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親子魔法師  作者: 夏希


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3/21

羨望

 王都に来て10日目、今日は僕が守護魔法師団の入団試験を受ける日だ。

「ノックス、アッシュくん、いってらっしゃい」

「お兄ちゃん、お義父さん、いってらっしゃーい」

 行き先は同じなので、リナリアさんとフローラに一緒に送り出される。

「お兄ちゃん、受からなきゃあの話も無いんだから、絶対受かってね!」

「任せておけ」

「行こうかアッシュ」

 義父さんに声を掛けられ守護魔法師団の駐屯地に向かう。

「じゃあ、僕は向こうの建物みたいだから」

「ああ、アッシュ、いつも通りやっておいで」

「ありがとう義父さん。行ってくるよ」


 王都は魔法師と騎士による組織が2つづつ、合計4つの組織によって主に守られている。

 貴族をはじめとした身分の高い者達で組織されている宮廷魔術師並びに王宮近衛騎士。

 彼らは王都の中でも中心に位置する王宮と周辺の貴族街の守護。又、有事の際の他国への派遣等、外交に関わる活動にも従事する。

 双方とも家の格というものが重要視される為、しがらみも多く、一部を除いて他の組織との交流は少ないようだ。

 この2つは合わせて近衛隊とも呼ばれる。

 

 一方、僕がこれから受ける守護魔法師団、そして守護騎士団は王都全体の守護を目的とした組織である。

 こちらは最低限の身元確認はされるが、実力と動機によって採用される。

 又、双方役割の違いはあれど、目的は同じ為、交流も多く共同で任務遂行する場面も少なくない。

 ただ、実力での採用と言ったが、あくまで王都の守護にあたって必要な力を有しているかという意味である。

 義父さんのような規格外の人物が所属する事もあるが、魔法師としての実力を全体で比較した場合、王宮魔術師の方が遥かに優れた人物が多い。

 こちらは合わせて守護隊と呼ばれたりする。


 という訳で、僕の立場的にも考え的にも守護魔法師団志望なんだけど…試験内容は面接と実技試験。魔法に自信のある者大歓迎という非常にシンプルな募集内容である。

「対策しようが無いから緊張もしないな…」

 と小さく呟くと

「それは期待してるよアッシュ」

「マ、マリーさん⁈」

「君ならきっと来ると思っていた。今日は試験官の一人として参加させて貰うから、是非頑張ってくれ」

 と手を差し出されたので

「ありがとうございます」

 と握手した。

 

「今日はノックス様が団長に着任した影響か応募者が多いようだ。少し時間がかかるかも知れないが、また後ほど会おう」

 そう言い残し奥の部屋へとマリーさんは入っていった。


「おいおい、お前マリー隊長と知り合いなのか?」

 振り返ると短髪の男性が立っていた。

「俺はヒースだ。随分若いな?」

「アッシュ、15歳です」

「15!?成人したてじゃねーか。ここはすっかり若者に人気の職場になっちまったな」

「以前は違ったんですか?」

「他の国でもそうだが、大抵は10〜15年くらい冒険者をやってから、安定を求めて志願する事がほとんどだ。守護隊は国や街のお抱えだから収入が安定しているが、決して多い程じゃない。その点冒険者はレアアイテムでも拾えれば一攫千金だし、何より知識や実力を磨くには最適だからな」

