未熟
「やっほー!アッシュくん、今日はよろしくねっ」
「えっと…何でアイリスさんがいらっしゃるんですか…?」
「ふふっ、それはね、私も一緒に行きたかったか————」
最後まで言い切る前にマリーさんに小突かれる。
「私から説明するよ。昨晩ノックス団長が調査報告と今後の行動を騎士団長に伝えに行った時にアイリスが盗み聞きしていたみたいでね。私も一緒に行きたい。行けなきゃみんなに話しちゃうと団長二人を脅したみたいなの」
「そしたらね、快く許可して貰えたのー」
「全然快くじゃないでしょ!ノックス団長が私達が以前パーティを組んでいた事をご存知で、守護騎士団に不都合が無いならばって交渉してくれたのよ」
「ノックス様の優しさに救われましたぁ」
アイリスさんは元気よく敬礼している。
「お二人でパーティを組まれていたんですね」
「えぇ、もう一人入れた三人だけどね。あの子が遅れて来るはず無いんだけど……」
「リネちゃんみーつけた」
「わわっ、ごめんね。三人が楽しそうに話していたから、出て来づらくなっちゃって…」
「ちょっと男性との会話に慣れて無いけど、同じ隊だから顔は見た事あるでしょアッシュ?」
「確かリネアさんでしたよね」
「あ、はい…リネア・ハーネスです…よろしくお願いします」
「他の人に頼もうか迷っていたんだけど、アイリスが一緒に来るならリネアしかいないと思ってね」
「すみません!楽しみ過ぎて寝坊しました!」
ヒースさんが遅れて到着する。
「ヒース、遅いぞ。さぁ、全員揃ったから出発しよう」
「あれ?もっと厳しく言われるかと思ったのに何かあったのかアッシュ?」
旧友が居るからか、マリーさんはいつもよりリラックスしている気がする。
やはり隊長を務めるのは、気を張る事も多いのだろうか。
「って言うか、どう言う事だアッシュ!?今日のパーティは可愛い女性が三人も居て最高過ぎるんだが!」
リネアさんが少し震えているのが見える。
「皆さんヒースさんより実力のある方なので、少し静かにしましょうね」
「そ、そうなのか…?」
「はい、お互い気を付けましょう」
「マリちゃん、あの人はにぎやか担当で入れたの?」
「いや、それだけでは無いんだが…ま、大丈夫と思う…」
「マリーさん、目的地まではどれくらいなんですか?」
「歩いても一時間程度の行程だよ。森を抜けた所で改めて状況確認しよう」
報告通り、モンスターとの遭遇が一度も無かった為、予定よりも早く森を抜ける事が出来た。
「聞いてはいたけど、全くモンスターが居ないのも気味悪いね…」
「その原因の手掛かりが無いかを調べに来たんだよ。もうすぐ洞窟も見える距離だから、モンスターもいるかもしれない」
森を抜ける前から探知魔法を使っていたが、これといった気配は感じられなかった。
「何にも見えないねー。洞窟の中はどうなの?」
アイリスさんに促され、それぞれが探るが、やはり地上と比べて地下を対象とすると、深くまで見ることは難しい。
「洞窟内にはモンスターはいるようだけど、それ以上の事はわからないわ。みんなはどう?」
それぞれ頷きながら僕に視線が集まる。
「残念ながら僕も同じ認識です。洞窟内に入りますか?」
「現場判断と言われているけど、このままでは何も収穫がないから入りましょう。アイリス、リネア、いつも通りよろしく。アッシュとヒースは補助に入りながら気付いた事があれば教えて欲しい」
前衛に立つつもりだったであろうヒースさんは、少し不満気な表情になったが
「ヒース、あなたの冒険者の経験を頼りにしてるわ。何かあった時は助けてね」
というマリーさんの言葉で、やる気に満ち溢れていた。
しかし、そんな心配は必要なく順調に探索は続いていく。
前衛に立つアイリスさんの動きは無駄が無く、現れたモンスターを制していく。そして、その動きを支えているのはリネアさんだった。
