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親子魔法師  作者: 夏希


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18/21

再会

 てっきりあの話の流れで封印が解かれ、シルフと戦うのかと思ったがそうでは無かった。

「当たり前だ。こんな所でシルフが万が一暴れれば周りに被害が出る。それにチャンスは一度しか無い。力を示す事に失敗すれば、契約が不完全である以上、シルフが其方の元を去る可能性がある。そうなればスルードとの戦いは困難を極める。アッシュ、其方には必ず成功して貰わねばならん」

「とは言っても、風属性の魔法は浮遊魔法(レビテーション)くらいしか最近使ってないよ。上手く制御出来ない事も土属性魔法を選んだ理由の一つでもあるんだから」

「……ふむ、ワシの封印が何かしらの影響を与えてしまった可能性もある。だが、其方がこれまで土属性魔法で培って来た事が無くなる訳では無い。属性は違えど、魔法の本質は変わらんのだからな。もっとこれまで身に付けて来た己の力に自信を持てば良い」

「自分の力に自信を……」

 ロック父さんに憧れて土属性魔法の修練をして来た事は嘘じゃない。でも、どこかで適性があるはずの風属性を上手く扱えない逃げ道にしていた可能性はあるのかもしれない。

 ここに来てからの短い期間でも、多くの仲間達に出会って、色々な経験をした事で、僕の魔法は大きく変わったと思う。もう一度、自分自身の持つ力と向き合わないといけない。


 手の平に風の塊をイメージする。初めて魔法を創り出した時のようにゆっくりと、しかし、力強さをイメージしていく。風が収束し始め、手の上に球状の形を作る。

 その時、そよ風が吹いた。その弱々しくも優しい風に思い出す言葉がある……

 ”私のこと忘れないでいてね”

「ノーム、やろう。僕は彼女にもう一度会わなければいけない」

「何か掴んだか、はたまた思い出したか。場所を変えるぞアッシュ」


 守護魔法師団の駐屯地から転移魔法で繋がっている訓練場に場所を移した。それ程経っていないはずなのに入団試験でここに来た事を懐かしく感じてしまう。

「ノーム、いつでも」

 ”記憶の解錠アンロックリコレクション

 ノームの封印から解き放たれ、シルフが姿を現す。背中に羽根を生やし、手の平に乗るくらいの大きさの彼女は、何も言わずにこちらをじっと見つめている。

 ノームが変なことを言うから、出て来た瞬間に攻撃される覚悟をしていたが、どうやら話が出来そうだ。

「シルフの姫君よ、長きに渡って貴女を閉じ込めてしまった事を謝りたい。そして、どうかもう一度わたしと……」

「……シュ………か」

「えっ?!」

「アッシュのばかあああぁぁ」

 言いながら目の前のシルフは両手から竜巻生成魔法(トルネード)を放った。

 咄嗟に盾生成魔法(シールド)で防ぐが、相手の威力が強い。盾が破壊され、そのまま吹き飛ばされる。

 今なら出来るかもしれない。自分の身体を風に乗せるイメージを持ち、ゆっくりと地面に降ろす。

 使ったのは浮遊魔法(レビテーション)なのだが、自分の思い通りにコントロール出来た事に喜びと共に自信を持つ。実は僕の浮遊魔法(レビテーション)は今この時まで不完全だったんだ。

 上下の動きは問題無かったけど、前後左右に動こうとすると力を制御しきれず、バランスを崩して落ちていた。一度怪我をしてからずっと試していなかったけど、これならリネアさんのように自由に空を飛べるかもしれない。

 そんな事を考えているところに風刃生成魔法(ウィンドカッター)が嵐のように飛んで来る。

「だから言ったのだ。じゃじゃ馬娘だと」

 盾生成魔法(シールド)で耐えているところにノームが話しかけてくる。

「初めは話し合いが出来そうな気がしたのに……」

「それなら悪いのは其方だ。何か約束でもあったのではないか?記憶も解放したはずだが」

「頭が少しすっきりした感じはあるけど、はっきりすべてを思い出した訳では無いよ。ぼんやりと過去の思い出が思い浮かぶような……」

「…まあ、どちらにせよ、やる事はそれ程大きく変わらん。あの娘を抑え込む事で力を示し、話せば良い。ワシは被害が広がらんようにしておく」

 とは言われたものの、どう戦うか。攻撃は激しいが、単調なおかげで守りやすさはある。問題は風属性の魔法を使用すること。過去に制御出来ない為に起こった事は発動の失敗と暴走。浮遊魔法(レビテーション)のような発動失敗はまだ良いが、攻撃魔法の暴走は出来れば避けたい。

