9ポスト目③ 夏季インターン初日〜発表編〜
120分後ーーー
「時間になりましたので、みなさん作業を中断してください」
「ふーーっ。終わったな!みんなお疲れ!」
「お疲れ様!あとはミミリーナの発表にかかってるわね…」
「がんばれ〜」
「うん!任せて!」
「…ということで、『着火魔法の限定的な使用』の提案でした。ご清聴ありがとうございました」
あちこちで拍手が起こる。日本人の代表者が緊張から解き放たれたように肩の力を抜いていた。
「はい、ありがとうございます。ではまず、ブルールーさんから質問があれば」
「そうですね。とても良い案だと思いました」
小野の隣で静かに発表を聞いていたのは、自動掃除ロボットで遊び、『北海道と沖縄、一日で行けると思うよね』と頷いていた例の女性総務部職員だった。ハルトは初めて名前を聞いた。
「しかし、違反の検知方法が少しわかりにくいかなと思いました。普通の火事と、魔法由来の事故や火災をどう区別するのか。また、その場合の罰則の違いなどどう思いますか?」
「あー…えーっと…そのー…それは、日本の従来の火災関連の法律に準拠するかたちで良いかと…。あとは…どうでしょう…ちょっと、魔法はあまり詳しく無いので…」
「…まあそれもそうですね。私からは以上です」
ブルールーはにこやかに笑っていたが、詰めが甘いと顔にハッキリと書いてあった。
聡子はこの一連のやり取りをみて、うちの班は大丈夫だろうかと不安になった。嵐學はどこから出てくるのか不思議な自信を持っているし、イムハシはいつもふにゃふにゃしているし、ミミリーナも緊張している様子ではない。まあ代表として緊張しっぱなしよりかはマシなのかもしれないが…。
「ミミリーナ…!詰まりそうになったら、私がカンペ出すから、こっち見てね?あとは、大きな声で…」
「もー大丈夫だよ!聡子は心配性だなあー。ちゃんと教えてもらった通りにするから、安心して!」
ミミリーナが聡子の背中をバシバシと叩く。聡子はその痛みのせいで、冷静さを取り戻したようだった。
「はい!私達の班からは清拭魔法の草案を発表させていただきます!」
ニコニコな笑顔と腹から出たミミリーナの声で発表が始まった。
「これは前回のインターンでも出てましたね」
とブルールーが小野に耳打ちしていた。一安心したのも束の間、それが聞こえてしまった聡子は一気に血の気が引いた。これは今までの同じ草案の蓄積がある分、最後の質問が厄介になると思ったからだ。
聡子の不安とは裏腹に、ミミリーナの発表は滞りなく進む。イムハシが書記をしながら、パパッとスライドも作成したため、見た目は良いのだ。
「では以上で発表を終了します!ご質問はありますか?」
「では私から。清拭魔法で取り除いたゴミを、種類によって下水に流すなどとおっしゃっていましたが、分類しづらいものについてはどのように処分します?」
「それはですね…」すかさず聡子は「ラベルを貼って可燃ゴミ!!!」とカンペを書く。それをチラッと見て確認したミミリーナが「清拭魔法によって分離されたものとわかるようにラベルを貼り、一般的な可燃ゴミとして出します!」と淀みなく答えた。聡子は静かにガッツポーズを決めた。
「ありがとうございます。次に私から。術者と対象者の間に合意が取れていないまま清拭魔法を行使した場合の罰則など、考えていますか?」
聡子のカンペの手が止まった。この議題については上がっていたのだが、時間が足りず後回しにしていたのだ。心拍数があがり、聡子はただミミリーナを見つめるだけだった。
ミミリーナは聡子達を一度見てから、態度は変えずに発言した。
「その点につきましては、我々の議論不足でした!ご指摘ありがとうございます!」
ミミリーナは本当にその指摘がありがたいというような様子だった。聡子だったら、完璧に回答が用意できなかったと落ち込んでしまう所だと思った。
