンディウス・ヴァッハロイザ駐日大使、続いて外務大臣政務官の挨拶の後、乾杯となった。会は立食形式で、お酒も出ているがガブ飲みするような人はいない。
「わ…あの名札みた?私のエクセルの検討企業の上位を占めてる会社ばっかり…」
聡子が嵐學に耳打ちする。
「え…?エクセル?何だ?」
「私、就活に向けて検討要素をエクセルにまとめてるの。これ」
聡子がスマホにエクセル画面を表示する。企業名、業種、初任給などのあとに産休育休の取得率などが網羅されていた。
「聡子…お前ちょっと気持ち悪いな…ってかなんだ?この離職者の声ってのは…」
「私、転職サイトに登録してて、リアルな声も集めてるの。辞める決断をした人の意見って貴重でしょ?」
「…もうすごすぎて、何も言えねえよ」
「私ちょっと挨拶してくる…!」
「慶嘉の法学か!僕も卒業生だよ」
「本当ですか!OBですね!」
「高橋先生ってまだ教鞭取られてる?僕、何度も授業中に寝落ちしたよー」
「私も友達と起こし合いながら、なんとか起きてます」
「いつの時代も変わらないねー。ところで、志望業種とか決まってるの?」
「いえ、まだ決めてなくて…。でもやりがいのある仕事を求めています」
「はやく決めた方がいいよ。まあうちなら君みたいな子は大歓迎だよ」
「はい…!」
「あ、君もしかしてウラディ教授の研究室の子?」
「あ、はい〜そうです〜」
「じゃあ、電気と魔力互換研究の子?」
「そうです〜。詳しいですね〜」
「わあ!お会いできて光栄だよ!うちの研究チームもずいぶんお世話になっててー…」
聡子との会話より、明らかにテンションが上がっている。しかもイムハシの周りには自然と社会人が集まり、専門的な会話に発展している。
「今は変換効率より、連続稼働したときの波力波動の安定性を軸にしていて〜」
「はあ…完敗だわ…」
聡子は飲み物を取りに集団から離れた。
「その合同演習の報告書、拝見しました!学生ミーティングでは、もっと航空部隊と飛龍部隊の連携を…」
ミミリーナの周りにも人が集まっていた。片手にはスイーツを盛った皿、口横にクリームをつけたまま話しているが内容は真面目なものらしい。
会場を見渡し、嵐學を探す。見つけた先では嵐學が持ち前の明るさと、物怖じしない態度で有名企業の役員と談笑していた。しかも名刺まで貰っている。聡子は無言で泡もののアルコール入りグラスを取った。
「私の市場価値が…」
「島津国…さん、だよね?お料理はお口に合いましたか?」
聡子の隣にいつの間にか大使がいた。聡子は驚いた拍子にアルコールが気管に入りそうになるのを必死に堪えた。
「アンディウス大使…!こんばんは」
「今期のインターン生の様子を公使や小野部長から聞いているよ。島津国さんはとても優秀だと」
「本当ですか…?でも、この交流会ではあまり、顔を売れてなくて…」
「毎年王国民の方に会話が集中しがちなんです。そこは課題ですね。しかし、王国から見れば優秀な日本人がアルヴェロイザに関心を持ち、こうして関わってくれることも同じくらいありがたいことなんですよ」
「そうなんですかね…」
「王国の参加者はドラゴンのようなものです。地球の方ならみんな見にいくでしょう。でも、猫が嫌いになるわけではない。そういうものです」
「…なるほど…?」
わかったような、わからないような例えだったが、今の聡子の焦りを落ち着かせるには十分だった。
「ところで…うちの公式SNSってフォローしてる?」
「え、あ、してますよ!ご子息が更新されてますよね」
「本当?嬉しいなあ。どう?うちのSNS面白い?どうかな?」
先ほどまでは駐日アルヴェロイザ王国特命全権大使だったが、いまは完全に父親としての顔になっていた。