風属性魔法を使って、アイリスさんが一対多数になり過ぎないように調整している。攻撃魔法で直接敵を減らす動きもあれば、敵の一部の動きを遅らせる事で攻撃のタイミングをズラしている。
それを受けて確実に一体一体を仕留めており、崩れるイメージが湧かない。
「二人ともすごいですね。アイリスさんはいつもと装備が違いますが、これが本来のスタイルですか?」
アイリスさんは普段騎士団の鎧を着ているが、今日は動き易い軽装で動きが違ってみえる。
「そうよ。アイリスはああみえて鍛錬を怠らないの。重い騎士団の鎧も修行の一環なんて言って。自分のせいで誰かを傷付けたくなくて頑張り過ぎなのよ…ずっと一緒だった私でもリネアみたいに的確にサポートは出来ないわ。…今回の調査はノックス団長の中で何か疑念があるみたいで、信頼出来るメンバーで行ってくれと頼まれたわ」
「義父さんがそんな事を?」
「何も聞かされてないなんて、余程信頼されてるのね」
マリーさんに少し笑いながら言われる。
「先入観を持ち過ぎるなとは口酸っぱく言われていますけど、そのせいですかね」
「きっと貴方の感性を信頼してるのよ」
「期待に応える為にも何か掴んで帰りたいですね」
「マリちゃーん、話してないでこっちも手伝ってー」
「今行く」
モンスターの群れに魔法を放ちながらマリーさんはみんなの方へかけて行った。
義父さんの疑念。王都に来る道中、モンスターを寄せ付ける何かがあるかもしれないと話していた事を思いだす。
もしそうならば、王都内にそのようなアイテムがあるかと思っていたが、あの時王都周辺までモンスターを見かけなかった事を考えると、アイテムを移動させたか、モンスターの行動を操っている?
しかしこれ程大規模にそんな事をする方法があるのだろうか…
いくつかの可能性を考えながら、地下三階層に足を踏み入れた後だった。
「何で洞窟トカゲがこんな所にいるんだ。あいつはもっと下だろ」
最初に見つけたヒースさんが言う。
「わ、私達の戦闘経験では六〜八階層に生息していたモンスターです」
「リネちゃんが言うなら間違いないよ」
「………………」
「リネアさん、洞窟内のモンスターが生息場所を変える事はあるんですか?」
「全く無い訳ではないです。ただ、モンスターにも縄張りのようなものがあるので、大きく変わるという話は聞いた事ありません…」
洞窟だけ今回の影響を受けていない可能性はこれで無くなり、周辺とは違う変化を受けているという事か…
もう一つ疑問に思っていた事を口に出してみる。
「洞窟ってこんなに多くのモンスターが出現するものなんですか?」
「それについては私が答えるわ」
マリーさんが反応してくれる。
「結論から言えばあり得るけど、普通はもっと波があるものなのよ。まだ三階層だからもう少し様子を見てからと思っていたけど、この出現数が続くようなら十分異常事態。多分他の三人も同じ考えだと思うわ」
みんなが頷いている。
奥で何か手掛かりを得られると良いのだが……
六層まで進み、探知魔法を使った所で皆んなに静止をかける。
「ここよりもう少し下ですが、大きい魔力を感じます。把握しきれませんが、モンスターの個体数もこれまでいじょ……」
話し切る前に盾生成魔法を複数展開していた。そして、それは次の瞬間にすべて壊れさる。
一様に一瞬の驚きはあったものの、すぐ戦闘に切り替えられているのは経験の大きさだろう。
「助かったよアッシュ」
「いえ、こちらこそ反応が遅れました」
目の前に現れたのはガーゴイルだろうか。鎌と槍斧を持った二体と対峙する。
アイリスさんとヒースさんが前衛として二体を引き付け、後衛からマリーさんが魔法攻撃を繰り出す。
僕とリネアさんが防御と補助に回り、有利な状況にしていくが、ガーゴイル達は飛行能力を使い致命打を回避する。
「くそっ、化物にしては知性が高過ぎないか。不利になると飛んで間合いをあけやがる」
「えぇ、しかも二体が連携した動きでね」
