6ポスト目③ 期末テストにつき、投稿をお休みいたします
タイマーを15分にセットし、圭介の目の前に置いた。
「とりあえず15分だけ日本史しよう!」
「え!15分だけでええん?!」
「うん!15分だけ日本史の教科書読むだけでいいよ!」
「え!?しかも読むだけ…?なんかの詐欺やったりせえへんか…?」
「とりあえずスタート!」
ピピピピ…ピピピピ…
あっという間にアラームが鳴った。珍しく圭介は静かに自習していたのでハルト自身も集中することができた。
「終わったで!楽勝やったで!」
「お疲れ様。じゃあ次は15分だけ数学しよう。解き方わかんなかったら俺に聞いていいよ」
「…数学は苦手やねんけど…。ちょっとだけやるか…」
ピピピピ…ピピピピ…
「ちょっとだけ解けたで…!あ、この問題の途中式わかる?」
「どれ…ああ、この問題ちょっとわかりにくいよね。これは…」
「いやあ、ホンマにハルト君は優秀やんなあ。さすが俺の親友!」
「いやいや。圭介こそ、30分も勉強できたじゃん!」
「…ほんまやな。すごいな、俺は」
5分の休憩を挟んだのち、再び15分×2の勉強をした。そして次の休憩タイムで2人は庭に出た。
「え、勉強中に運動するん?」
「軽いやつね。なんか記憶力を高めるには、10分程度の軽い運動が良いらしいよ」
「ハルト君はなんでも知ってるなあ〜。でも、たしかにちょっと体動かしたい思うてたんよ!」
ふたりの勉強家は軽いジョギングをはじめた。しかし、男子学生が運動を始めたとなると勝負心に火がつくのは当然で…
「ハルト君は体力あらへんなあ〜」
「はあ…はぁ…圭介が、体力お化けなだけ…で…」
いつの間にかシャトルランが開催されていた。庭で走っているが、一応大使館の一般出入り口から見えない場所で行っている。一部の窓からは2人の勝負の様子を観察できる。
「若いお2人ー」
フェリックス公使がペットボトル2本を手に、近づいてきた。
「ちゃんと水分摂ってくださいね」
「おおきに!おっちゃん、めっちゃええ人やなあ!」
「ちょっと、おっちゃんじゃなくてフェリックスさんだよ。フェリックスさん、こちらは友人の境田圭介です」
「いつも動画拝見しております。ハルト君とのコラボ動画も面白かったですよ」
「ほんまでっか!?おっちゃんにも見てもろおてるなんて、嬉しいですわ!」
公使から差し出された手を握り、ブンブンと握手する圭介。
「だから、フェリックスさんだって…」
冷えたスポーツドリンクを乾いた喉と体でぐびぐびと飲むハルト。そしてそのまま日陰に移動し、へたりこんだ。
「えー、ハルト君もう終い?」
「ちょっと、だけ…休憩…」
「もしよろしければ、私がお相手いたしましょうか?」
「フェリックスさんがですか…!?」
「お、おっちゃんいけるんか?明日筋肉痛になっても知らへんで!」
にっこりといつものように余裕そうに微笑むフェリックスは早速ジャケットとネクタイを脱ぎ、シャツの袖を捲っていた。
圭介がハルトの隣で立ったまま休憩をしている間に、フェリックスは準備運動を始めた。彼曰く「年も年なので、準備運動しないと大変なことになるんですよ」とにこやかに語っていた。そして「圭介くんは先ほどまで動いていらっしゃいましたからね。少し休憩がないとフェアではありませんから」とも語った。「あのおっちゃん、煽るの上手すぎひん?」と圭介は笑い、スポドリを飲む。
そうしてフェリックスの準備が終わり、正式なシャトルラン勝負が始まった。計測はすでに体力のなくなったハルトだ。
「ではいきますよー」
規則的な速さで音階が鳴る。最初は2人とも余裕だ。
「おっちゃんここらへんにしときー?」
「いえいえ、準備運動の続きみたいなものですので」
そうしてだんだんテンポが速くなる。余裕そうに会話までしていた2人はだんだんと走りに集中しはじめた。すでに悪夢のような早さにもなったにも関わらず、2人の足は止まらない。そして気がつくと職員の数名が庭に出たり、窓を開けて観戦していた。
「…っは。ここで退散します…!」
汗だくになり、息もあがった公使はハルトのように芝生の上に座った。
「…おっちゃん…めっちゃ、体力あるやん…」
先ほどより余裕がなくなったような圭介も、膝に手を置き前屈みになり息を整えている。
「おおー!」と歓声と拍手が観戦していた職員から浴びせられる。
「おおきに!おおきに!」
すぐに余裕ぶった顔を作り、手を振る圭介。
「フェリックスさん、すごいですね…!こんなに走れるなんて」
「私なんてまだまだですよ。妻や息子のほうが体力があるので。帰省すると、いつも『体力が落ちている!』と指導がはいるのです」
「そうなんですね!というか、フェリックスさんって単身赴任だったんですね」
「そうなんです。外交官は体力も必要ですから、運動を習慣にしている人も多いと聞きますよ」
「ほんなら、今のハルト君の体力やと厳しいんとちゃいます?」
他人事のように楽しんで質問する圭介はもうすっかり普通の呼吸に戻っていた。
「まあ体力があったほうが良い、という話ですので。外交官には他にも求められる素養もありますので」
少しハルトは居心地の悪さを感じた。外交官の素質の話になっているが、ハルトはまだ外交官になるのかもはっきりとは決めていない。従来なら、貴族の嫡男なら家業を継ぐのが当然の流れだ。ヴァッハロイザ家も代々、国と国の間に入る仕事を生業としている。しかし、父のアンディウスのような大使という職業は、現代の王国では家督という見解ではない。そのため、一外交官としてキャリアを積むという選択肢はあるのだが…。
「流石に勉強する体力なくなってもうたわ」
「おれも…」
何をしに集まったのか、ふたりは日が暮れるまで爆睡したのだった。




