004 - さるさ -
004 - さるさ -
俺の名前はジョージ・トゥルソー、42歳独身だ。
魔物の囮にされた上に妙な幼女に懐かれちまった・・・最初は金払いのいい仕事だと思ったのに酷ぇ目に遭ったぜ。
その幼女・・・アイリスによると俺には膨大な魔力があるらしい、今まで誰にもそんな事言われなかったからまだ半信半疑だ、話が美味すぎるし新手の詐欺じゃねぇかと疑っている俺が居る。
「街に戻ったらハンターギルドへ行ってふざけた事しやがったクソ野郎どもに礼をしねぇとな」
もちろん力で俺が勝てる訳がねぇ、そんなのがあったら荷物持ちなんて仕事辞めてハンターになってるぜ、ギルドに訴えて慰謝料と賠償金を請求するつもりだ!。
丘を越えて更に街道を進むと街全体をぐるりと囲む巨大な外壁が見えてきた、ここは11年前から俺が拠点にしている場所、フールズ王国北の辺境ムックの街だ。
前に住んでた街で問題を起こした後、王国中を転々としていた俺がようやく流れ着いた居心地のいい街・・・南に魔物が住む森を持ち北には魚介類の豊富な港が栄えている。
海を挟んだ隣国からの移住者も多いから俺みたいな流れ者が住み着いても誰も気にしちゃいねぇし、何より森林の良質な魔物素材を求めてやって来るハンター達で常に賑わっていて仕事はいくらでもある。
「おいジョージ、お前生きてたのかよ!」
街の入り口に立ってる顔馴染みの門番が俺を見て驚いてやがる。
「死にかけたが生きてるぜ、何で俺が死んだ事になってんだよ?」
「お前を雇ったハンターが昨日の朝帰ってきてな、荷物持ちの案内でやべぇ魔物のとこに連れて行かれて一人食われた、荷物も奪われ酷い目に遭わされたって騒いでたぜ」
「なんだって?」
「喰われたハンターはお貴族様の跡取り息子らしくてな、昨日から領主軍が森に出て死体を探してる、馬鹿貴族の道楽に巻き込まれた領主様も迷惑がってたらしいぞ」
「そんな大ごとになってるのかよ!」
俺は門番と別れてハンターギルドに走った、あいつら俺が死んだと思って全部責任を押し付ける気だな!。
カラン・・・
どたどた・・・
「え・・・あれ、ジョージさん?、死んだ筈じゃ・・・」
ギルドの受付嬢にまで驚かれたぞ!。
「見てのとおり生きてるぜ!」
「ちょっ・・・ちょっと待ってくださいね!」
どたどたっ・・・
「ギルド長ぉ!、大変ですー、ジョージさんがぁ・・・」
受付嬢が叫びながら2階に駆け上がって行きやがった、どうやら面倒な事になってるようだな・・・。
「なるほどねー、話は分かったわ・・・」
俺はギルド長室に呼ばれ、森で起きた事を全部話した、もちろん俺の魔力量がって話とアイリスの能力はいくつか省略して誤魔化してある。
「俺の話を信じてくれるのか?」
「まぁね、10年以上この街で荷物持ちの仕事を真面目にやっていてハンター達とも良好な関係のジョージちゃんと、どこから流れて来たか分からない横柄な貴族令息の話、どちらを信じるかと言えば・・・ね」
「話が早くて助かる、俺も囮にされて死にかけたんだ、タダで引き下がる事は出来ねぇ」
「本気で訴えるのなら両者の言い分に虚偽が無いか瞳水晶を使う事になるわよ、相手は話の通じないお貴族様だから下手に怒らせても面倒だし」
瞳水晶ってのは古代遺跡から出土した魔道具だ、水晶に手をかざして本当なら青、虚偽なら赤く光る、この大陸の国々では裁判の証言で広く使われている。
「あぁ、使ってくれて構わない、間違いなく向こうが嘘を吐いてるからな」
「明日以降ギルドから呼び出しがあると思うけど、それまでは街の中で待機しておいてね」
「ちょっと待ってくれ、魔物に襲われてた娘だが訳あって今全裸だ、そのまま街に入るのはまずいから街道で待たせてある」
俺のその言葉にギルド長の顔色が変わった、魔導士のローブを羽織った長身で鋭い目つきのこの「男」の名はカルマ・カメレオーン。
ムックの街のハンターギルド長でランクはこの大陸に5人しか居ない白金級・・・上級貴族家の次男で元フールズ王国近衛魔法騎士団長という凄ぇ経歴の「男」だ。
「ジョージちゃんっ!、あなたまさか女の子を街道に・・・しかも全裸で放置してきたのぉ!」
だんっ!