前衛の二人は対等以上に戦えているのだが、急造のパーティと比べてガーゴイル達の連携が上回っていた。
「マリーさん、一対三だったらどれくらい時間いりますか?」
「…二分あれば片付けるわ」
すぐに察して貰えて助かる。
「次のチャンスでいきます」
地面に手を付き魔力を込める。
「ヒース、少しの間だけ頑張りなさい」
「アイリスちゃん左に避けて」
リネアさんが風魔法で上手く誘導してくれたおかげで、上手く距離を開ける事が出来た。
「土壁生成魔法!!」
前衛が一対一になるよう、間に巨大な壁が立ち塞がる。
「急で驚いたが、俺はコイツを倒せば良いんだなアッシュ」
「リネアさんの補助が無い分、相手の速度が上がると思います。とりあえず時間を稼ぎましょう」
「一体だけなら何とかしたいがなっ」
と言いながら、ヒースさんは炎を纏わせた剣を振り下ろすが、かわされる。
「仲間の様子を気にするそぶりを見せるとは少しは可愛げがあるじゃないか」
続けて蓮撃を繰り出す。剣は槍斧で受け止められるが、相手の速さを殺す上手い立ち回りを繰り広げている。
一対一で集中出来るからか、ヒースさんの動きも先程までより良くなっている。
「リネア、一撃で決めるわ。少しだけよろしく」
そう伝え、杖に魔力を込める。
「……生成……圧縮……」
「アイリスちゃん、上から落とせる?」
「リネちゃん、あれお願いね」
アイリスちゃんは魔法を使わない。適性が低く、初歩的な魔法も上手く扱えなかったから、一切諦めたと言っていた。
でも、一時期だけ何度も練習した魔法がある。浮遊魔法。私が空を飛ぶのを見て、浮き上がるだけでも出来るようになりたいと何度も挑戦していた。
結果は残念ながらほんの十センチも浮く事は出来なかった。
「リネちゃんに浮かせて貰えたら良いんだけど、それは難しいんだよね?」
「自分以外は人じゃなくて物でも難しいの。軽い物を動かす事は出来るのだけど…」
「じゃあさ、私も何でも協力するから初めて人を浮かせた魔法師になろうよ!」
「初めてかどうかはわからないけど…」
「あ、それはどっちでもいいの。どうしても空を飛んでみたいの!お願いリネちゃん」
「えぇー……」
アイリスちゃんの気迫に押され、渋々引き受ける事になった。
それ以来、夜は毎日練習の日々。冒険の合間にも物を浮かせる練習をして、やっと少しコツを掴めたと思ったらアイリスちゃんを転ばせて怪我をさせてしまった。
私はものすごく謝ったけど、そんな事よりそれだけ動かされた事を喜んで、私の魔法を褒めてくれた。
最終的に二、三十センチ浮かせるのが精一杯だったけど、だから私達は考え方を変えられたんだ。
”空気圧縮魔法”
やや上に向かって踏み出したアイリスちゃんの足の下に見えない足場が作られる。そして射出。その勢いを加えて更に上に踏み出し次の足場へ。
アイリスちゃんは私がそこに作る事を一切疑わないから、私も絶対に失敗は許されない。
そして宙に逃げていたガーゴイルの上まで飛び上がり一閃。片翼を切り落としながら本体も地へと落ちていく。
「マリちゃん、お願い!」
杖のまわりに生成された水は槍を模った氷へと姿を変える。
”氷槍神器降臨魔法”
「解放…」
解き放たれた氷槍はガーゴイルを貫き消し去る。
「マリちゃん、ちょっと威力強過ぎたんじゃない?核も綺麗さっぱり消し飛んじゃったよー」
ガーゴイルは体内に核を埋め込まれた事で動き出した石像と言われている。目撃数すらあまり多くはない個体なので、核の一部を持ち帰るだけでも研究資料として価値があるのだが……
「……力入り過ぎたかも……」
「あはっ、マリちゃんでもそんな事あるんだね」
隊員が増えて忙しさに追われていたからか、久々の心知ったるパーティだからか、解放感で全力の魔法を選択していた。
少しやり過ぎてしまったが…気持ちよかった…
「二人とも、アッシュさんとヒースさんの加勢に行くよ」
リネアに言われてハッとして、我に帰る。
「アッシュ、こっちは終わったわ」
