日常
「予想を超える激戦を潜り抜け、今ここにいる有志諸君。守護魔法師団団長として皆の入団を歓迎する!」
団長ノックスの挨拶から、守護魔法師団の入団式が始まった。
見事に僕が所属したチームは、ヒースさん、カイルさんと三人とも合格となった。
ただ、実技試験後はなかなか大変だった。
試験終了後に各試験官が正体をバラし、試験の目的や各受験者へのアドバイスを頂いたのだが、同じチームにマリー団長が居た事を知らずにヒースさんが悔しがって大騒ぎ。
「変装魔法まで使っていたんだから気付かなくてもしょうがないですよ」
と言ってしまったばかりに
「なんだ、アッシュは気付いていたみたいじゃないか」
「まぁ、そうですね……」
「それなら一言教えてくれても良いじゃないか!もっといっぱい話せたのに…アッシュ許せん!」
と、何故か僕に飛び火。騒ぎに気付いたマリーさんが宥めてくれた事でようやく収縮がついた。
尚、入団式で隊の配属も決まり、僕とヒースさんはマリー隊長の第七部隊、カイルさんはモーガン隊長の第二部隊に所属となった。
ヒースさんがこの配属を受けて、喜び回ったのは言うまでもない。
入団式を終えて気になった事があったので、マリーさんに聞いてみた。
「クライヴさんの姿が無かったのですが、どうかされたのですか?」
「アッシュはあの方の事をどれくらい知っている?」
「実技試験で対峙した以上の事は分かりません」
「そうか…あの方は冒険者でも最上位のSランクに属する方でね。私達の間でも、何故今更守護魔法師団にという疑問で溢れかえっていた」
「どんな理由だったんですか?」
「本心は分からないが、面接では生まれ故郷のこの国に不穏な空気が流れている事、守護龍ノックスに浮かれ、安易な気持ちで守護魔法師団を目指す者が多いようならそれを正して自身が王都を守る為と…」
義父さんが感じている疑念よりも具体的な、最上位冒険者だからこそ得られる情報があるのかもしれない。
「それなら尚更いらっしゃらない理由が分からないのですが?」
「理由は君だよアッシュ」
「僕ですか?」
「クライヴ様はこうもおっしゃっていた。多少浮ついた者はいたが、それでも皆が鍛錬を積み、この国を守る為の志を持った者達だった。あの災厄で多くの悲しみや後悔を持ち、それでも立ち上がった自分と同じだと。それに、安心して王都の守護を任せられそうな若者にも出会えた。だから、入団を辞退し、冒険者の立場でこの国の為に引き続き活動していくと謝られていたわ」
「そうだったんですね…クライヴさんにはまだまだ及びませんが、期待に応えられる様に精一杯頑張ります」
「試験ではクライヴ様を封じていたが?」
「命のやり取りでは無いと手加減して頂いた事もありますが、クライヴさんはそれとは別にも制約を課して戦っていたと思います。そして多分それは魔法剣士として戦い続ける事だったのかなと…」
「私は直接あの方が戦う姿を見た事が無いが、戦士として名を馳せた方だ。仮にそうだとしても認めて貰った事は素直に受け入れて良いと思うよ」
「はい、ありがとうございます」
驕る事なく、前を見続けている。アッシュの強さの理由の一つかもしれないな。
「そうそう、これは言う必要無いかも知れないが…」
「——————」
「………………」
「アッシュくん、無事合格おめでとう。今日はフローラちゃんとお祝いを用意したからたくさん食べてね」
「私はもちろん合格するって分かっていたけど、でもお兄ちゃんおめでとう」
「二人ともご馳走まで用意してくれてありがとう」
リナリアさんとフローラが用意してくれた料理を前にしていると義父さんも帰って来た。
「ただいま。今日は豪華だね。そうか、アッシュのお祝いか」
「…義父さん…聞きたい事があるんだけど…」
「どうしたアッシュ?」
「実技試験でクライヴさんと僕が戦いになるように、義父さんが仕組んだって聞いたんだけど!」
「ああ、良い実戦経験になっただろう?」
と悪びれる様子も無く、ニコニコしながら返して来る。
「もちろん良い経験にはなったけどさ…Sランク冒険者って、手加減されてても一撃目から殺されるかと思ったよ…」
「でも、対応して勝ったんだから大したもんだ」
「えっ!お兄ちゃん、そんなすごい人に勝ったの?!すごーい!」
リナリアさんまで
「まー」
なんて言いながら拍手してくれる…
皆んなに褒められると恥ずかしくなって仕方ない。
「さっきも言ったけど、手加減して貰っただけだから…」
「そんな風に言いながら、意外と最後の方はムキになっていたかもしれないわよ」
「はは、そうだったら良いな」
この時、少し離れた地でクライヴさんが大きなくしゃみをした事を知る者はいない。
