発見
「報告は以上になります」
「ありがとうマリー隊長。ところで…ここからは個人的な質問になるのだが、今回の調査でアッシュはどうだった?」
「ふふっ、アッシュに何も伝えず送り出すくらい実力を評価しながらも心配なんですね」
「親バカ過ぎるかな?だが、あの子には色々考えて実践し、経験として積み重ねていって欲しいんだ。もちろん成功も失敗もね。 それがあの子の目標に近付く一番の近道だからね」
「英雄ロックですか?」
「あぁ、小さい頃からの目標でね」
「何故それ程までに?」
「それは……いや、今私の口から言うのはやめておこう。あの子が自分から話すことがあった時は聞いてやってくれ」
「…わかりました。それでアッシュですが、個の力は非常に高いです。並のモンスター複数体程度であれば一人で難なく相手取ると思います。それに状況分析や作戦立案まで出来る。一方、連携面ではその力を活かしきれていないというか、戸惑いがあるようにも感じました。パーティ活動の経験が少ないのですか?」
「僕以外の誰かと組んだ実戦は初めてだからね」
「はじっ…えっ?初めてのパーティ活動だったんですか?」
「言って無かったかい?パーティも洞窟探索も初めてだよ。あの子は自身での鍛錬と僕との稽古以外はあまり経験が多くなくてね。自警団で保全業務は学んだが、実戦経験はまだまだだ」
「全く聞いていません!そうであるならば評価も変わりますよ…」
「はっはっは、厳しいくらいで丁度良い。アッシュもその方が喜んでいるよ」
「はぁ…そちらのガーゴイルの腕は私が研究局に持っていきましょうか?」
「いや、これは僕も少し気になる事があってね。こちらで預かってまた何か分かれば伝えるよ」
「わかりました。では、これで失礼します」
「————————」
報告も終わり、明日は臨時休暇を頂いた。
洞窟やガーゴイルについては検証が必要な為、他の隊長とも相談の上で再調査も含めて後日決定する事になった。
原因究明には至らなかったが、一次調査としては有益な情報を持ち帰る事ができ、この後は探索パーティで飲食をすることになっている。
「アッシュ、先程今日が初めてのパーティ活動と聞いたんだが」
「お伝えしていませんでしたか?色々と足手まといになってしまい申し訳ありませんでした。とても勉強になりました」
親子揃って抜けてるのか何なのか……
「アッシュ、初めてって…そりゃぎこちないところはあったが、俺の初めてと比べたら全然……」
「アッシュくん、すごいよー。普通は初めての洞窟探検なんて何も出来なくて、自分を守る事で精一杯だったりするのに」
「過去に公開されている調査資料等を読んでいたおかげで焦らずに済んだかもしれません」
「アッシュさんは本がお好きなんですか?」
「はい、実戦経験が少ないので本で知識だけでも得ようと思って。あ、忘れる前に、リネアさん僕に魔法を教えてください!」
「ひゃ、ひゃい、わ、私ですか?」
ピクッ……こらこらアッシュ、何故リネアの手を取る……
「リネアさんじゃないとダメなんです!」
「わ、わかりましたので、手は離していただいて……」
「すみませんでした!ありがとうございます!」
「なんや、アッシュ積極的だな」
笑いながらヒースが二人をからかっている。
私は照れてるリネアを見つめながらお酒を口にした。
アイリスに付き合わされてやや飲み過ぎたのは仕方ないだろう……
後ほどアッシュに聞いたところ、今回のパーティ活動で連携の難しさと重要性を特に感じたようだ。
前衛に出て戦う選択も考えたが、味方の補助を行う事は変わりなく、前衛中衛を主とした役回りで抜群の補助を担っていたリネアに教えを乞うことにしたようだ。
頼み方はやや気になったが、自分の戦闘スタイルに合った人物に師事出来るのはとても良い事だ。
そのキッカケになれたのであれば大変喜ばしい。
休み明けに守護魔法師団団長である義父さんに呼ばれた。
「先日の調査はどうだった?」
「自分に足りないものを知る良い経験になりました」
「二人だけなんだ。そんなに改まる必要はないよ」
「じゃあ…過信は無かった筈なんだけど、大事な時に仲間の役に立てなくて力不足を思い知ったよ」
「状況判断は特別悪くなかったと聞いているが?」
「あれは結果的に皆んなの力のおかげで助かっただけだよ……」
そう、ガーゴイルを分断し、ヒースさんのサポートだけに専念すれば、あの戦いに入れると思っていた。
しかし、現実はヒースさんの動きに無駄がなく入り込む隙が…いや、僕に入り込む技術が無かった。
もし、効果的な補助出来ていれば、もう一体に逃げられる事は無かったかもしれない。
だからあの戦いは、ヒースさんの力に支えられた状況で、マリーさん達三人に頼ってガーゴイルを一体討伐したに過ぎない。
「はは、自分に厳しいな。だが、今回自分が出来た事も振り返って経験にしなさい。人は反省と自信、両方を通して成長してゆくのだから」