 確かに比較的若い人が多く見える。

「ノックス団長の影響でしょうか?」

「そうだろうな。俺達くらいの世代は小さい頃に守護双龍の物語を何回も読んで育っている。憧れていない奴の方が少ないだろう」

「ヒースさんもそうなんですか?」

「もちろんそれもあるが、俺はマリー隊長の隊に入りたくて志願した。あれだけの実力を持ちながら、あの美貌、お近づきになりたいって野郎は他にもいるはずだ」

「はは…そうですか…」

「そうだ!アッシュは何でマリー隊長と面識があるんだ?」

「先日、王都に来た時に城門前でモンスターに襲われて、その時に出会いました」

「かー、王都に来て早々マリー隊長に助けて貰えて、名前まで覚えて貰えるなんて運のいい奴だな」

 少し違うが、訂正する程じゃない。


「ヒース・ビアーズさん、一番右の部屋にお願いします」

「名前呼ばれたみたいだ、またなアッシュ」

「はい、頑張って下さい」

「お前もな」



 後に名前を呼ばれて部屋に入ると、マリーさんとオリバーさんの二人が椅子に座っていた。

「久しぶりだねアッシュくん」

「ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」

「副団長もアッシュと面識があったんですか?」

「ノックス団長を勧誘に行った時に挨拶だけね」

「そうでしたか…」

 マリーさんに促されて、向かいの椅子に座る。

「いくつか簡単な質問をするから嘘偽り無く答えて欲しい。まずは君の魔法師としての経歴を教えて貰えるかい?」

「王都に来るまではセクレート村の自警団に所属していました。6ヶ月程度の所属で、実務経験はそれだけです」

「ノックス団長との稽古はどれくらいしてたんだい?」

 オリバー副団長に問いかけられる。

「セクレート村にいた9年間、義父(ちち)の仕事の邪魔にならない範囲でお願いしていました」

「十分過ぎる経験かもしれないね」

「そう…ですね…」


「————————」


「では、最後に守護魔法師団への志願動機を教えて貰えるかい?」

「救国の英雄ロック・ローランドに私は小さい頃からずっと憧れています。いつか私も彼のように人を街を国を守れる人物になりたい。それが志願理由です」

「英雄ロックはついこの間まで、スルードの災厄の戦犯として9年間にも渡って扱われて来た。その間も変わらず今の気持ちだったのかい?」

「誰に何を言われても変わりありません」

「……ありがとう。以上で面接は終わりだ。実技試験までは別室にてしばらく待っていてくれ」



「副団長、彼は私の隊で引き受けますからね」

「他の隊長にも念押ししてるようだね」

「ご存知でしたか…お恥ずかしい」

「それ程実力を買っているのかい?」

「それもありますが……私は先日の王の宣言があるまで守護双龍への憧れを口に出来ませんでした。幼い頃、あれほど冒険譚に心弾ませ、夢中になったのに災厄以降それはすべて取り上げられました。周りの大人からは批判され、子供同士でも先に親から禁止された子から嫌がらせを受けるんです。自分は触れられないのにいつまでも夢中になってる他の子が許せなかったんでしょうね」

「…大事な物を唐突に奪われる。子供達にも辛い出来事だったね」

「それでも心の中に秘めていた思いがあって、私は守護魔法師団にいます。幸いにも魔法適性があり、努力してここまで来れました」

「憧れていたものを叶えられたという事ではないのかい?」

「違うんです。私が憧れたのは紅蓮の魔剣士ノックス様なんです。私には剣術の才能が無かった。魔法も最適性は水属性です。それでも私は構わなかった。炎属性の魔法剣士を目指したかった…でも、周りはそれを許してくれなかった。適性が無いのに目立つ事をするなと…だから自分の気持ちを封印したんです…それなのに彼は…」

「彼は真っ直ぐな子だったね…」

「ノックス団長から聞きましたが、彼は土属性の適性がある訳ではないそうです。でも、揺るがなかった。才能が足りなければ努力するしか無いと修練を続けてたそうです」

「…………」

「それを聞いて悔しさでいっぱいになって。私の選べなかった…いえ、私が選ばなかった道を歩んでいる事に…でも、そんな嫉妬の何百倍も羨ましいと思ったんです。だからせめて、彼がこれからどう生きて行くのか、少しでも近くで見てみたいと思ったんです」

「…そんな告白を聞いてしまったら、一人の大人としては応援しない訳にはいかないね。彼の実技試験は少し大変だけど、きっと乗り越えるだろう。フォローは任せたよ」

「はい、承知しました」


 