その後、義父さんに聞いた話によると、クライヴさんが入団試験を受けると知った守護魔法師団は大慌てになっていたらしい。
実技試験では、単純な戦闘能力だけでなく、他のメンバーとのコミュニケーションや作戦立案能力、索敵・隠蔽スキルをはじめとした補助的な能力も総合的に判断する為に今の形式が取られた。
そんな中にクライヴさんのような突出した能力の人が混ざれば、その人物の考え次第で試験が歪んでしまう。
まして、守護魔法師団の隊長達でも何処まで相手を出来るか分からないのである。他の受験者との戦闘は考えたくない。
いっそのこと実技試験は免除で良いだろうとの意見が出始めた頃に、義父さんがクライヴさんと僕が戦う流れを提案した。
勝敗ではなく、実戦経験を積む良い機会にしたい。
団長であり親でもある義父さんの言葉は、やや私情が強い気もするが、積極的にクライヴさんと戦いたい者が居なかった事で異論は出なかったようだ。
守護魔法師団へ入団後も慌ただしい日々が続いた。
入団祝いにマリーさん率いる第七部隊で行った食事では、偶然か必然か、守護騎士団のアイリスさんも同じお店でお酒を飲んでいた。
その時、マリーさんの顔が少し引き攣ったのを見逃さない。
酔っているアイリスさんは、誰かが頼まなくてもマリーさんのプライベートを教えてくれる。
普段の訓練ではとても厳しい…いや、とても熱心な指導をされているが、私生活では女の子らしく、お菓子作りが得意で、お酒に酔うと甘えて来て可愛いらしい。
マリーさんの守護魔法師団での姿とのギャップを聞く度に、一部の隊員から歓声が上がっていたのは言うまでも無い。
もちろんマリーさんは黙って聞いていた訳ではなく、何度も止めようとしていたが、守護騎士団で日々身体を鍛えている上に、酔って力加減が曖昧になっているアイリスさんを止める事は出来なかった。
半ば諦めていたマリーさんだったが、アイリスさんが調子に乗って幼少期の話を始めた時には、何処からか出した杖で頭を叩いて止めていた。
「マリちゃん、そんな物で頭叩いたら痛いよぉ」
「アイリスが悪いの!何でもかんでも喋りすぎ!」
マリーさんの思いとは裏腹に、この日を通して第七部隊の結束はより高まっていった。
また、僕とフローラは王都に来る前に計画していた通り、僕の守護魔法師団への入団を機に二人で部屋を借りて住む事を義父さんとリナリアさんに告げた。
最初は反対されたが、兄妹が独り立ちしていく為の準備期間にしたい事、隣とはいかなかったが、歩いて一、二分の距離で部屋を借りられそうな事、週に一度は家族で食事をする事で納得して貰えた。
義父さんとリナリアさんは新婚だ。家を出る理由に嘘は無いけど、二人の生活も送って欲しいという気持ちが僕達にもあった。
いつでも会える距離だからこそ、フローラの心配も少なくて済む。新しい距離感でこれからも家族として過ごしていきたい。
「生活費はお兄ちゃんに頼るけど、他の事は私の方がいっぱいしてあげるんだから、お義父さんもリナリアさんも心配要らないわ」
「はは、頼もしい妹もいるし、何かあれば帰って来るから大丈夫だよ」
「——————」
「あの子達がこんな事を考えているなんて知らなかったよ」
「二人とも私達が思っている以上に大人だわ。二人の成長は嬉しいでしょ?」
「あぁ、嬉しいが、寂しくも感じてしまうな…」
「大丈夫、近くに居るんだもの。これからも見守っていきましょう…」
そして肝心の守護魔法師団の仕事はと言うと、セクレート村の警備隊とは比べ物にならないくらい大変である。
仕事内容が大きく異なる訳ではないが、とにかく量が多い。
守護魔法師団において、ある意味最重要となる業務に守護結界の管理がある。魔力を貯蔵出来る魔道具と結界を発生させる魔道具を組み合わせたこの装置は、大抵のモンスターの侵入や魔法攻撃を防ぐ効果がある。
この守護結界によって昼夜を問わず急な襲撃にも対応出来ているのだが、2日程度で貯蔵分の魔力が無くなるので定期的な魔力の供給が必要になる。
又、一つあたりで防げる範囲は決まっている為、複数個での運用が前提である。
セクレート村では四個で済んだが、王都では百個を越える守護結界装置を運用している。
それらへの魔力供給及び状態確認。モンスター襲撃時の対処、周辺環境の生態調査、住民からの依頼、そして訓練。
街の規模も人口も桁違いで、目まぐるしい日々を過ごしていた。
王都に来て6ヶ月、こうした新しい環境にも徐々に慣れて来た時だった。
「刺激が…刺激が足りんぞアッシュ」
最近のヒースさんはこんな事ばかり言っている。
「マリー隊長に話しかけられた時なんか今でも喜んでいるじゃないですか」
「それは当たり前だ!だが、そうじゃない。この仕事が王都を守る為に必要な事は十分わかった。しかし、冒険者の時のようなドキドキが足りない」
