ぎゃんぶる
天気も良く爽やかな冬晴れだ。そんな中、疲れきった顔で歩く俺
正直、物凄く眠い。色考えていたら、寝付けなかったのだ。
「大酉、新学期早々、随分眠そうだな。もっとシャキッとしろ。昨日は仕事なかったんだろ?」
声を掛けてきたのは上形先生。前にも似た様な事言われたよな……でも、ハザーズの方がもっと気楽です。だって、あいつ等殴れば良いだもん。
ハーモニーオーケストラだけで、胃が痛いのに。
「ちょうど良かった。これ、お土産です……今度、兄の店に行く事になりまして」
お兄ちゃんは名目上、東京での俺の保護者だ。だから槻浪に入学した時、先生はお兄ちゃんと話をしており面識がある。
何なら定期的に奥さんとお兄ちゃんの店に行ってるらしく、俺より会っている回数は多い。
「さっき、鷹空から聞いたよ。あいつもヒーローだったんだな。鷹空は行く気満々だったぞ」
先生の話によると、昨日本部から俺のサポート役が決まったと電話があったそうだ。
そして鷹空さんは朝練の前に上形先生に挨拶に来たらしい。
(上形先生の事は、鷹空さんに話していない筈……総司令の仕業か)
確かにサポート役の鷹空さんと担当の上形先生は連携が必要だと思う……思うけど、当の本人が置いてけぼりなんですが。
「マジですか?絶対お兄ちゃんに叱られる。駄目出しの嵐が来るんだ。やだ、行きたくない」
兄弟だけど、俺とお兄ちゃんは似ていない。お兄ちゃんはイケメンで頭も良く、正義感が強い。天が二物どころか、何物も与えてしまった完璧人間。
その上強くて、誰にでも優しい。理想的なヒーローと言っても良い。
対する俺はフツメンで、成績も中の下。勝利至上主義で、勝つ為なら、どんな手でも使う。
逆ドラえ〇ん兄弟とか言われていたし。
「竜司君、優しいだろ?店が混んでいても『いつも弟がお世話になっています』って、律義に声を掛けてくれるぞ」
うん、知っている、お兄ちゃんは誰にでも優しいし、細かな気遣いが出来る人だ。
「お兄ちゃん、身内……俺には凄く厳しいんですよ。特に恋愛に関しては、駄目出しの嵐なんです。中学の時にバレンタインのお返しに少し高めのマカロンを返そうとしたら『あれはどう見ても義理チョコだろ。そんな高い物返されたら、相手の女の子が迷惑するぞ。吾郎、お前、その子と遊びに行った事あるのか?』って一時間位駄目だしされたんですよ」
俺が恥をかかない、人様に迷惑をかけない為だってのは分かっているんだけどね。
お兄ちゃんは、俺と違ってモテる。逆に言えば、モテない男の気持ちは分からない。
だから、義理でもテンションが爆上がりするモテない君の気持ちが分からなかったんだと思う。
むしろモテなくて逆恨みからハザーズ化したパターンもあるので、勘違い男を軽蔑している。
「確かにお前とは、あまり似てないもんな。でも、鷹空と行っても叱られないと思うぞ」
……確かにサポート役なら、保護者の所に行っても不自然じゃない。でも、それだけじゃ不安だ。
「……正直、お兄ちゃんに会うの気まずいんですよ。お兄ちゃんみたいにヒーローそのものみたいな人が力を失って、俺みたいのが現役で戦っている。絶対お兄ちゃんが戦った方が、多くの人を救えるんです。お兄ちゃんはお兄ちゃんで、俺にヒーローを任せてしまったみたいに気を使ってくるし」
お兄ちゃんが現役の頃は、戦い方や立ち居振る舞いに駄目だしされまくっていた。
でも、お兄ちゃんが力を失い、俺一人で戦う様になると、何も言わなくなったのだ。
「月山達を誘ったら、良いんじゃないか?……鷹空は不機嫌になるかも知れないけど」
流石は上形先生。その手があったか。タイミングが合えば三対三で店に行ける筈。
◇
何故だ?俺が教室に入ると、なぜかざわつき始めた。
学校での俺は地味なフツメン。注目される様な存在ではない。
疑問に思っていると、直ぐに原因が判明した。
「吾郎、おはよー。ねえ、お兄さんの店にいつ行く?それとパパとママがお土産のお礼をしたいから、今度ご飯食べに来てって言ってたよ」
鷹空さんが満面の笑みで俺に話し掛けてきたのだ。鷹空さんは校内で一、二を争う美少女。明るくて優しいから、男女問わず人気が高い。
本来なら俺みたいなモブは話し掛けるのも失礼なカースト上位の人。
(漫画で良くあるモブが美少女と仲良くなって反感も買うってやつか)
クラスの男子から嫉妬される危険性がある……いや、吾郎が勘違いしているって失笑されているかもしれない。
二年や三年のヤンキーに絡まれたらどうしよう?怪我させないで、大人しくさせられるかな?
