未来
「確証はありません。ただ、それほどの力を自由に使えるならば、モンスターの軍勢など率いらなくても王都を滅ぼす事は可能です。そして、それは過去にも当てはまります。勇者アーウィン、父ロックとの戦いにおいてもレーヴァテインが使われた可能性は限りなく低い。そして、ロック父さんの封印を破る事は出来ないとスルード自身が語っていました……考えられる可能性は二つ。レーヴァテインが偽物或いは、力の一部しか引き出せない状態である。そして、使用する事自体に制約がある。最初の義父さんへの一撃と岩石巨大監獄の破壊以降、僕達を追撃する事も無ければ、王都を破壊しようとする様子も無い」
「ワシらがこうして話しておれるのも、スルードが何もして来ないおかげじゃからな」
「サラマンダーの話を素直に受け止めるなら、すべてを終わらせるという伝承には使用者自身も含まれる可能性があります。レーヴァテインは諸刃の剣かもしれない。その上で、ここまでの窮地になるまで使わないという事は、簡単に出し入れ出来るような代物でもない」
「なるほど…それならば無闇に使えない理由になる」
「それだったら、このままスルードを無視して逃げちゃう事も出来るの?」
「シルフィーナ、それは出来ないよ。スルードは僕達が降りて来るとわかっているからあそこに居るんだ。僕達が逃げれば王都を、いや、力ある限り世界を滅ぼして回るかもしれない」
「だが、どうするアッシュ?仮説としては十分だが、あれを相手にしないといけない事は変わりない。真偽はともかく、あのレーヴァテインの威力は本物だ」
そう、例え不完全だったとしても、義父さんの剣を折った上で大地を焼き払い、一振りで岩石巨大監獄を破壊する威力を誇る。全力で力を解放した時の威力は計り知れない。
「一つだけ考えがあります」
「—————————」
「ようやく降りて来たか。無駄な作戦は決まったのか?」
「ああ、やっとお前を倒す方法がわかったよ」
「フッ、この剣を出した時点ですべてが終わる。何をしようと無駄な足掻きだ」
スルード自身の言葉で、仮説は確信へと変わる。
「……そういえば、お前は知らないかもしれないから最期に教えておくよ。僕の元の名前はアッシュ・ローランド。お前を封印したロック・ローランドの実の息子だ。そして、ロック父さんに代わって、ここでお前を討つ」
「……良い事を聞けたっ!これで私の怒りも少しは晴れるわ!!」
「全力で来い!またロック父さんの時のように敗れたくないならな!」
レーヴァテインが一際大きく輝き、炎は盛大に燃え上がる。紛う事なき全力の一撃だろう。
これに対抗するのは、最も使い続けて来た盾生成魔法。レイピアを縦に構える。
「ノーム!頼む!」
だが、そこに生成されるのは、いつもの盾生成魔法ではない。
「貴様っ!これはまさか……」
「ノーム、ロック父さんが創った封印は動かす事が出来るんだよね?」
「ああ、出来る。ワシがロックが亡くなった後に隠して封印し続けたのだからな」
「スルードがその封印を破れた理由は?」
「……ワシが離れた事で、魔力の供給が弱まった為だろう。相当な強度は誇るが、魔法で創られた物である以上、魔力の供給が無くなったり、弱まれば本来の力からは大きく落ちる。それを奴は狙っていたのだろう」
「魔力の供給さえ出来れば、ロック父さんが創った物は再び力を取り戻す可能性は十分あるよね?」
「お主まさか……」
「アッシュ!それは危険過ぎる!それが成功する保証がない」
「義父さん、ありがとう。でも、他にスルードの攻撃を防ぐ手段は思い浮かばないんだ。僕はロック父さんの力も、スルードの言った言葉すらも信じる。奴に全力で攻撃をさせて防ぐ事さえ出来れば、奴自身も大きなダメージを負う可能性が高い。そこを義父さんに狙って欲しい。もちろん僕も攻撃魔法まで繋げられればやるよ」
「ノックス、覚悟を決めろ。お前自身の手で終わらせるのだろう?私も残りすべての力を出す」
「アグニアス……」
「アッシュも安心なさい。私が何とかしてあげるわ」
「頼むよシルフィーナ」
「ワシにロックと同じ物を創る事は出来ん。だが、誰よりもロックと共にあったワシだから出来る事がある……やるぞ!アッシュ!」
