決戦
アッシュが予想した通り、モンスターの侵攻が確認され、各自が持ち場に着いていく。
最後まで、多くの者から共にスルードと戦いたいと申し出があった。その心意気に感謝と最大限の敬意を払いつつ、すべての申し出を断った。
申し訳ないが、かつての俺と同じ思いをさせる訳にはいかない。
それに恐らく此度の戦いはスルードを討伐すれば終わる。奴が集めたモンスター達は、奴が消える事で四散していくと考えられるが、それまでの間は多大な数のモンスターから王都を守り続け無ければならない。そちらも手薄にする訳にはいかない。
いよいよだ……愛剣を手に取り、戦場に赴く。
「義父さん、奴が動いた。追おう」
両軍が衝突する中、スルードが自ら別働隊として動きだした。シルフィーナの力で浮遊魔法を使い、すぐに追いかける。
「この間の小僧共か。たかが二人で私を止めようとはな」
「ただの二人ではないさ」
「ほざけ」
連れていた多数のブレイズコアとイグニスバードを差し向けられる。どちらも創られた核を中心に炎を纏った生命体だ。スルードによって生み出されたのだろう。
「アッシュ、来るぞ」
「義父さん、僕がやるよ。シルフィーナ、力を貸して」
義父さんを制し、魔力を込める。
「風を司りし暴風の王よ その大いなるはばたきを持ってすべてを吹き荒らせ 暴風竜の怒り」
大地が震え、地上より複数の竜巻が上空に向かって吹き荒れる。モンスター達の纏っていた炎は吹き飛ばされ、露わになった核は次々と斬り刻まれていく。
やがて竜巻は収束していき、スルードをも飲み込んだ。
「クックック、そうか、あの時のガキか。シルフはともかく、たかが人間のガキがあの状況で生き残るとはな。そのシルフはまた懲りずに母親を取り戻しに来たか」
収束した竜巻を吹き飛ばし、スルードが現れる。
「うるさいっ!大人しくお母さんを返しなさいよ!」
「力づくで取り戻してみせるんだな」
「言われなくたってそうするわ!」
シルフィーナが魔法を発動しようとするが、それを止める。
「あいつの挑発に乗る必要はない。今は一人じゃないんだ」
そう伝えると共に、シルフィーナに合図を送る。僕達の意図に気付いたシルフィーナはすぐに浮遊魔法を操る。
「その通りだ」
義父さんがスルードに斬り掛かるが、間一髪で避けられる。
「…少しは楽しめそうだ」
「楽しめるのは今のうちだけだがな」
義父さんの剣による連撃が繰り広げられるが、その大半は避けられ、捉えた斬撃も、スルードの黒爪によって防がれる。
シルフの力を利用しているのだろう。事前に聞いていた通り、かなりの速さを持つ。仮にこのスルードが正面から戦わず、人々を襲ったり、建物を破壊して回れば、それを抑え込むのは非常に苦労するだろう。
ロック父さんが置かれた状況を想像して冷や汗が出る。ノームの言った通り、こいつを絶対に街中に入れてはいけない。今はまだ僕達の事を格下とみて油断している。それを最大限利用しなければ。
「つまらん時間稼ぎか。向こうの小僧の回復を待っているのだろう」
そう言い、義父さんの剣を黒爪で振り払い距離を取った。
”黒炎の弾”
デカい。先日対峙した時の魔法とは比較にならない。これが本来の力という訳か。
放たれた黒炎の塊に向かって剣を構える。使うのは魔法剣だが、ただの炎属性の付与ではない。
”炎を喰らう炎”
その魔法剣の斬撃はスルードの黒炎を二つに切り裂き、中心を縦に消滅させた上で、激しく燃え上がる。
「貴様、何をした」
「悪いが俺も理屈はわかっていない。どうやらお前は覚えていないようだが、俺は10年前のあの日から、お前の事を忘れた日は無い。来る事は無いはずのお前を倒す為に編み出した対炎属性特化型の魔法だ。俺の炎がお前の炎に劣らぬ限り、喰らい尽くす」
「お前如きが私と同等の炎を操るとでも言うつもりか!」
「お前の炎が上だと言うならば、俺を燃やし尽くしてみるが良い」
挑発に乗ってくれたおかげで、同じ魔法を連続して放ってくる。回避出来るものは避けつつ、炎を喰らう炎で対処する。
10何個目かの黒炎を回避した所で間が空き、黒炎の雨が上空より降り注ぐ。
すべては無理でも、出来る限りの範囲を喰らう他あるまい。
「アグニアス、力を貸してくれ」
炎精霊の力が加わり、剣が纏う炎がより大きく燃え広がる。そこから繰り出された連撃によって、降り注ぐ黒炎の大半は消え去った。
「シルフ、そしてサラマンダーか……」
「アッシュ、待たせた!やるぞ!」
陣魔法 ”岩石巨大監獄”
ノームの掛け声に合わせて魔力を込める。
以前、僕一人で発動した時とは桁違いの大きさの岩壁に僕達は囲われていく。
「これですぐに逃げる事は出来ない」
「逃げる…?何を勘違いしている。精霊をいくら連れて来ようが、お前らはかつての勇者達に及ばない。それを教えてやる」
