003 - おじさんはいいひとです -
003 - おじさんはいいひとです -
「暗くなっちまったが一番の危険地帯は抜けられたな」
「街まであとどれくらいです?・・・」
「今夜はこの先の遺跡で野宿して翌日の昼過ぎには着くだろう」
手のひらの上で光る魔法陣を高く掲げると少し先に四角くて背の高い「遺跡」の黒い影が見えました。
「お腹が空きました」
「我慢しろ、手持ちの保存食は昨日全部食っちまった、残ってるのは水だけだ」
「えー」
私の名前はアイリス・レオーネ14歳、森の中でクソ野郎達に置いて行かれ死にかけていたところを親切なおじさんに助けられました。
お水で洗ったから魔物さんに汚された身体は綺麗になったのですが長く歩いているとお股がとても痛いし、まだ汚いものが少し垂れてきます。
ざっ・・・ざざっ・・・
岩場を超えてようやく辿り着いた「遺跡」の入り口でおじさんが雑草をかき分け私の方を見ます・・・これは私に入れと言っているのでしょうか?。
とてとて・・・
私が入るとおじさんは後ろからついて来ます、見た目と違ってこの「遺跡」の中は意外と広く、壁や天井も崩れていません。
「何とか生きてここまで辿り着けたな」
「私のおかげです、感謝してくれてもいいのですよ」
そう、ここに来るまで魔物さんに7回も襲われました、その都度私が魔法で焼き殺したのです!。
がしっ!
またおじさんに顔面を掴まれました!、痛いです!。
「何でいちいち私のお顔を掴むのですか!」
じたばた・・・
「アイリスが生意気だから腹が立っただけだ、気にするな」
「気にしますよ!」
私が抗議するとお顔から手を離してくれました。
「ここで夜が明けるまで一休みだ、今日は寝ておけ」
「まだ眠るわけにはいきません」
「何でだよ?」
そう、私には一刻も早くやらないといけない事があるのです!。
「朝までここに居るのなら出来そうです、おじさんは寝ていてください」
がしっ!
「ぴゃぁ!」
またお顔を掴まれましたぁ!。
「何をする気だ?、話せ」
「私のお腹の中に居る幼虫の成長を遅くするんです、こうしている間にも育っているから早くしないと・・・」
「じゃぁ早くやれ」
「難しい魔法なので先に魔法陣を正確に構築しておかないと即死します」
「即死するのかよ!」
「はい、失敗すると終わりです、今から構築を始めて明け方には完成できると思います」
しゅぉぉぉぉ・・・
しゅこぉぉぉ・・・
「そんなに見られるとやりにくいのですが」
「気にするな」
「気にしますよ!」
私は目の前に光る魔法陣を浮かべてその中に指で細かな文字を書き込んでいます。
今私が構築しているのは5重の最上級魔法陣・・・時間停止や遅延関連の魔法陣はとにかく複雑で面倒なのです!。
・・・
・・・しゅこぉぉぉ
「1つ目が完成しました、残り4つです」
「そうか」
「寝ていてもいいのですよ」
「いや、見てる」
「・・・」
・・・
・・・
こぉぉぉぉ・・・
「完成しましたぁ!」
「遺跡」の入り口から見えている外が薄明るくなって来た頃、私の魔法陣が完成しました。
「今から5つの魔法陣を重ねます」
「重ねてどうすんだよ」
結局おじさんは一晩中起きて私の作業を眺めていました・・・眠くないのでしょうか?。
「私のお腹のこの辺り・・・下腹部に焼き付けます」
「そんな事して大丈夫なのかよ」
「すごく痛いと思います・・・でもやらないと50日後に魔物さんがお腹を食い破ってコンニチハしますからそっちの方が嫌です!」
「それは嫌だな・・・」
「もちろん嫌ですよ!」
てきぱき・・・
しゅこぉぉぉぉ・・・
私は出来上がった5枚の魔法陣を慎重に重ねて融合しました。
こぉぉぉ・・・
「おじさん見てください!、これが5重の最上級魔法陣ですっ!」
私の目の前には金色に光り輝く魔法陣が浮かんでいます。
「なるほど分からん」
「頑張って作ったのに酷いです!」