問題は女子だ。男なら集団が相手でも勝つ自信がある。でも、女子の口撃に勝つ自信はありません。
「結構人気だから、予約出来るか聞いてみるね」
うん、今の返しなら反感を買わない筈。実際お兄ちゃんの店は人気で喫茶コーナーは、予約が取り辛いらしい。
でも、下手に予約すると、お兄ちゃんや天舞さんが気を使ってサプライズをする危険性がある。
その気のない女子へのサプライズは危険。サンサンクの三人から耳にたこが出来る程聞かされている。
「それなら僕が予約しておくね。吾郎のアルバイトの時間は分かっているし」
うん、サポート役だから俺の出動時間は把握出来るんだよね。
お兄ちゃんの店じゃなきゃ嬉しいのに……おかしい。女子から翼が迷惑しているって注意される筈なのに。
近づいてこないどろか、誰も目を合わせてくれないんですが。
◇
吾郎はある勘違いをしていた。クラスの男子は吾郎に嫉妬していない。
むしろ吾郎を応援していた。吾郎はクラスの男子全員と仲が良い。陽キャ、真面目君、、体育会系、ヤンチャ系、全員と話をしている。
そんな事もあり、吾郎のクラスの男子は皆仲が良い。
「大酉君、なんか挙動不審になっているけど、どうしたのかな?」
眼鏡を掛けた大人しそうな男子が心配そうに呟く。
「前までは鷹空に声を掛けられただけで、満面の笑みを浮かべていたのにな。なんかチラチラこっちを見ているし……月山、分かるか?」
髪を金色に染めたヤンチャ系の男子が、月山に尋ねる。
「多分、鷹空と親しくしているから女子からクレームをつけられるんじゃないかって、ビビっているんだよ。『大酉君、優しさを勘違いしているでしょ。翼、迷惑しているんだよ』ってな」
そういって月山が溜息を漏らす。いや、その場にいた男子全員が溜息を漏らした。
「嘘だろ?どうすれば、そんなネガティブな発想になるんだよ?吾郎らしいっていえば、吾郎らしいけど」
陽キャの男子が呆れながらも、どこか嬉しそうに微笑む。
頼りがいがあり、話しやすくて親しみやすい。でも恋愛は小学生レベル、そんな吾郎がクラスの男子は好きなのだ。
「なあ、吾郎が告るか掛けないか?負けた奴はラーメン奢るとか」
陸上部に所属している男子が、嬉しそうに提案する。
「駄目だよ。かけが成立しないって。だって、鷹空さんに月山君達も誘わない?って提案しているし……大酉君が告るのを待っていたら、卒業しちゃうよ」
吾郎を心配していた真面目系の男子の返しに、その場にいた男子全員が爆笑した。
彼等は嫉妬をしていない。むしろ気付かないふりをしながら、不器用な友人の恋を応援しているのだ。
そして女子も気付かないふりをしていたが、男子とは事情が違った。
「翼、今日は一段と暴走しているよね」
ギャル系女子が深いため息を漏らす。クラスの女子は翼が吾郎を好きな事を知っていた。
翼本人は隠しているつもりなのだが、恋心が駄々洩れ状態なのである。
「翼のインスタ見た?大酉からもらったグラスをペアにして載せてるんだよ。付き合う前から匂わせってやばくね?」
バレー部に所属しているボーイッシュな少女が呆れ顔で呟く。
翼は吾郎からもらったグラスを、その日のうちにインスタに載せていたのだ。黄色いのが僕ので、青いのが吾郎。お揃いと。
「牽制だと思いますよ。鷹空さん独占欲の強さは、折り紙付きですし。前に2組の方が大酉さんに嘘告しようとした事あったじゃないですか?……あの方、未だにうちの組に近づけないそうですよ」
眼鏡を掛けた真面目系女子がひそひそ声で話す。 何かを思い出したのか、その顔には恐怖の色が浮かんでいる。
「あの時の翼ちゃん怖かったよねー。笑顔で『吾郎に何するのかな?僕にも聞かせて』って詰め寄るだもん。しかも目は全然笑ってないの。最後なんて壁まで追いつめて『吾郎に何かしたら……分かるよね?』だよ」
ゆるふわ系の女子が小声で返す。その時以来のクラスの女子の中では『大酉君との距離は適切に』という標語が生まれたのだ。
「男子じゃないけど、私達も賭けない?大酉がいつ落とされるか?私は一か月に掛ける」
ギャル系女子が提案にクラスの女子全員が頷く。ちなみに最短が一週間で、最長が半年。落とされないに賭けた女子はゼロであった。
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