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親子魔法師  作者: 夏希


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9/21

開花

 開戦早々の義父さんの精霊魔法、又、それによる味方士気の上昇。陣魔法を始めとした事前対策により、序盤は大いに守護隊が押していた。

 しかし、時間の経過と共にその優位性は徐々に薄れていく。

 圧倒的な数の暴力。開戦時の8倍近くの兵力差は序盤の猛攻で大きく敵を削り、半数近くまで減った。しかし、それでも約4倍の敵。一対一で守護隊のメンツが遅れを取る相手は早々居ないものの、常に複数の敵を相手にし続ける状況は体力的にも、精神的にも大きな消耗を伴っていた。


「すみません、合流が遅れました」

「アッシュ!団長の様子はどうだ?」

「少し魔力の消耗が大きかったみたいで休んでいます。こんな大事なときにすみません」

「団長の魔法が無ければ三方向とも押し込まれていたよ。西側だけでも攻撃が軽くなってるおかげで、全体を何とか拮抗出来ている」

 マリーさんはそう気遣ってくれたが、状況はあまり芳しくない。

 第七部隊は突撃と離脱を繰り返して中央を攻めて来る敵を削いでいたが、それも徐々に包囲され始めている。このままではいずれ離脱不可能になり押し潰されるだろう。合流する為の道中も複数のモンスターに襲われた事で予想以上に手間取ってしまったのだ。

「マリーさん、何とか流れを変えましょう。僕が敵との間を作るので攻撃は任せます!リネアさん、すみませんがフォローお願いします」

「はい、わかりました」

「アッシュ…リネア…」

「マリーちゃん、隊長が弱気になったらみんなが不安になるわ。私達でサポートするから、攻撃は任せたよ」

「そうだ…な。皆、私に続け!!ここから打開するぞ!」


 あの洞窟探索の日から修練は続けているけど、今の僕にリネアさんのような器用な魔法の使い方は出来ない。

 でも、対多数のこの戦場だからこそ、()()()()()()だからこそ出来るやり方がある。


 このモンスターの大群を相手に巨大な防波堤を築く事も出来るが、所詮一時の時間稼ぎにしかならない。まして、元を断たねば魔力を大きく消耗するだけだ。

 浮遊魔法(レビテーション)で高い位置から戦場を見渡す。敵の数や勢いの大きい箇所の前方にレイピアを指し示し土壁生成魔法(ウォール)を発動する。

 地面からの土壁の隆起に、偶然巻き込まれるモンスターも居るが大したダメージにはならないだろう。

 目的は勢いを削ぐこと。敵に勢いがあると、どうしても守勢に回ってしまう。それが数の力で波状的に続くのだ。まずはそこに楔を打つ。

 そして、もう一つは味方の警戒する範囲を減らしたい。全方位に注意を向けなければならない事で、目の前の敵だけに集中し切れていない。最低でも後方と、出来れば左右のどちらか片方に壁を作る事で敵の攻撃を防げれば、本来の力を出せるはずだ。


 必要な場所に土壁を作り、邪魔になれば取り除く。アッシュの魔法は少しづつではあるが、確実に状況を打開する道を作り上げていく。もちろんリネアの地上におけるフォローもあってこそだ。


 魔法の根源は想像と創造の力。精神状態によって受ける影響は多分にある。

 アッシュの意図を理解した事で、隊員の心にも少しの余裕が生まれ、隊は反転攻勢を仕掛ける。


 不思議な感覚だった。初めは戦場を見ながらやっていた行動が、いつの間にか考えると同時、いや考えるより早く身体が動いている錯覚を覚える。

 空中の目立つ場所にいるのだ。敵に気付かれ攻撃されたが、自然と盾生成魔法(シールド)で防いで動きを止めなかった。

 しかし、さすがに次に迫って来る空中部隊を受け流すのは無理か……と思った時


広範囲細氷剣魔法(ダイヤモンドダスト)

マリーさんの魔法によって、無数に広がった氷の刃が敵空中部隊を次々に斬り刻み、氷結しながら落下していった。



 リネアは戦いながら驚きを隠せなかった。

 あの洞窟探索以降、アッシュに請われて魔法のコントロールや補助に関する指導をしていた。

 今まで築き上げて来たものに元々の才能もあったかもしれない。出会った当初よりは格段に進歩していたが、まだまだ精度等足りない部分も多かった。

 アッシュ君にフォローを頼まれ、いち早く意図を察して動いた。それはまるで、アッシュ君が大枠を作り、内側を私が埋めていくような作業。

 これだけの規模の中、全方位に集中するのは楽では無かったけど、人に合わせるのは嫌いじゃない。それに何より、私だってここにいるみんなを、街を守りたい。後先を考える余裕もなく全力で動き続けた。

 

 初めこそ、位置やタイミングのズレ、抑えたい箇所に間に合っていなかった為、その補強や調整、時に攻撃魔法で足止めをしていた。マリーちゃんも危険な感覚には敏感なので、そうした場所を優先的に潰していき、個人としてはギリギリの綱渡り状態ながらも、隊としては少しづつ盛り返せていた。


 時間の経過とともに、敵側もアッシュ君の存在を把握する。地上からの攻撃は風魔法で軌道を逸らして防いでいたが、魔法の連続使用の疲れで反応が遅れてしまう。

 思わず

「危な……」

 言い切る前に、まるで何事も無かったように盾生成魔法(シールド)で防がれていた。

 その後も徐々にフォローの必要が無くなっていく。

 アッシュ君の魔法だけで完結出来ている…?