一通り面接が終わり、実技試験に進んでいく。

「これから実技試験について説明させて頂く。こちらで割り振った5人でチームを組み、相手チームと旗取り対決をして貰う。制限時間の2時間経過、相手チームの旗を破壊、相手チームを全員拘束のいづれかで終了とする。戦闘前提ではあるが、もちろん相手を殺めるのは御法度。あちらの魔法陣の転移先は訓練で使うこもある郊外の山で、使用するエリアには魔法壁が張ってある。転移後10分間の作戦タイムを挟んで開始とする。質問があればしてくれ」

「勝負に勝たないと合格にならないのでしょうか?」

「いや、あくまで試験中の行動によって判断される。しかし、簡単に相手に拘束されるようではアピールにならないのも事実だ。役割分担は考慮するが、活躍を見せた方が評価を得易いだろう」

「どの程度の戦闘を想定したら良いですか?」

「皆、それなりの覚悟でここに居るとは思うが、必要以上の攻撃には介入させて貰うし、実力差があれば加減して制する事も評価ポイントになる。相手の力量を測って行動を変えられるのも実力の一つだ」


「では、他に質問も無いようなので今からチーム分けを発表する。呼ばれた者は順に転移魔法陣の前に来てくれ」


「アッシュ、同じチームになったみたいだな」

 朝絡まれたヒースさんに声を掛けられる。

「よろしくお願いします」

「冒険者を経ずにここにいるんだ。それなりの実力は期待してるぞ」

「はい、頑張ります」


 転移した先は木々はあるが比較的開けた地になっていた。

 味方の一人がすぐに上空に向かって飛び上がり、周囲の状況を確認したようだ。

「ザッと見た感じ魔法障壁は円状に広がっている。中央付近に大きめの森があり、後はまばらに木と岩場が広がっているようだ」

 そう告げ、男性は風属性使いのカイルと名乗った。

「俺はヒースだ。相手の旗の場所までは分からないか?」

「さすがにそこまで見えなかったが、セオリーから考えれば森を挟んだ反対側だろう」

「まぁ、その線が高そうだな」

「もう少し西側ですよ」

 みんなの視線がこちらに集まるが、気にせず方角を指差し話を続ける。

「こちらに真っ直ぐ2キロ程度の辺りです」

「アッシュ、何で旗の場所が分かるんだ…?」

「転移してすぐ魔力探知をしました。今は抑えている人もいますが、直後は5つあったので、間違い無いかと」

「その距離を把握出来るのか!それが正しいとすればターゲットが分かっているアドバンテージは大きいぞ!」

「気配を消して最短で攻めるか、囮を使って釣り出すか…」

「すみません!」

「どうしたんだアッシュ?」

「僕が旗の位置を言った事で攻める話になってしまっていますが、全員で守備を固める事は出来ませんか?」

「理由を教えてくれ。わざわざ有利な情報があるのに何故使わないんだ?」

カイルさんに問われる。

「短期間ですが、僕は村の自警団にいました。そこで冒険者と自警団や守護隊の違いについて考える機会があったんです。冒険者は敵を倒したり、ダンジョン等を探索して成果を得る為に行動する。自警団も敵と戦う事はありますが、それは人を守る為の手段の一つであって、目的は人や村を守る事だと…」

「この試験は守護隊としての考え方が出来るかも見られているってことか」

ヒースさんが補足するように言ってくれる。

「————————」

 