僕の盾生成魔法によって現れたのは、10年前にロック父さんがスルードを封印する為に創り出したもの。ノームの力でその一部を移動させて盾として出現させている。僕だけじゃなく、ノームの魔力も合わさる事で、本来の強度を取り戻している。
だが、それでもスルードの一撃は重い。これまで受けて来たどの攻撃よりも圧力を感じる。
「ハッハッハッ、こんな物を持って来ようと今更…」
ロック父さん、僕にみんなを守り抜く力を……
その思い反応するようにレイピアの柄の宝珠が光り輝く。盾生成魔法は更に強度を上げ、スルードの攻撃を防ぎ切った。
「義父さん今だ!」
「「天空より舞い降りし猛き火龍よ その灼熱の炎をもって敵を焼き尽くせ 火龍の灼熱球」」
義父さんの放った魔法は、炎の龍へと姿を変え、スルードに襲い掛かる。
「この程度の炎で!」
先程のレーヴァテインによる攻撃の反動だろう。見るからに、スルードの身体が所々灰のようになって崩れ落ちている。それでもスルードの気迫は落ちない。
「アッシュ、私達もいくよ!」
「「風を司りし暴風の王よ その怒号をもって眼前の敵を斬り刻め 暴風竜の咆哮」」
もう一頭の暴風竜もスルード目掛けて襲い掛かる。
スルードは、レーヴァテインの炎を再び燃え上がらせ、二頭の龍を斬る為に振りかぶる。
あれを受けてはダメだ!
「暴れろ双龍! 双龍の激昂」
風と炎の双龍は、まるで生きているかのように荒れ狂い、スルードの斬撃すらも躱して、スルードを飲み込んだ。
「もう大丈夫だ。スルードの魔力は消え去った。ノックスが斬り落とした奴の腕も灰となり消えたわ」
ノームから報告を受け、長きに渡る因縁の決着に安堵する。
「義父さん、やっと終わったね」
「ああ……やっと終わったんだな……」
自らの手で仇を討てた事にノックスは感極まっていた。
「そうだ、王都を防衛しているみんなの方は」
集中して探知を行う。おかしい、モンスターの数は確実に減っている。それでも未だ半数近くが四散する事なく、王都の近くに居る。
「義父さん、王都を攻めるモンスターが散っていない。数は減っているけど、襲撃が続いている感じだ」
「馬鹿な!とりあえず急いで戻るぞ!」
何か理由があるはずだ。あたりを見回し、斬り落とされたスルード腕があった場所に一つの腕輪が落ちている事に気付く。
確かこれはイルミンさんがしていた腕輪。スルードが魔王からの頂き物と言っていた気がする。
レイピアで腕輪を突いてみるが、傷一つ付かない。
「義父さん、この腕輪が原因かもしれない。壊す事は出来ないかな?」
「それはイルミンがしていた……そうゆう事か。アグニアス、力を貸してくれないか」
「やれやれ、よく精霊を働かせる奴だ」
そうして、サラマンダーが創り出した炎の剣を腕輪に突き立てる。
「硬い。だが、いける」
力を入れ続け、ようやく腕輪は二つに割れた。
「……大丈夫、魔物が散り始めた。今度こそ本当に終わりだ」
しかし、魔王とは一体どれほどの存在だったんだろう。たったこの腕輪一つで大量のモンスターに影響を及ぼしていたなんて、とても考えられるものじゃない。
今の時代に魔王が存在しない事に感謝しつつ、みんなの元へと向かった。
誰も居なくなったスルードとの戦いの地に一つの影が現れる。
やはり、魔王様に次ぐ到達者が創り出したモノには、たかが数歩、歩んだだけのスルードでは、いくらレーヴァテインを使っても所詮は及ばぬか。
新しく歩み出したあの者が、何処までその道を進められるか……それも私にとっては関係のない事か。
レーヴァテインは既に在るべき場所に戻っている。使い物にはならないが、割れた腕輪は回収しておこう。
「さらばだスルード。お前は自分の望んだ道を十分歩んだ」
そう言い残し、再び影は消え去った。
モンスターが去っていった事で、僕と義父さんが戻る前から戦いの決着が着いた事をみんなが理解していた。
喜びを分かち合う者、終わった事に安堵し、泣き崩れる者、様々な感情が溢れるが、皆の顔には笑顔が広がっていた。
「戻りました」
「「「アッシュ!!」」」
柔らかい人からゴツゴツした人まで、色々な人にもみくちゃにされたり、抱きしめられた。
「向こうは大人気だな」