 私が動かなくても、その精度と速度は研ぎ澄まされていく。

 まるでこれは

指揮者(コンダクター)……」

 昔読んだ事のある、とある英雄の冒険譚。今とはまるで状況は違うはずなのに不思議とそう声が漏れていた。



 どれくらい時間が経っただろうか。

 見るからに敵の勢いは落ちていた。そしてその時、中央門の方から大きな声があがる。

 確認する必要もない。義父さんが戦線に復帰したのだろう。


 ノックスの魔力は当然ながら全回復などしていない。

 しかし、精霊魔法だけで決まる程簡単な戦いでは無い事を理解していた。

 当初は魔法が使えなくてなっても、剣技のみで戦えば良いと思っていた。だが、精霊魔法の消耗は予想を遥かに超えていた。もちろんそれだけの戦果はあったのだが。

 最低限の回復に努め、再び戦場へ歩を進める。

 皆の前で倒れる訳にはいかないが、情け無い姿を見せる訳にもいかない。少なくともロック団長は語らずともそう背中で示していた。


「すまない、遅くなった」

「ノックス団長!ノックス団長が戻られたぞ!」

 オォーー!!と歓声があがる。もっと疲弊している事も想定していたが、思った以上に活気がある。

「戦況を教えて貰えるかい?」

「はっ!団長の精霊魔法と陣魔法によって序盤は多いに優勢になりましたが、その後敵の数に押され徐々に劣勢に。中央もかなりの苦戦を強いられていましたが、前線で横撃に入った第七部隊が相当な粘りをみせたようで、敵の勢いが減退。再び中央も攻勢に転じております」

「第七部隊が……わかった。更に勢いを増していくぞ!我に続け!」


 中央本隊の反転攻勢により、中央を攻めて来るモンスターの大半を殲滅する事に成功する。

「はぁ…はぁ…」

 敵の進行が止まったのを確認して緊張の糸が切れたのか、一気に疲れを認識する。

「アッシュ、よくやった!お前のおかげで助かったぞ!」

 ヒースさんがそう言って肩を叩いてくる。

「いえ…皆さんが戦い続けてくれたおかげです」

「本当に皆良くやった!私達は守り切った!」

 マリーさんの掛け声でみんなに安堵が広がる。


「いやいや、実に見事でした。特にレイピア使いの君はまさに戦場の指揮者(コンダクター)。是非名前を聞かせて貰えませんか?」

 いつの間にか前方に黒いローブを纏った男が一人立っている。

「誰だ貴様は」

「私が話したいのはそちらの少年なのですが、まあ良いでしょう。シャドーとでも名乗っておきましょうか」

「…あなたが今回の首謀者ですね」

「その通りです。お楽しみ頂けましたか?」

「楽しむだと?ふざけるな!」

「少しうるさいな…」

 次の瞬間ヒースさんが魔法で吹き飛ばされる。

 

「アッシュ、大丈夫か!」

 義父さんを先頭に中央部隊の面々も合流する。どうやらヒースさんもその中の隊員に受け止められたようで安心した。

「こいつが首謀者だな」

 義父さんの合図で黒いローブの男を取り囲み始めるが、依然として余裕を崩さない。

「そう慌てるなノックス。今の私は気分が良い。それに弱ったお前を相手にしても意味がない。やっと役者が揃い、舞台が出来上がって来たんだ。再びお前達とは相見える事になる。それまで精々つまらぬ事で足元を掬われぬよう過ごす事だな」

 そう言い、上空へと上がって行く。

「待て!」

「そうそう、アッシュと呼ばれたていたね。君とは楽しい会話が出来そうだ。次に会った時はゆっくり語ろう」

 そして次の瞬間には姿が消え去っていた……

【人物紹介】

アッシュ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。実父に憧れて魔法師として日々修練に励んでいる。


ロック・ローランド:元勇者パーティの魔法師。パーティ解散後は王都にて守護魔法師団団長を務めた。スルードの災厄にて元凶と相打ちになり亡くなっている。


ノックス・メイソン:かつて王都守護魔法師団の副団長を務めた優秀な魔法剣士。アッシュ、フローラ兄妹の養父。新生守護魔法師団団長の任を受ける。


フローラ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。家族の事を大事に思う心優しい女の子。


リナリア:ノックス・メイソンの妻。控えめな性格ながらも芯の強さを持つ女性。


マリー・ウィンスロー:守護魔法師団隊長。金髪の美少女で、魔法師の実力も別格。自分の目指したかった姿をアッシュに重ね、意識している。 


アイリス・アシュレー:王都守護騎士団の団員。マリーとは大の仲良しで、元冒険者パーティを組んでいた。


リネア・ハーネス:守護魔法師団第七部隊に所属する風属性魔法師。マリー、アイリスとは元冒険者パーティを組んでいた。


ヒース・ビアーズ:元冒険者。マリー・ウィンスローに憧れて守護魔法師団へ入団さかた炎属性の魔剣士。


チェリル:第七部隊の賑やか担当魔法師。実は高い魔力を有しており、影で努力を怠らない。


クライヴ:Sランク冒険者で本来は一流の剣士。冒険者の立場のまま王都を守る決意をした。


オリバー:守護魔法師団副団長。ノックスとは再結成前からの同僚。


モーガン:守護魔法師団第二部隊隊長。土属性の優れた盾使い。



シャドー:王都にモンスターを差し向けた張本人。その目的や素性は不明である。

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