「木陰に隠れてるように言ってある、それにあいつは貧相な幼児体型でそれなりに攻撃魔法が使えるから大丈夫・・・」
「早く服を買って迎えに行きなさいっ!、もうすぐ暗くなるし心細くて泣いてるかもしれないわよ!」
・・・
・・・
「閉まってるじゃねぇか!」
カルマにハンターギルドから放り出された俺は子供服や女物の衣料品を売ってる店に向かった。
だが辺りは既に薄暗くなってる、開いてるのは酒を出す飲食店やハンター向けの装備を売ってる武器屋くらいしかねぇ。
「ハンター用の服でもいいだろ、デカくても全裸よりはマシだからな」
俺はハンターの装備を売ってる店に入った。
ここは武器屋だが魔導士のローブや剣士の防具に混ざって服も売ってる、適当に一番安い奴を買って行くか、俺じゃなくてアイリスが着るんだから何でもいいだろ。
かちゃかちゃ・・・
「あれ?、ジョージさん、死んだって聞いたけど生きてたんっすか?・・・」
店内に吊るしている服を見てるとまた俺を死人扱いする奴が声をかけて来た!。
振り返ると俺のよく知ってる奴だ。
「サルサ・・・」
「その棚、女性向けっすよ、もしかして女装癖にでも目覚めたんっすか?」
「目覚めてねぇよ!」
目の前で微笑む女の名はサルサ・トルティーヤ、7年前この街にやって来た新米ハンター3人組の一人だ。
薄汚れたボロボロの服を着て路地裏に座り込んでるこいつらを見かねた俺は飯を食わせてやったり色々と世話を焼いた。
才能があったんだろうな、女3人組のパーティ「悪の華」は7年の間に実績を重ね今や大金を稼ぐ華やかな銀級ハンターだ・・・俺に恩義を感じてるのか頻繁に荷物持ちの仕事をくれるお得意様でもある。
「・・・というわけで、その幼女がそこそこ戦えたから2人で協力して何とか街まで帰って来た」
俺は囮にされて死にかけたのと魔物に襲われてた全裸幼女を街道に放置してる事をサルサに説明した。
「あはは!、そりゃ大変だったっすね!、で・・・その気の毒な幼女さんの為に服を買おうとしてるんっすか?」
「そうだ、女物の衣料店が全部閉まってたからな、ハンター用だが全裸よりはマシだ」
「私も使ってる斥候用の服がいいっすよ、布の内側に魔法陣が刻まれていて服が大きくても身体に合わせて自動的に縮むっすから」
「そんな機能があるのかよ?」
女性ハンターの服なんて興味無ぇから知らなかったぜ!。
「まぁ、普通のやつには付いてないっすね、でも防刃、体温調節、自動修復機能も付いてるからお金に余裕のある上級ハンターは好んで使ってるっすよ」
「お前のもそうなのか?」
「そうっすよ!」
俺は視線を落としサルサの着ている服を観察する、こいつは女にしては背が高い、俺より頭一つ低いくらいだ。
手足が長くスタイルは中々だが胸は貧相だ、上下とも身体にピッタリしたサラサラ素材の服を着ているからとてもエロい、その上から長袖の上着を羽織り足元は編み上げの革ブーツだ。
俺はこいつと話す時いつも目のやり場に困ってる!。
かちゃかちゃ・・・
「私とお揃いのがいいっすね、この辺に・・・ほらこれがそうっすよ、大きさは一番小さいのにするっす!」
俺は満面の笑みで服を差し出すサルサを見た、確かにこいつが着てるのとよく似てるな、値札を見ると・・・。
「なんだこりゃ、クソ高ぇじゃねぇか!」