「街が平和なのは良い事ですよ。それに仕事も多いし、訓練も大変で僕は充実していますけど」
「訓練は本当に地獄だな……いや、しかし最近は王都に現れるモンスターもほとんどいなくなって、実戦すらしてないぞ。入団してニ、三ヶ月は頻繁にいたのにな」
ヒースさんの言う通り、入団してしばらくは義父さんが王都に来る理由になったモンスターの襲撃が頻繁にあった。
しかし、三ヶ月前辺りから少しづつ減り始め、今月に至ってはまだ一件の報告も上がっていない。
「そういえば、カイルさんの所属する第二部隊が昨日の生態系調査の担当だったと思いますが、何か聞いていますか?」
「戻って来たばかりの時に会ったんだが、モンスターと一度も遭遇しなかったと言っていた。調査隊メンバー全員から報告が上がる前だから確定ではないが、もし他のエリアも同様なら異常事態だと…」
「何らかの理由でモンスターが大量発生する方は文献で見た事がありますが、いなくなったというのは聞いた事がありませんね」
「冒険者が潜るダンジョンでも無ければいない方が楽だがな」
「ダンジョン…ちょっと昨日の調査報告がどうだったか団長に聞いて来ます」
「その必要はないアッシュ」
「マリーさん」
「マリー隊長」
「今、ノックス団長から第七部隊に任務を受けた。東の森を抜けた先の洞窟周辺の調査になる。アッシュ、君の探知能力を期待して直々の指名だ。私を含めて五名で望もう」
「あ、あの!マリー隊長、自分も調査隊に入れて頂きたいです」
「ヒースか…わかった。明朝六時に出発だ。準備を怠るなよ」
「ありがとうございます!!」
「マリーさん、先日の調査隊の報告で王都周辺にモンスターが居なかった事が理由ですか?」
「既に耳に入っていたのか?」
「ヒースさんと丁度その話をしていたんです」
「二人とも真面目だな。報告によると洞窟周辺を除く地域ではモンスターが確認され無かったようだ。全体的な調査範囲拡大に先立って行いたいそうだ。あまり目立たないようにな」
「訳ありですか?」
「詳しくは明日話そう。残りのメンバーはこちらで選んでおくから、明日に備えてくれ」
「いよっしゃーー!!」
ヒースさんが叫んでいる。明日のメンバーに入れたのが余程嬉しいらしい。
「明日はよろしくお願いします」
「あぁ、元冒険者に任せておけ。そういえば、何でアッシュは探知魔法がそんなに得意なんだ?」
「上手く言えないのですが、風が教えてくれると言うか…探そうとするよりも感じ取ろうと意識すると見える感じですね」
「風が教えてくれる……一般的な探知魔法の考え方とは違うが、それがコツなのか?明日試してみるか」
「是非やってみて下さい」
探知魔法の重要性は義父さんからずっと教えられて来た。
少しでも多くの情報を早く知ることが出来れば、対応出来る事が増える。戦闘に関する魔法だけでなく、補助的な魔法も大事にしなさいと言われた。
始めの頃はヒースさんが言ったように、探す事を意識していて、その頃は今のように遠くまで知ることが出来なかった。
いつから感じ取るような感覚になったんだっけ……
【人物紹介】
アッシュ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。実父に憧れて魔法師として日々修練に励んでいる。
ロック・ローランド:元勇者パーティの魔法師。パーティ解散後は王都にて守護魔法師団団長を務めた。スルードの災厄にて元凶と相打ちになり亡くなっている。
ノックス・メイソン:かつて王都守護魔法師団の副団長を務めた優秀な魔法剣士。アッシュ、フローラ兄妹の養父。新生守護魔法師団団長の任を受ける。
フローラ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。家族の事を大事に思う心優しい女の子。
リナリア:ノックス・メイソンの妻。控えめな性格ながらも芯の強さを持つ女性。
マリー・ウィンスロー:守護魔法師団隊長。金髪の美少女で、魔法師の実力も別格。自分の目指したかった姿をアッシュに重ね、意識している。
アイリス・アシュレー:王都守護騎士団の団員。マリーとは大の仲良しで、元冒険者パーティを組んでいた。
オリバー:守護魔法師団副団長。ノックスとは再結成前からの同僚。
ヒース・ビアーズ:元冒険者。マリー・ウィンスローに憧れて守護魔法師団へ入団した炎属性の魔剣士。
カイル:元冒険者。守護魔法師団入団を目指す風属性の魔法師。
クライヴ:Sランク冒険者で本来は一流の剣士。冒険者の立場のまま王都を守る決意をした。
モーガン:守護魔法師団第二部隊隊長。土属性に優れた盾使い。普段は温厚だが怒らせると怖い。




