一体多 ―消去戦法―
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アリスと編み物少女を車ごと転送させた後、ジャックはカーレン(と彼女を模したロボット達)の攻撃をしばらくいなすことに全力を注いでいた。
「それじゃ勝てないよ」
「いつまでもたせるつもり?」
「魔力の前に」
「体力が尽きるよ」
豪雨のように激しい攻撃の中、ジャックは魔力の消費を最低限に抑えていた。自分の脚力と反射神経を増強させることで、カーレンの振るう斧をかわす。隙があれば、カーレン(ないしはそのコピーロボット)を豆の蔓で拘束していく。それでも、この戦法ではキリがないと、ジャックが一番理解していた。何せ、向こうの正確な数も把握できていない。
「大人しく捕まればいいのに」
「いたぶられたい理由があるの?」
「あっちもすぐに落ちるよ」
「知ってる?」
「知ってて転送したの?」
「お前らは……黙って戦えねぇのかよっ!」
順々に喋りながら斧を振り回してくるカーレン達は、ジャックの魔法で次々と身動きが取れなくなっていく。が、その横や後ろからまた新しい個体が飛び出してくる。その繰り返しだった。
「アンタ、相当お喋りが好きみてぇだな。聞かれるばっかは気に食わねぇからこっちからも聞いてやる。オズから聞いてんのか? 俺を捕える目的ってか、その後の使い道」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「必要ある?」
「意味わかんない」
「私は指示通りに動くだけ」
「オズ様や頭はそれを求めてる」
攻撃と共に与えられる返答に、ジャックは溜め息まじりに返す。
「つまり、何も知らねぇんだな。知らずにただ従ってんのか」
「充分でしょ」
「役割は果たす」
「深追いはしない」
「だったら今こうして戦ってることが、正しいのか間違ってるのかなんて、考えねぇんだろうな」
「考えないよ」
「いらないから」
「時間の無駄だし」
「正しいとか正しくないとか」
「考えたって無意味だよ」
「くだらないこと話してると負けるよ?」
ザシュッ、
「つぅっ……!」
ジャックの動きを先読みしたのか、背後から飛び出してきたカーレンの不意打ちが掠る。かろうじて咄嗟に体を捻ったため腕を切り落とされることはなかったものの、ジャックの右腕には縦長の傷が一筋できた。
「オズ様が言ってた」
「面倒なら考えるなって」
「こちらに付いてれば悪いようにはならないって」
「自分のために働くなら生活を保障するって」
「だから私は考えない」
「言われたことをやるし、望まれた通りに動く」
「迷わないし、躊躇わない」
「貴方のことも、いたぶるけど殺さないよ」
「そういう命令だもの」
カーレン達の斧がジャックを追い詰め始める。先程受けた傷の影響で、ジャックの動きがやや鈍くなってきたのだ。加えて、これまでジャックが豆の蔓で拘束してきたカーレン達も、他の個体によって蔓から解放され戦線に復帰してきた。
「私を殺さないことを優先し過ぎだよ」
「絞め殺そうとすれば出来たはずなのに」
「本体の命を奪うことを嫌がってる」
「弱いね」
「勝てないよ」
「誰彼構わず拾おうとする甘さは、アリスとおんなじ」
「じゃあ……アンタの方が強いって言いたいのか? 赤い革靴」
記録魔法で腕の傷を消したジャックが、両サイドから振り下ろされた斧を受け止める。
「うん、そうだよ」
「そう聞こえなかった?」
「俺に言わせりゃ、アンタは逃げてるだけだぜ。反省すべきことと、判断すべきこと、どっちからも」
何も返さないカーレン。ジャックは受け止めた斧を2体のロボットから奪い取って、そのまま彼女たちの足を刎ねた。
「あ」
「壊された」
「ひどいことするね」
「アンタ程じゃねぇだろ。嘘つき嬢ちゃん。散々俺を狩ろうとしてたクセにそれを言うかよ」
奪った斧がライトグリーンの光を放つ。