「ヒース、これで良かったと思うか?」

「当たり前だ。あの話を聞いたら納得せざるを得ない。まして、あんな風に頭を下げて協力して欲しいと言われたら尚更だ…」

「そうだな…俺は冒険者生活が長いせいか、頭では納得したんだが、どこか心配になっちまう。いい加減腹括らないとな」

「俺も同じさ。だからこそこの役回りなんだ。お互い悔いのないようにやろう」

 それに、一番心配しないといけないのは作戦の成否じゃなく、自分の活躍する場面があるかどうかかもしれん。



 実技試験が始まって僕達5人は守備を固めている。

 と言っても、魔法の属性で得意不得意がそれぞれある為、旗のカモフラージュ、陣魔法や防御壁の設置、周辺環境の実見等それぞれ役割分担して動いている。

「ヒースさんが賛成してくれて良かったですね」

 同じチームで唯一の女性に話しかけられる。

「そうですね。反対されて一人で守りにまわる可能性も考えていたんですが、協力頂けて助かりました。三人とも合格出来たらお礼を言わないといけません」

「3人?5人じゃなくてですか?」

「マリーさんともう一人の男性は試験官じゃないですか」

「私の名前はミリシャですよ。何か勘違いを…」

「僕、魔力の感知だけは小さい頃からずっと得意で、マリーさんとは最近何度もお会いしているので間違えませんよ」

「…君は面白い力を持ってるねアッシュ。もう一人は会っていないはずだが?」

「そちらは予想です。かなり手練れの方なのもそうですが、勝敗に関係なく合格の余地があるわりには観察用の魔道具が少ないです。又、行き過ぎた戦いに介入する為には近くで監視する必要を考えると参加者に何人か紛れるのが一番だと思いまして」

「お見通しだったか。公平を期す為にも出来れば他の二人には黙っておいて貰えると助かるよ」

「はい、分かりました」

 ノックス隊長が心配する必要がない訳か…


 10分も経たないうちに予め決めていた合図を送り、偽装した拠点に集まって貰う。

「すみません。予想が外れました」

「何があったんだ?」

「5人全員がかなり早い速度でこちらに向かって来ています」

「全員で攻めてくるとは大胆だな」

「1人、2人との接敵でしたら、ヒースさんとカイルさんに対応して貰う予定でしたが、さすがに人数の分が悪いので、拠点に呼ばせて貰いました」

「旗と陣魔法の方は?」

「旗のカモフラージュは大丈夫ですが陣は予定以下です。上手く引き込めれば有効ですが、複数人は難しいですね…」

「これだけの防御壁も用意してくれたんだ。十分過ぎるさ。一番魔力を使ったアッシュはしばらくここに待機して魔力を整えながら防衛、俺達は各方面に対応で良いな」

「僕も…いえ、分かりました。戦況が不利な時はこちらに引き込んで下さいね」

「これからの戦闘は任せておけ」

 とヒースさんは笑顔で言い残し、互いに居場所を把握し合っているであろう相手へとそれぞれ対峙していった。

【人物紹介】

アッシュ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。現在は義父ノックス・メイソンと実妹のフローラと暮らす魔法師見習い


ロック・ローランド:元勇者パーティの魔法師。パーティ解散後は王都にて守護魔法師団団長を務めた。スルードの災厄にて元凶と相打ちになり亡くなっている。


ノックス・メイソン:かつて王都守護魔法師団の副団長を務めた優秀な魔法剣士。アッシュ、フローラ兄妹の養父。新生守護魔法師団団長の任を受ける。


フローラ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。家族の事を大事に思う心優しい女の子。


リナリア:ノックス・メイソンの妻。控えめな性格ながらも芯の強さを持つ女性。


マリー・ウィンスロー:守護魔法師団隊長。金髪の美少女で、魔法師の実力も別格。彼女を理由に守護魔法師団を目指す人もいる程の人気者。


アイリス・アシュレー:王都守護騎士団の団員。マリーとは大の仲良しで、元冒険者パーティを組んでいた。


オリバー:守護魔法師団副団長。ノックスとは再結成前からの同僚。


ヒース・ビアーズ:元冒険者。マリー・ウィンスローに憧れて守護魔法師団への入団を目指している。炎の魔剣士。


カイル:元冒険者。守護魔法師団入団を目指す風属性の魔法師。


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