兄と弟
逃げたい。まじで逃げたい。緊急招集掛かってくれないかな?
今日はお兄ちゃんの店に行く日。参加者は俺・鷹空さん・月山・中秋さん・健也・副浪さんの六人。
「吾郎、本当に大丈夫なのか?小夜、有名人だから騒ぎになるかもしれないし。店に迷惑が掛かるんじゃないか?」
待ち合わせ場所に行くと月山が待っていた。心配しているけど、俺はちょっと前まで中秋さんを知らなかったんだぞ。
あの後、鷹空さんはお兄ちゃんの店に電話をして予約を取ってくれた。
普通なら信じないと思うが、サンクの三人の口添えがあったらしい……三人とも、忙しいと思うんだけどな。
「そこは安心して良いぞ。お兄ちゃんの店はプライバシー保護に力を入れてるんだよ。盗撮防止の結界も貼ってある」
お兄ちゃん達の身バレ防止もあるけど、現役ヒーローも利用するからだ。
それに元ヒーローの生活を脅かすと、所属している会社ごとブラックリスト入りする。そうすると、救援順位は下がるし、本部が仕事を受け付けなくなるのだ。
つまりイベントに護衛が来ないし、人気ヒーローのCMもキャンセルになる。
「それなら安心だ。周りに変な奴いないよな?」
月山はそう言うと周囲をキョロキョロ確認し始めた。
アイドルの彼氏って大変だな……でも、今、一番怪しいのは、間違いなくお前だぞ。
「こっちを見ている奴はいないから安心しろ。個室を準備してくれたらしいから、思う存分いちゃつけ」
健也は副浪さんと話すと思う……問題は鷹空さんが俺の相手をしてくれるかだ。離れた席に座られたら泣くぞ。
「吾郎、おはよ。お義兄さん、吾郎が電話くれないって寂しがっていたよ」
鷹空さんが待ち合わせ場所にやってきた。その後ろには中秋さんもいる。
「みっ君おはよ……今の発音って、完全にあれだよね?」
中秋さんは帽子にサングラスと、完全にお忍び芸能人モード。鷹空さん訛っていなかったと思うんだけど。
◇
その後健也と副浪さんも合流し、お兄ちゃんの店に……敷居が何十mも高く感じてしまう。
「いらっしゃいませ……吾郎君、元気にしてた?たまにはお店に顔を出しなさい」
ドアを開けると同時にお説教してきたのは、大酉天舞さん。俺の義姉でクリプテッドファイブのホワイトペガサスでもある。
天舞さんは清純派の美人で、何度もモデルや俳優にスカウトされた事があるそうだ。
そしてクリプテッドファイブは、俺以外全員美男美女だったりする。
「色々と忙しくて……今日は無理言ってすいません」
お兄ちゃんと結婚しているから、文字通りの義姉である。でも、昔からの癖で敬語で話してしまう。
「竜司も喜んでいるし、気にしないの。皆さんもいつも義弟がお世話になっています」
そいうと天舞さんは、皆に頭を下げた。
(予想はしていたけど、二人ともぶれないな)
天舞さんは美人だから、たいていの男は挨拶されただけで鼻の下を伸ばす。
でも、月山と健也は平常運転だ。
「俺の方こそ、ごろ……大酉君には助けてもらってばかりで」
流石は体育会系。健也は深々と頭を下げながら、天舞さんに挨拶をした。
爽やかで好感のもてる挨拶だ。
「吾郎君と仲良くさせてもらっている月山満と言います。今日は急なお願いを聞いて頂きありがとうございます」
アルバイトしているだけあり、月山の挨拶も好感の持てるものだったらしく、天舞さんも笑顔になっていた。
でも、なぜか天舞さん辺りをキョロキョロと見回して見回している。
「うん、吾郎君に仲の良いお友達がいるって分かって安心したよ……今日は翼ちゃんは来ていないのかな?吾郎と仲の良い女の子が、どんな人か会いたかったんだけどな」
天舞さん母さんから、俺に鷹空さんという親しくしている女の子がいると聞いている。
秋町さんアイドルで、鷹空さんと副浪さんは学校で大人気の美少女。
見た目で俺が親しく出来るレベルの女の子ではないと判断したんだと思う……ある意味正解ですけどね。
そして気まずい空気になってしまった。
俺がこの人が鷹空さんですって紹介したら、そんなに仲良くないって言われる危険性もある訳で。
「お義姉さん、初めてお目にかかります。僕が鷹空翼です。吾郎君とは公私ともに親しくさせてもらいます」