「共鳴し合え! 同一物質!」
ジャックの詠唱によって、彼を囲むカーレン達の斧もそれぞれ同じ光を発し始めた。
「何その魔法」
「意味不明だよ」
「だろーな。けど、俺が無意味に魔力消耗するワケねーだろ? ……おかげで2分の1に絞り込めたぜ、本物の赤い革靴さんよ」
カーレン達は目を見開き、各々で周囲を確認する。と、ライトグリーンの光を発していない斧を持つ個体がたった二人。ジャックはその場で奪った斧を手放し、豆を一粒弾いて再び詠唱する。
「光る斧持つ紛い物、ここで爆ぜろ!」
「なっ……」
バンッ、
まるで光らされた無数の斧が爆発物になったかのように、ジャックの合図で一斉にはじけ飛んだ。そして当然、斧を所持していたカーレン達は、至近距離からの爆発の衝撃を受けたせいで破壊される。残った二人のカーレンは、ジャックがこれまで攻撃をいなし続けてきた理由を、初めて理解する。
最初の詠唱で「同一物質」と言っていた。いなし続けてきたことで、ロボットのカーレンが持つ斧も量産された武器と判断したためだ。そして、たった二人――つまり二本だけ斧が爆破対象から外れたのは、「同一物質」ではなかったため。
「アンタ、その武器はオズかハンプティから貰ったんじゃねーか? 靴と一緒に」
「……そうだよ」
「……それだけに賭けるなんて、どうかしてる」
「まぁな。アンタらのどっちかは最も古い斧、つまり一番多くの血が付いては拭き取られ、または再利用するために打ち直されてきた斧だ。で、もう一方はついさっき、俺の血がついた斧ってことだ。魔力保持者の血液が付着したせいで、『同一物質』から外れちまったみてーだな」
ホントは攻撃当たるつもりなかったんだけどよ、とジャックは頭をかく。確かに、ジャックが攻撃に当たらなければ、今の詠唱によって最も古い斧を所持するカーレンのみに絞られていただろう。
「もう勝ったつもり?」
「まだ私たちの方が多いのに」
「ああ。たった二人ぽっちなら、どっちが本物か見抜くのは簡単だからな。オズに会う前の古い記憶は、本物にしかねぇだろ」
「そんなものは、」
「とっくに捨てたよ」
ジャックが魔力で脚力を増強しているように、カーレン達の脚力(というより瞬発力)も赤い革靴によって向上させられていた。息ピッタリに雨のような攻撃を繰り出して来る二人のカーレン相手に、ジャックは再びかわしながら問いかける。
「アンタはオズのやり方がおかしいと思わねぇのかよ。肝心の研究を公開せずに支持を集めてんだぜ?」
「私には関係ないよ。オズ様が市民を騙してるっていうなら、おめでたく騙されながら支持し続けてる市民に罪はないの?」
「オズ様の功績ばっかり称えて、オズ様がやること為すこと正しいと盲信してる民衆の怠惰は見過ごすの?」
「騙す罪と」
「騙された責は」
「「どっちが重たい?」」
順番に話す姿は、あたかも最初一個体だったカーレンが分裂したかのよう。だが、到底見分けられそうにない二人のカーレンに対し、ジャックは一言。
「そーやって、昔のアンタを擁護してんだな」
直後に投げられた二粒の豆は、ジャックのスナップ音で別々の効果を発揮した。一粒は爆発、もう一粒は……四肢の拘束。勿論、爆発を起こしたのはロボットのカーレンに向けて投げつけられた豆粒だった。姿形は言うまでもなく、動きのクセも、声色も表情も、斧を振るう速度まで揃っていたはずなのに……。
「……どうして」
カーレンは、その問いを口にせずにはいられなかった。右腕だけをきつく締めあげられ、握っていた斧は地に落ちる。それを蹴飛ばしてから、ジャックは言った。
「どこまで似せてたってアンタだけは人間なんだ、嫌なこと掘り返されたら動揺だってしちまうだろ」
「動揺? してないよ。するワケない」
突きつけられた指摘を否定する。そう、自分の中には何もない。今が良ければそれでいい。自分のやりたいことをやって、尚且つ未来が保障されていれば、充分だ。