そう言うと、スルードは義父さんに向かって行った。
振り下ろされた黒爪を剣で受け止めるが、逆の手で放たれた竜巻生成魔法の直撃を受けて吹き飛ばされる。
次の瞬間にはこちらに向き直り、僕との間合いを一瞬で詰めてくる。盾生成魔法で黒爪の攻撃を防ぐが、黒炎を纏ったその攻撃は、僕の盾生成魔法を切り裂いていく。
「うおぉぉ」
先程の攻撃から復帰した義父さんがスルードに斬りかかるが、難なく避けられる。
「大丈夫かアッシュ」
「義父さんこそ……」
左脇腹辺りに、魔法によるダメージが見て取れる。
「今はそれどころでは無い。奴の本気はここからだ。後衛は任せるぞ」
そう言って再び義父さんはスルードに向かっていくが、相手のスピードを捉えきれていない。攻撃魔法で支援するが、土属性の魔法は避けられ、風属性の魔法は避けるか相殺されるかだ。
何とかあいつの速度を落とさなければ……残念ながら、リネアさんのような絶妙なコントロールは扱えない。となれば、力技を試してみるのみ。
あの時のように、相手の魔法ごと飲み込んでくれれば、避けられないはず……
シルフィーナに合図をして、魔力を込める。
”暴風竜の咆哮”
解き放った巨大な風の塊は、すぐに暴風竜の頭へと姿を変え、義父さんとスルード目掛けて襲い掛かる。
魔法が双方を飲み込まんとしたタイミングで、シルフィーナの浮遊魔法によって義父さんを救出。スルードは何かしらの魔法を発動したが、それもろとも飲み込み、威力を増してスルードに直撃した。
「……お前は少しは理解している側の者だったか」
スルードが何の事を言っているかは分からないが、あれだけの威力を持ってしても致命傷にならなかった事だけはわかる。それでも初めてまともに与えたダメージだ。影響が無いはずはない。
スルードがこちらに向かって来るが、わずかに速度の低下を感じる。先程よりも強度を高めた盾生成魔法は破られるも、次の動作に移るだけの間は出来る。
そこに義父さんの斬撃が入る。完全には躱しきれず、とうとう義父さんの剣がスルードに届く。
「貴様らぁぁ!」
スルードは少し距離を取ると、背中から黒炎によって作られた翼を生やした。
”黒死翼の裁き”
黒翼から無数に放たれる黒炎を最後まで防ぎ切れるかわからない。だが他に術も無い。何とか義父さんの元へ行き、全方位防御壁を展開する。
「何度もこの魔法には助けられた。アッシュ、お前は努力を怠らず、これほどすごい魔法を創りあげた。大丈夫だ、後は俺が決める。その為にアグニアスも力を溜め続けている」
全方位防御壁が消えるのと同時に炎を喰らう炎を剣に宿す。向かって来る黒炎を飲み込み、渾身の一撃をスルードに放つ。
「甘いわ!」
ここに来てまだ速度が……黒翼の影響か、今までを上回る速度でその一撃を回避したスルードが黒爪を背中に突き刺そうとしてくる。
これは避けられん……覚悟を決めた瞬間、声が響き渡る。
「お母さん、もうやめて!!」
シルフィーナの心からの叫び声にスルードの動きが止まる。
「おのれ!私に背く気かっ!!」
スルードが自身の中のシルフに言い放ったのだろう。叫び声にも似た魔力の大きな揺らぎを感じるが、スルードの身体は動きを止めたままだ。
「義父さん!今しかない!」
体勢を崩していたノックスだったが、すぐに向き直りスルードに改めて振りかぶる。
「おおぉぉぉ」
義父さんの斬撃は、スルードの左肩から入り、左腕と黒翼の一つを切り落とした。崩れ落ちたスルードの近くに弱々しいシルフの姿が見える。
「お母さぁぁん!」
シルフィーナが飛んで駆け付ける。そうか…動きを止める原因となったシルフを切り捨てた事で、ギリギリで身体を動かし、左腕だけの被害に留めたのか。
「…早くトドメを!」
言った時には既にスルードは上空に飛び立っていた。シルフを切り離しても、その能力のすべて失う訳ではないか……
「……もうよい……我が望みは奴に託そう……」
そう呟き、スルードは何やら詠唱を始める。
「終焉をもたらす地獄の業火よ 黎明を創りし煉獄の炎よ すべてを内包せし一振りの剣となりて我が元に……」
止めないとまずい。そう理解しながらも、奴を止められるだけの魔力が回復していない。
唯一、ノームが魔法を放つがスルードを止めるには至らなかった。
「我が魂は永遠の主、魔王アテイナー様とともに……顕現せよ!レーヴァテイン!」
スルードの右手に燃え盛る炎の剣が現れる。
「ノックスいかん!避けよ!」
スルードの振り下ろした一撃に、炎を喰らう炎を宿した剣で対抗したが、相手の剣の前になす術も無く義父さんの剣は折れた。
唯一の救いは、ノームの言葉のおかげで、義父さんの身体がその一撃に巻き込まれなかった事だけだろう。
スルードの振り下ろした剣の先からは紅蓮の炎が燃え上がり、辺りを燃やしていく。