上下のエロい服に上着を合わせると俺の稼ぎ半年分だった・・・。
「これは私が払うっすよ・・・そのお嬢ちゃんはジョージさんの命を助けてくれた恩人っすよね、それなら私にとっても恩人っすよ」
「ちょっと待て・・・いくらなんでもアイリス如きにこんな高いの買わなくても・・・」
「アイリスちゃんかぁ、可愛い名前っすね!、今度私にも紹介して欲しいっす!・・・おーい、おっちゃん!、この服買うっす!」
すたすた・・・
「おい!、人の話を聞けよ!」
俺は服を抱えて支払いに向かうサルサを追いかけた・・・。
・・・
「ジョージ・・・なんだお前、死んだって聞いたが生きてるじゃねぇか」
「どいつもこいつも・・・俺が生きてちゃ悪いのかよ!」
服を紙袋に入れ、結構な額を値切ったサルサから金貨を受け取っている筋肉ムキムキの男はここの店主だ、名前はピッカール・ハゲトランワ、元銀級のハンターだが怪我で引退してこの武器屋を経営してる。
「・・・なるほど、そのクソ野郎どもはうちの店にも来たぞ、店に入るなり一番高い剣や防具を寄越せって言いやがった、ムカつく連中だったが金は持ってたし今まで誰も買わなかった装飾だらけの剣を売りつけて儲けさせてもらったぜ」
「もしかしてあの悪趣味な剣か・・・変異種の魔狼に簡単に折られてたぜ」
「見た目が悪趣味なだけで品質は確かだぜ、だがいくらいい剣でも腕が悪けりゃすぐ折れる」
「そんなもんなのか?」
「あぁ、そんなもんだ」
店を出た俺は街の南門に向かって歩く・・・服と食料を買ってたら遅くなっちまった。
石畳の大通りには魔導灯が灯り、仕事が終わって飲みに繰り出すハンター達や食事をしている街の住民でまだ賑やかだ。
「街道まで歩いてたら夜中になっちまう・・・」
「もう遅い時間だし、夜の街道は危険だから私も一緒に行っていいっすか!」
服を買った後で食料を調達してる時にも俺について来ていたサルサが後ろから話しかけてきた。
「丘や街道の周辺には魔物も出ねぇしアイリスを迎えに行くだけだ、俺一人でも大丈夫だぞ」
「魔物が出なくても野盗が出るかもしれないじゃないっすか、ジョージさんが死んだって話を聞いて私死ぬほど心配したっすよ、トリスちゃんなんか森へ探しに行くって大泣きして大変だったんっすから」
「あのトリスが・・・か?」
「そうっすよ」
「そういえばいつもお前と一緒なのに姿が見えねぇな」
「たぶんまだ泣きながら森の中でジョージさんを探してるんじゃないっすかね?」
「ダメじゃねぇか!」
「あははー、トリスちゃんなら大丈夫っす、気が済むまで探したら戻ってくるっすよ」
ざっ・・・ざっ・・・
「ここだ、木の陰に隠れてろって言ったから近くに居るだろ」
俺は丘を越え街道を下ってアイリスを置いてきた場所まで辿り着いた、この辺は俺の庭みたいなもんだし街道脇の木に目印も付けている、場所を間違える事は無ぇ。
俺は携帯用の魔導灯で周囲を照らし街道を逸れてアイリスを探す。
「・・・ぐすっ・・・うっく・・・」
微かに泣き声が聞こえるな、声のする方に近付いて雑草をかき分けると・・・。
「・・・」
大木の陰でアイリスが泣いていた。
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