轟音とともに魔力が消えた為、向こうの戦いが終わった事を察知する。
空間を二つに分けていたウォールを解除しながらヒースさんに声をかける。
「皆さんがすぐに来ます」
そう伝えながら考えていた。
こちらの戦闘はヒースさんが一人で担っていた。
土壁生成魔法を維持していたから介入出来なかった訳ではない。単純に戦いに入り込む隙が無かったのだ。
自分が戦う為の盾、仲間を守る為だけの盾であれば作れる。しかし、ヒースさんの戦い方を邪魔せずに守る為の盾は作れなかった。
迂闊な対処をすれば逆に仲間を不利な状況にしてしまう。まだまだ僕には足りないものだらけだ。
「あの化物逃げやがって」
ガーゴイルの片腕らしき物を持ってヒースさんがこちらにやってくる。
「それは?」
「見てなかったのか?あの野郎仲間がやられたのを見て逃げていきやがったんだ。それを追いかけて一撃入れたんだが、腕で防いで逃げられちまった」
「すみませんでした。全然お力になれず…」
「何言ってるんだアッシュ。剣を槍斧で絡め取られてバランスを崩した時、お前が盾で守ってくれなかったらすこーしだけ危なかった。助かったさ」
「役に立てていれば良かったです」
「ははっ、これからも頼むぞ」
「アッシュ、ヒース、大丈夫か?」
「マリー隊長すみません。そっちのガーゴイルがやられたのを察したらすぐに逃げに転じて、腕一本は落としたんですが逃げられました」
「無事なら良かったよ」
「逃げた奴を追いかけますか?」
「いや、かなりの数のモンスターがこちらに向かって来ている。すぐに地上に戻ろう」
「まさか俺が取り逃したせいで」
「いえ、ガーゴイルと対峙する前からこちらに向かってくる多数の反応がありました。元々援軍に駆け付ける予定だったんでしょう…………」
自分で話しながら疑問を抱く。ゴブリン同士のような同族モンスターの援軍ならわかる。しかし、今向かって来ているのは複数の個体が混ざっているように感じられる。
まして、ガーゴイルは自然発生ではなく、作られたモンスターとの見方もある。それを助けようとするだろうか……
「アッシュ、考え事は後にして今は脱出しよう」
そうして僕達は洞窟を後にした。
【人物紹介】
アッシュ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。実父に憧れて魔法師として日々修練に励んでいる。
ロック・ローランド:元勇者パーティの魔法師。パーティ解散後は王都にて守護魔法師団団長を務めた。スルードの災厄にて元凶と相打ちになり亡くなっている。
ノックス・メイソン:かつて王都守護魔法師団の副団長を務めた優秀な魔法剣士。アッシュ、フローラ兄妹の養父。新生守護魔法師団団長の任を受ける。
フローラ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。家族の事を大事に思う心優しい女の子。
リナリア:ノックス・メイソンの妻。控えめな性格ながらも芯の強さを持つ女性。
マリー・ウィンスロー:守護魔法師団隊長。金髪の美少女で、魔法師の実力も別格。自分の目指したかった姿をアッシュに重ね、意識している。
アイリス・アシュレー:王都守護騎士団の団員。マリーとは大の仲良しで、元冒険者パーティを組んでいた。
リネア・ハーネス:守護魔法師団第七部隊に所属する風属性魔法師。マリー、アイリスとは元冒険者パーティを組んでいた。
ヒース・ビアーズ:元冒険者。マリー・ウィンスローに憧れて守護魔法師団へ入団した炎属性の魔剣士。
カイル:元冒険者。守護魔法師団入団を目指す風属性の魔法師。
クライヴ:Sランク冒険者で本来は一流の剣士。冒険者の立場のまま王都を守る決意をした。
オリバー:守護魔法師団副団長。ノックスとは再結成前からの同僚。
モーガン:守護魔法師団第二部隊隊長。土属性に優れた盾使い。普段は温厚だが怒らせると怖い。