先程まで母親に抱きついていたシルフィーナがすぐに全員を浮遊魔法で上空に連れて行ってくれたおかげで、一旦は被害を免れた。
「ノーム!あの剣について何か知ってるなら説明を!その前に岩石巨大監獄の解除が先か」
と言っている間に、スルードの斬撃によって僕達を囲っていた巨大な土壁は崩壊を始める。上から落ちて来る土塊を風魔法で吹き飛ばしながら、ノームの話を聞く。
「レーヴァテイン…神々が創り鍛え上げた、世界のすべてを燃やし尽くし終焉を導くとされる剣だ……あのような代物に対抗する術はない……」
「方法は必ずある!嘆く暇があるならノームも考えて!」
「…………プッ、こんな時にごめんなさい。まさかノーム王に向かってここまで言うなんて。さすが私が選んだアッシュだわ」
「ノーム…王……?」
「知らなかったの?こちらのノーム様は精霊ノームの始祖にあたる方よ。精霊の間ではノーム王とも呼ばれているわ」
「ノーム…僕……」
「いや、構わん。アッシュの言う通りだ。嘆いた所で何も変わらん。それに、何の抵抗もせずやられてはロックに合わせる顔がない」
ノックス義父さんも頷く。そうだ、ロック父さんはこれほどの力を隠し持つ相手と一人で対峙したのだ。
「アグニアス、君は何か知らないかい?」
「私はノーム様ほど博識ではない。だが、レーヴァテインは知っておる。炎属性の武器で最上位に位置する剣だ。すべての終わりと始まりを与えるものと聞いておる」
共通しているのは、世界を終わらせる程の力を持っているという言い伝え。何故それほどの力を持ちながら……
考えながらスルードを見ると、相手もこちらを見ていて視線がぶつかる。右手に持つ剣は激しく燃え上がるが、左腕は義父さんに斬り落とされ、残っていたはずの片翼も消えている。まさか……
【人物紹介】
アッシュ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。幼少期に契約を結んだシルフと和解し、元々秘めていた力の使い方を思い出し始める。
シルフィーナ:精霊シルフの女の子。アッシュの幼少期に出会い、その素質と純粋な気持ちに惹かれて契約を交わす。封印から解放され、改めてアッシュと共に戦う決意をする。
ロック・ローランド:元勇者パーティの魔法師。パーティ解散後は王都にて守護魔法師団団長を務めた。スルードの災厄にて元凶を封印したが、10年の時を経て封印は破られてしまう。
ノーム:土属性の精霊ノームの始祖。真名もノームと言う。かつて、ロック・ローランドと契約を結び、魔王討伐を成し遂げた。親友ロックの最期の願いを叶える為、息子のアッシュと共にスルードに立ち向かう。
ノックス・メイソン:かつてロックの部下として王都守護魔法師団の副団長を務めた優秀な魔法剣士。アッシュ、フローラ兄妹の養父。新生守護魔法師団団長を務める。サラマンダーと精魔相互契約を結ぶ事に成功した。
アグニアス:ノックスが契約した精霊サラマンダーの真名。プライドが高く、ようやく過去のように自分自身の手でスルードを討つ決意を固めたノックスに力を貸す。
フローラ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。家族の事を大事に思う心優しい女の子。
リナリア:ノックス・メイソンの妻。控えめな性格ながらも芯の強さを持つ女性。
マリー・ウィンスロー:守護魔法師団隊長。金髪の美少女で、魔法師の実力も別格。自分の目指したかった姿をアッシュに重ね、意識している。
アイリス・アシュレー:王都守護騎士団の団員。マリーとは大の仲良しで、元冒険者パーティを組んでいた。
リネア・ハーネス:守護魔法師団第七部隊に所属する風属性魔法師。マリー、アイリスとは元冒険者パーティを組んでいた。
ヒース・ビアーズ:元冒険者。マリー・ウィンスローに憧れて守護魔法師団へ入団さかた炎属性の魔剣士。
チェリル:第七部隊の賑やか担当魔法師。実は高い魔力を有しており、影で努力を怠らない。
クライヴ:Sランク冒険者で一流の剣士でありながら、冒険者パーティを率いるリーダーも務める。
モーガン:守護魔法師団第二部隊隊長。土属性の優れた盾使い。
ヴェルナー:公爵位の貴族。過去にロックとの因縁があり、守護魔法師団を毛嫌いしているが、国を思う気持ちは誰よりも強い。
ニコラス・ゴードウィン:伯爵位の貴族。ノックスの父から剣技を学んだ過去があり、ノックスとは古くから付き合いがある。
マーカス・ゴードウィン:ニコラスの弟。兄を尊敬し、その手足となって活動を支えている。
スルード:ロックに討たれたと思われていたが、奇跡的に生き残り、自身の本体を封印から解いて完全復活を果たした。封印され続けた恨みを晴らす為、そして自らの野望を叶える為に世界の滅亡を目指している。