「俺は魔法に関しては素人だぞ、分かってたまるかよ!」
「魔力を貰います」
私はおじさんの顔に近付き・・・。
「むぐぅ!」
ちゅぅぅぅ・・・
お口から魔力を吸い取りました、今回は最上級魔法なのでいつもより沢山・・・。
くちゃ・・・くちゅ・・・
ちぅぅぅ・・・
ぅぅ・・・
・・・
「ぷはぁ!」
お互いの唇が涎まみれになりましたが仕方ありません・・・でもこれだけ大量の魔力を貰ったのにおじさんは平然としています、普通の人なら失神するのにこの人おかしいです!。
「魔力を大量にもらったのですが体調に変わりはないですか?」
私はおじさんに尋ねます。
「別に何ともねぇぞ」
「・・・」
「もうすぐ夜が明けるぜ、やるなら早くしろ」
「・・・では始めましょうか」
ぺたり・・・
私は腰の布を取り、ブーツを履いているだけの全裸状態で床に横たわります。
「おじさん、お腹に魔法陣を焼き付ける時に暴れると思うので両足を押さえてもらえますが?」
「こうか?」
くぱぁ!
「ぴゃぁ!、あ・・・足は開かなくていいですっ!、閉じたままで押さえてくださいっ!」
「お・・・おぅ」
おじさんがブーツの上から私の両足を押さえてくれました。
「〜|$”’+*#%”!’$++*#〜」
「何言ってんだ?」
「魔法詠唱ですが」
「魔法詠唱?って何だよ?」
「気にしないでください」
「〜|$”’+*#%”!’$++*#〜」
ぺかぁ!
「うわ眩しっ!」
黄金色の魔法陣が小さくなって更に輝きが増しました、それを私の下腹部に移動させて・・・。
しゅこぉぉぉぉぉ!
「@@#¥#・・・了!」
じゅぅぅぅぅ!
「ひぎぃ!」
分かっていましたが死ぬほど痛いです!、真っ赤に加熱された魔法陣が皮膚に焼き付き、肉の焦げたような嫌な匂いがします。
「わぁぁん!、痛いっ!、痛いですっ!」
ごろごろっ
おじさんが私の悲鳴に驚いて手を離しました、まだお腹を魔法陣で焼かれている私は床を転げ回って悶絶しています。
・・・
・・・
しょわわわわぁ・・・
ほかほかぁ・・・
・・・
・・・
「はぁっ・・・はぁっ・・・死ぬかと思いましたぁ!」
「大丈夫かよ・・・」
お漏らしをして涙と鼻水を垂らしている私をおじさんは一応心配してくれているようです・・・。
「全然大丈夫じゃないですっ!、予想してた100倍痛かったです!」
ぱあっ・・・
私はお腹に手を翳し、残った魔力で治癒魔法を起動させました、焼け爛れていた私の皮膚が少しずつ元の色に戻っていきます。
「腹に模様が付いてるぜ」
「これに毎日魔力を流す事で私の身体の時間を100倍遅らせる事が出来ます」
改めてお腹を確認すると・・・おへその下に赤い逆三角形の模様が刻まれていました。
がさがさっ・・・
「周りに魔物は居ねぇようだ・・・」
来た時と同じく、おじさんが背の高い雑草をかき分けて「遺跡」から出ました、まだ日が昇ったばかりなので薄暗いですが夜行性の魔物さんは寝る時間なので夜より比較的安全なのです。
「こっちだ」
「おじさん、この森に詳しいですね」
「あぁ、荷物持ちの仕事で何度も他所から遠征してきた連中を案内したからな」
くぅぅ・・・
きゅるきゅる・・・
お腹が派手に鳴りました、魔法で身体の時間進行を遅らせているので本来なら食事は数日おきでいいのですが・・・私はその前から既に空腹だったのでお食事がしたいです。
「おじさん、街に着いたら美味しいものが食べたいです!」
前を歩いていたおじさんが振り返って私を見ます。
「金は持ってるのかよ?」
「見ての通りほぼ全裸なので持っていませんよ」
「俺に払わせる気満々じゃねぇか!」
「でも・・・私が燃やした魔物さんの素材が色々ありますよね、それを換金したら3割は私の取り分ですっ!」
「・・・毛皮は燃えて使い物にならねぇが魔石や牙は確かに結構あるな、それより今夜の宿はどうするんだ?」
「おじさんのお家でお世話になろうかと・・・」
がしっ!