「若いんだから、あれくらい元気で良いさ」
「団長、お疲れ様でした」
「ああ、デリックもよく戦ってくれた」
二人は固い握手を交わす。
「モーガン隊長、被害状況は?」
「軽傷者は居ますが、人も王都も大きな被害は出ておりません」
「あれだけの数を相手によくその程度で済んだな?」
「団長とアッシュくんが必ずスルードを討伐する。それまで耐える事を最優先し、絶対に全員生き残るんだとデリックが鼓舞して周りましたからね」
「お、お前、それは言う必要ないだろう!」
「団長達が早期に決着を付けてくれたおかげです。長期戦になれば被害は広がっていたと思います。ありがとうございました」
「無視をするなっ!」
「——————」
「お兄ちゃん、おかえりっ」
「ただいまフローラ」
「今日も無事に帰って来てくれたね」
「ああ、約束したからね」
「今日はご馳走を用意してあるから楽しみにしててね」
「今日は特にお腹がペコペコだから楽しみだよ」
「——————」
「アッシュ、もう出発か?」
「はい、今回は半月程度の予定でノースレイ国の跡地まで行ってみようと思います」
「少し長くなるな……」
「ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」
「アッシュ……」
「僕は必ずここに帰って来ます。マリーさんはお土産を楽しみに待っていて下さい」
「私はお土産よりも……いや、いい。気を付けていって…きてね…」
「はい、いってきます!」
スルードとの戦いから三ヶ月が経っていた。
僕は世界の事をまだまだ知らない。様々な国の事も、その歴史も。多くのものを知る為に、守護魔法師団を辞めて、冒険者として世界を見て回る事も考えた。
だけど……多くの人に引き留められ、先の戦いの褒賞として、守護魔法師団に所属しながら、世界の情勢を見て回る事を許された。
様々な情報を持ち帰る事は、国にとっても有益となる。僕としても、団員としての給金を貰いながら旅に出られる事は、生活面での心配も無くなるし、目的も叶えられて一石二鳥だ。
帰りたい場所がある。待っていてくれる人がいる。それは他には代え難いとても大切なものだ。ただ、それと同じくらい、新しい知識や経験を積む事には価値がある。
「シルフィーナ、お願いして良い?」
「最近ちょっと甘え過ぎじゃない?」
「何も考えず、風を感じられる事が幸せなんだよ」
「しょうがないわね、いくわよ」
魔法の根源へと歩みを始めた一人の魔法師は、今日もその歩みを一つ進めていく。
fin
【後書き】
最後まで本作をお読み頂きました読者の皆様に、最大限の感謝をさせて頂きます。
何があっても完結まで書き切るという強い気持ちで始めた初執筆&初投稿でしたが、途中挫けそうになる事もありました。
しかし、連載初期からブックマーク頂けた方や投稿の度に読んで頂ける読者様のおかげで、止まる事なく完結を迎える事が出来ました。
とても励みになった事をお礼させて頂きます。
書き進める中で、当初描いていたストーリーとは大きく変わる事もあり、自分で読み返しても序盤の盛り上がりの少なさや、掘り下げ切れなかった場面、キャラクターは多々あります。(特にクライヴさんは強さの元となる設定も考えていたのに、活躍させる場面を用意出来なくて申し訳ないです)
それでも、今作は主人公アッシュ、義父ノックス、父ロックの物語として、親子の物語を最後まで書き切り、完結を迎える事が出来た事は、自分としてもとても良い経験になりました。
読者の皆様がどう感じたか、素直にご感想等頂けると大変嬉しく思います。
批判的なご意見でも、一言だけでも頂けると、次回作への励みになるので、是非お待ちしております。
物語の伏線に関しては、概ね回収したつもりですが、最終話に出て来た謎の存在?やアッシュのお母さんについては別作品で触れる予定です。何か気になる点がありましたら、気軽にご質問下さい。
現在2、3種類の作品の構想がありますが、次回作は今作主人公の父ロック・ローランドに関わる物語を執筆・投稿の予定です。また興味を持って頂けましたら、よろしくお願い致します。
最後までご覧頂きまして、本当にありがとうございました!