「…そうだね、ありがとう義父さん。ところで、あれから何かわかった事は?」
「正確な事はまだ何も分からない。一つ仮説はあるが
、先に現地を見て来たアッシュの意見を聞こうか」
「方法は分からないけど、以前義父さんが言っていた誰かがモンスターを操っている可能性が高いと思う。ガーゴイルが作られた生命体なのも一つの要素だけど、そのガーゴイルを助けるように他のモンスターが集まって来ているようだった。それに、モンスター同士で縄張り争いが無く多種族が共存しているような印象を受けたんだ」
「…なるほど…」
「周辺のモンスターがいないのも、目的の為に何処かに集められているからと考えれば説明は付く」
「目的とは?」
「王都侵攻……理由は分からないけど、これまでは王都の戦力や防衛力を図る為にモンスターを仕向けていたけど、本格侵攻の為に戦力増強に舵を切った可能性があるんじゃないかと思う」
「良い考察だ。実は北の街道を進んだ先の洞窟でも、以前見かけなかったモンスターの生息を確認した報告が冒険者ギルドにあったようだ」
「他にも同じような場所があったの!」
「ガーゴイルとの遭遇報告は無いから断定出来ないがな。そしてもう一箇所。西の山地に廃坑になった洞窟がある。近日中に調査予定だが、王都周辺を精査したところ、この三箇所にモンスターが集められている可能性を考えている」
「王都を囲む三方向からの襲撃が起きるって言うの?」
「王都だけが対象ならまだ良いんだがな。一番最悪なのは周辺の村にもモンスターが流れ込めば被害は計り知れない。何としてもそれだけは防がなければ……」
「こちらから仕掛けるの?」
「そうしたいのは山々なんだが、敵の全体数が分からない以上、中途半端な戦力を送り込む事は出来ない。今は守護騎士団や冒険者ギルドと協議して人員確保と廃坑の様子を探る調査隊の準備といったところだ」
「調査ならまた僕達が行けるよ」
「そうしたい所だが、守護魔法師団は別にやりたい事があってな———」
事前に義父さんから聞いていたが、マリーさんから正式に命令があり、僕達は以前調査した洞窟より更に東に進んだ先にあるイーストウッド村を目指していた。
「先程の魔道具師さんがおっしゃっていた事があまり理解出来なかったんですが、より強力な守護結界が張れる最新の魔道具という事でしょうか?」
今回のリーダーであるリネアさんに尋ねる。
「それに加えて魔力の蓄積出来る量が増えているんだと思います」
「さすがリネアさん、賢いッスね。私なんかちんぷんかんぷんッス」
こちらの明るい女性はチェリルさんだ。
リネアさんに魔法で並ぶ人は第七部隊に数少ないが、交渉事などは苦手なので自分がついて来たと最初に挨拶された。
「しかし、期待の新人のアッシュくんとちゃんと話すのは初めてッスね」
同じ隊で顔と名前は知っていても、活動を一緒にする班が違えば接する機会はそれほど多くはない。
「今日は改めてよろしくお願いします」
「場所が違うだけでやる事はいつもと変わらないから大丈夫ッス。何かあってもリネアさんが居ますし」
「はは、そうですね」
「二人とも……」
今回の任務は至ってシンプルだ。義父さんが危惧している周辺村落のモンスター襲撃に備え、最新の守護結界装置を設置してくることだ。
もちろんこれだけで完全に防げる訳では無いだろうが、防壁の強さで村への被害は大きく変わる。
こちらの準備が先に整うか、モンスターが先に動き出すか、近日中に必ず動きが起こると義父さんは見ていたから、備えられる物は備えるということだ。
「それにしても、よくこれ程の数を用意出来ましたね」
「ノックス団長が就任されてすぐに用意を始められていました。敵が一度内に入ってしまえば被害は甚大になる。何より内に入れない事が一番大切だとおっしゃっていましたよ」
「いやー、あの時は会計のレノさんが年間予算の半分近くを一気に使うなんてとんでもないって荒れてて面白かったッス」
「義父さんはまた無茶を言ってたんですね…」
「で、でも結果的に今回間に合ったのは、あの時冒険者ギルドにも依頼を出して素材を集めて貰ったおかげですし、早く動いていて良かったと思います……よ?」
「リネアさんの優しさに救われます」
「リネアさんはアッシュくんがお気に入りみたいッスね」
「わ、わ、私はそんな事は全然……」
「わかりやすくて楽しいッス」
「ははは……」
先日の弟子入り宣言後、リネアさんの時間が空いている時は指導して貰っている。今回の任務中もタイミングがあれば是非お願いしたいところだ。
男性と話すのは苦手みたいだけど、少しでも慣れる手助けになれば良いけど……
村についてからの作業はスムーズだった。
というのも、事前に義父さんが書簡を村長宛てに送っていたようで、守護魔法師団を名乗ったら温かく迎え入れて貰えた。
どうやらロック父さんが冒険者だった頃に村を救った事があったらしく、守護魔法師団団長になった後も毎年感謝の品が送られて来ていたらしい。