またおじさんに顔面を掴まれましたぁ!。
みしっ・・・
「痛いですっ!」
じたばた・・・
「俺は借家で一人暮らしだ、裸の幼女なんて連れ込んだら衛兵呼ばれちまうだろうが!」
「あれ?、愛する奥様や可愛い子供達は?」
「俺は独身だ!、結婚もした事ねぇ!」
「・・・」
「待て!、何でそんな憐れむような目で俺を見るんだよ!、別におかしくねぇだろうが!」
ざっ・・・ざっ・・・
とてとて・・・
「あの・・・街はまだでしょうか?」
「この坂道を越えたら小高い丘に出る、そこから街の外壁が見えるぜ」
「坂道って・・・まだかなりあるじゃないですかぁ!」
森を出てようやく街道に出たと思ったら長い坂道・・・私は睡眠不足もあってフラフラです。
「丘に出たら新米ハンターが薬草採取をやってるからアイリスはこの辺の木陰に隠れてろ」
「何でです?、私はお腹が減ったから一刻も早くお食事がしたいのですが」
「・・・全裸で街に入るのかよ?」
「あ・・・確かに恥ずかしいし衛兵さんに捕まりますね、それならおじさんの着ている服を・・・」
「俺のが無くなるじゃねぇか!、街で子供用の服を買って来てやるから大人しく待ってろ」
くぅぅ・・・きゅるきゅる・・・
「・・・ついでに何か食い物も買って来てやる」
そう言っておじさんは私を街道に置いて街の方に歩いて行きました。
がさがさ・・・
私は言われたとおり街道を逸れて大きな木の後ろに隠れます、木の根元には背の高い草が生えているから街道を通る馬車や通行人にも気付かれないでしょう。
昨日は徹夜だったし朝からずっと歩いていたのでとても眠いし疲れました、私は目を閉じて・・・すぐに意識を手放しました。
・・・
・・・
・・・
リー・・・リー・・・
がさがさっ・・・
「んぅ・・・」
私は虫の声と小動物の気配で目を覚ましました・・・辺りを見渡すと日が暮れていて真っ暗です。
「おじさん?・・・」
周りに人の気配はありません、おじさんもまだ戻って来ていないようです・・・。
「私、もしかしておじさんに見捨てられたのでしょうか?」
確かに可能性はありました、おじさんは親切だったけれど私とは他人だし、私が街まで付いて来ようとしたら迷惑そうな顔をしていました。
服を買って来るというのは私を置き去りにする口実だったのかもしれませんね。
でも・・・おじさんが居ないと魔力の補給ができないしお腹の刻印にも魔力を流せません、このままだと時間の経過を遅らせている幼虫が成長を始めて・・・。
ふるふる・・・
「怖いです、心細いです、どうしてこんな事になったのでしょう・・・」
思えばあのクソ野郎共のパーティに入れて貰った事が間違いだったのかもしれません。
「1年という短い間でしたが、皆さんの役に立とうと思って頑張ったのに・・・酷いです」
読んでいただきありがとうございます!。
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