どうしようかと悩んでいたら、鷹空さんが自己紹介してくれた。天舞さんも、本部から鷹空さんが俺のサポート役についた事を聞いている筈。
天舞さん、お願い。これ以上変な事を聞かないで。
「貴女が翼さん!?こんな素敵な子と仲良くなれるなんて吾郎君やるじゃない」
天舞さんは笑顔を浮かべながら、鷹空さんを観察し始めた。
(俺が騙されていないかとか勘違いしていないかとかを見極めているんだろうな)
俺と鷹空さんとじゃ釣り合っていないし……鷹空さんは誰とでも仲良く出来る人だ。
友達として仲が良いのと、男女の関係で仲が良いの似ているようで、かなり違う。
「天舞、どうかしたのか?早くお客様をお部屋に案内して……吾郎、久しぶりだな。元気にしていたか?」
その人を来た瞬間、周囲の空気が変わった。月山達も驚いたらしく、目を大きく見開いている。
「怪我はするけど、なんとかね……お兄ちゃんも元気そうだね」
大酉竜司、クリプテッドファイブのレッドドラゴン。そして俺の実兄。
弟の俺が言うのもなんだけど、超絶イケメンです。
「もうヒーローじゃないんだ。ケーキ屋が怪我する訳ないだろ……吾郎、後から話がある」
もしかしなくても、お説教確定?
◇
……予想はしていたけど、やっぱりね。
お兄ちゃんが用意してくれたのは、店でも一番良い部屋だった。プライバシーが守られるという事もあり、お兄ちゃんの店は多くのヒーローや芸能人が利用している。
だからケーキ屋には珍しく、個室があるのだ。
「遺伝子って、残酷だな。言われなきゃ兄弟だと思えないぞ」
月山、それ耳にタコができる程言われてきたよ。イケメンでモデル体型、しかも運動神経の抜群。
「しかもお兄ちゃん一流大学をストレートで卒業しているんだぜ。在学中に義姉さんの実家でアルバイトをして、卒業と同時に開店。直ぐに繁盛店にしたんだよ」
天舞さんの両親は有名パティシエ。全国にいくつもの支店を持つお嬢様なのだ。
「そうじゃねえよ。お前なら知り合いが怪我したってきいたら、具合を聞くだろ?でも、お前の兄貴はヒーローだから怪我して当たり前って感じの態度だったろ」
鋭い。数分でお兄ちゃんの性格を見抜くとは。
「お兄ちゃんは、見た目だけじゃなく性格もヒーローそのものなんだ。誰かが危険な目に遭っていたら、自分を顧みないで救出に向かう。そしてハザーズを改心させるカリスマも持っている。特撮ヒーローから抜けて出てきたような人なんだよ」
まじで俺とは大違いなのである。
「お前のネガティブさの理由が分かった気がするよ。いくら足掻いても適わない相手が身内にいたら、そうなるよな」
健也が、寂しそうに呟く。
俺の唯一他人様に誇れる事はヒーローである事。それさえもお兄ちゃんの方が適正がある。
ケーキは絶品で、皆喜んでくれた……残るはお説教か。ケーキを食べて終えて数分後、お兄ちゃんが部屋に入って来た。
「闇落ちしたかもしれないヒーローがいる。調べてくれ」
普通なら本部に報告しなきゃいけないんだけど、まだ確信がもてないらしい、
お兄ちゃん、絶対に闇深案件なんですが。
◇
吾郎が会計を済ませている間、天舞が翼達に話し掛けてきた。
「ごめんなさいね。強い口調で驚いたでしょ?あれでもいつも吾郎君の事を心配しているのよ。サイトも毎日見ているし」
天舞の言う通り、竜司は吾郎の事を心配をしていた。しかし、生真面目で頑な性格の為、どうしてもヒーローとして接してまうのだ。
「なんか、吾郎も気後れしている気がして……凄い奴なのに自信がないんですよね」
月山の言葉に全員が頷く。吾郎は幼少期から竜司と比べられて育ったのたので、兄に対して根深いコンプレックスを持っていた。
「でもね、竜司も吾郎君にコンプレックスを持っているの。吾郎君はヒーローとしての資質が抜きんでているから」
援護に向かえば次回からリクエストがあるのは吾郎のみ。上級からの信頼も厚い。なによりクリプテッドファイブで第三形態になれるのは吾郎だけだ。
それに加えて吾郎だけにヒーローを任せている事もあり、竜司も距離を取ってしまうのだった。
感想、評価お願いします