災厄後の交友は途絶えていたが、王都ほど厳しく取り締まられていなかった為、村内では英雄ロックとして感謝され続けていたようだ。
思わぬところでロック父さんの話を聞き、感慨深いものを感じてしまう。
「団長は出来る男ッスね。英雄ロックのおかげもありますが、説明一切なしでお任せして貰えるなんて、私が来た意味が無いッス」
「チェリルさんは魔力も高いんだから、そちらの仕事もありますよ。魔道具の保存出来る魔力が増えた分、供給する側は大変になるんですから」
「あの魔力を吸い取られる感じ苦手ッスけど……頑張るッス……」
「村長さん、最近村周辺で変わった事とかありませんか?例えばモンスターを全然見かけなくなったとか」
「いえ、特にありませんよ。モンスターを見かけなくなったのも、かれこれ一年以上前からですから」
「そんなに前からですか?」
「ええ、元々モンスターが多い地域ではありませんでしたが、丁度黒いローブの冒険者が立ち寄った後あたりからモンスターが少なくなりましたな」
「その冒険者は何でこちらの村に?」
「他の冒険者のように西の洞窟に通っておりましたよ。一人で行動しておりましたので、珍しくて記憶に残っております」
「相当腕の立つ方だったんですね」
「黒の冒険者が来てから、村民がモンスターを見かける事が減っていきましてな。あの人が全部倒してるんじゃないかとみんなで笑っておりましたわ」
「どれくらいの期間いらっしゃったんですか?」
「二、三ヶ月おりました。長かったので、何も無いこの村より王都の方が良かったんじゃないかと尋ねたら、王都は嫌な思い出があるからと。あまり感情を表す方では無かったですが、英雄ロックに村が助けられた話をした時は少し嬉しそうに見えましたなぁ」
「——————」
「気になりますね」
「黒の冒険者ッスか?」
「いえ、そちらは具体的な情報が無いので何も言えないです。一年近く前からモンスターが減っている方です」
「一番可能性が高いのは、この村の近くでモンスター操作の実験をしていた事でしょうか?」
リネアさんの意見に賛同する。
「黒の冒険者が関係していたかは分かりませんが、その可能性が高いと思います。効果なのか影響範囲なのか。それに合わせて洞窟内にモンスターを集約出来るようにもしていたのかもしれません」
「二人ともすごいッスね。それで私達はこれからどうしたら良いッスか?」
「……実際、僕達がやる事は何も変わりません。敵の動きがやっとわかって来たかもしれないだけで、襲撃に最大限備えて、先手を取れる準備が出来るのならば、先に洞窟に仕掛ける……それだけになってしまいます」
「で、でも、裏で暗躍している人物がいるかもしれないとわかっただけでも収穫ですよ。自然発生した可能性は限りなく低くなったので……」
「そうですね。魔法師団に新しい情報が入っているかもしれませんし、戻りましょう」
チェリルさんに痛いところを突かれてしまった気もするが、今はやるべき事をやるのが一番大事だ。
考える事は続けながらも、僕達はイーストウッド村を後にした。
【人物紹介】
アッシュ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。実父に憧れて魔法師として日々修練に励んでいる。
ロック・ローランド:元勇者パーティの魔法師。パーティ解散後は王都にて守護魔法師団団長を務めた。スルードの災厄にて元凶と相打ちになり亡くなっている。
ノックス・メイソン:かつて王都守護魔法師団の副団長を務めた優秀な魔法剣士。アッシュ、フローラ兄妹の養父。新生守護魔法師団団長の任を受ける。
フローラ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。家族の事を大事に思う心優しい女の子。
リナリア:ノックス・メイソンの妻。控えめな性格ながらも芯の強さを持つ女性。
マリー・ウィンスロー:守護魔法師団隊長。金髪の美少女で、魔法師の実力も別格。自分の目指したかった姿をアッシュに重ね、意識している。
アイリス・アシュレー:王都守護騎士団の団員。マリーとは大の仲良しで、元冒険者パーティを組んでいた。
リネア・ハーネス:守護魔法師団第七部隊に所属する風属性魔法師。マリー、アイリスとは元冒険者パーティを組んでいた。
ヒース・ビアーズ:元冒険者。マリー・ウィンスローに憧れて守護魔法師団へ入団した炎属性の魔剣士。
チェリル:第七部隊の賑やか担当魔法師。実は高い魔力を有しており、影で努力を怠らない。
クライヴ:Sランク冒険者で本来は一流の剣士。冒険者の立場のまま王都を守る決意をした。
オリバー:守護魔法師団副団長。ノックスとは再結成前からの同僚。
モーガン:守護魔法師団第二部隊隊長。土属性に優れた盾使い。普段は温厚だが怒らせると怖い。