「ちなみに、小野さんは先のご質問についてどうお考えですか?後学のために、お聞かせいただければと思います!」
「あ、私の意見ですか。…そうですね。私は法律家でもないので参考程度でお願いしたいのですが、本人の同意がない場合を一律で処罰するのではなく、身体への使用か、物品への使用か、また本人との意思疎通が難しい場合などに分けて考えますね。みなさんの草案の通りの使用方法の場合、対象を大きく損壊するというものではないので、直ちに重い罰則を科すようなものではないかと…」
「なるほど…!ありがとうございます!他にご質問はありますか?」
職員たちは首を少し横に振ったり、様子を伺っているようだった。
「では発表を終了いたします!ご清聴ありがとうございました!」
これまでの発表より大きな拍手が会議室に響き渡る。危惧していたような失敗は起きず、ミミリーナの度胸と愛嬌には感心した聡子だった。
「それじゃあ、みんなおつかれ!乾杯!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
4人は大手チェーン店の居酒屋に来ていた。
「ほんと、ミミリーナの発表凄かった!瞬発力というか、素直な受け答えも良かった…!」
「そうかな?聡子がちゃんと仕込んでくれたおかげだよ」
「なんだか、よくわかんない味になっちゃった〜」
イムハシが手にしているグラスは、禍々しい色の液体で満たされていた。
「えー?イムハシ、お前何種類のジュース混ぜたんだよー」
「次はオレンジジュース少なめにして、ウーロン茶と〜」
「…それ飲み切ってよね?」
「私もするー!」
続々と料理が運ばれてきた。王国民の2人が一つ一つの料理に歓喜の声をあげ、日本人2人が解説をする流れになっていた。
「え?マジ?島津国さんって慶嘉なのか!?」
「うん、そう。あれ?言ってなかったっけ?」
「ケーカって、トップレベルの大学だっけ?」
「そうだぞ。しかも法学って、文系の中でもさらに偏差値高いんだぞ。俺ももうちょっと学力あればなあー。受けたかったぜ」
「そっか〜。地球は学力によって入れる学校が違うのか〜」
「アルヴェロイザは違うの?」
「地球や日本の大学に該当する学校は王立大だけだよ〜。あとは職人とかの専門的な養成所とか、外国の大学に入るかだね〜」
「私カシオレおかわりしようかな」
「あ〜じゃあ僕の分も〜」
「本当甘党ね。っていうか、ソフドリの混合物ちゃんと飲んでよね?」
「大丈夫だよ〜。炭酸まぜれば、なんとかなりそうだもん〜」
「えーーー!ミミリーナってまだ15歳なの…!?若そうとは思ってたけど…」
「そうだよ!12歳で王立大に入ったよ!」
「そういえば、アルヴェロイザは飛び級システムあるって授業で聞いたような気がするぜ…」
嵐學は山盛りの丼をガツガツと大きな口で食べ進める。
「何人かいるから、そんなに珍しくないと思うけどなー…」
「いや、珍しいよ〜。僕の周りにはいないもん〜」
イムハシはそびえ立つ山のように盛ったスイーツを次々と注文し、胃に収めていた。そんな様子を見て聡子は少し引いていた。
「イムハシくんって、専攻は?」
「僕は、魔法学部の現代魔法学科の魔導科学融合研究室だよ〜」
「なんかすごそうな名前…。科学との融合ってどんなことしてるの?」
「うーんと。人によって研究内容は違うんだけど、僕は簡単に言うと魔力と電力の変換についてだね〜」
「イムハシって見た目からは想像できないが、すごい研究者なんだな!」
「よく言われるよ〜。僕は教授に勧められて研究してるだけだし、教授の推薦でインターンにきてるんだよね〜」
「あ、私もだよ!教官方の推薦なの!」
「俺ら日本人は自主的に応募し、高倍率を勝ち抜いた大学生がインターンに来れたんだが、事情が全然違うんだな!」
「私も志望動機とかかなり時間かけて作ったのに…」
「僕、何もしてないのに決まったよ〜」
聡子は少しだけイムハシのことが憎くなったそうだ。