 それと……このシルフは僕の事を知っていた。僕も必ず知っているはずだ。まだ埋まらない記憶の欠片を考えながら、手に持つレイピアに風を纏わせた。


 義父さんから剣術の指導も受けた事はあるが、魔法の修練に夢中だったので、あまり身に付いていないのが本音だ。両方をそつなくこなす器用さは無かった。

 繰り返しやらされた基本動作を思い出しながら覚悟を決める。盾生成魔法(シールド)を解き、迫り来る風刃生成魔法(ウィンドカッター)をレイピアで振り払う。

 リネアさんのように魔法が届く前に軌道を逸らすのが理想だけど、そこまで操れる自信は無い。レイピアに纏わせた風を相手の魔法にぶつける事で、物理的に近い形で軌道を逸らしていく。

 動きに多少のぎこちなさはあるが、僕がレイピアに纏わせた風の力が強く、狙い通りにいっている。力のコントロールも問題無い。やはり、今まで土属性の魔法を使って得てきた経験が生かされているのだろうか。


 風刃生成魔法(ウィンドカッター)をすべて振り払われる事で、魔法が変わった。風斬羽の雨(フェザーレイン)か。鋭い刃のような羽根が降り注ぐ。

 さすがにこれをすべて払うのは無理がある。大きめの盾生成魔法(シールド)を再び出して防ぐが

「ムッ、何で他の属性を使うのよっ!!」

 とシルフに怒られる。

「そんな事言っても仕方な……って、ちょっと待て待て!」

 シルフの前に魔力が集まっていくのがわかる。あの小さな身体にどれだけの魔力を宿すのか。全方位防御壁オールディレクションシールドならばギリギリ防ぎ切れるだろうかと考えながら魔力を込めていた時、目に留まってしまう。

 シルフが涙を流していた。涙か……過去の光景が蘇る。幼き日の僕は彼女と約束を交わしている。


 あれ程の魔力をこのレイピアで逸らす事は出来ないだろう。風属性の魔法で対抗するなら、狙うのは魔法の相殺。扱えなくても多くの書物で魔法の知識は得て来ている。行使される魔法の予測は付いたが、もちろん使うのは初めてだ。

 頭でイメージを思い描き、魔力を込めていく。

 まるで合図があったかのように、互いに魔力を解き放つ。

 

 ””暴風竜の咆哮(ストームローア)””

 

 巨大な風の塊は轟音をとどろかせぶつかり合う。

 万が一、失敗する可能性を考え、防御魔法の準備もしていたが、無事に発動した事に安堵する。

 この魔法が相殺し合って消滅すれば、話せるタイミングがくるかもしれない。

 だが、僕の放った魔法は、その形を暴風竜のような姿に変え、相手の魔法を飲み込み始める。

 まさか暴走か!既に放ってしまった魔法の制御をすぐに諦め、残りの全魔力を込めて一点に集中する。


全方位防御壁オールディレクションシールド!!」


 その名の通り、咆哮のような轟音を響かせながら、僕の魔法は空高く消えていった。

「……はぁ……はぁ……」

 身体が小さかったおかげで、囲む範囲を小さくし、強度を上げる事が出来た。さすがに相手の魔法を喰らって威力を上げるなんて予想していなかったが、間に合って良かった。

 全方位防御壁オールディレクションシールドを解き、シルフを手の平に乗せて話しかける。

「怪我は無かったかい?もう泣かないで。今度こそ君との約束を果たしたい。一緒にお母さんを取り戻そうシルフィーナ」

 そのシルフの真名を呼んだ事で、(ようや)くシルフィーナの表情が緩むのがわかる。

「やっと名前を呼んでくれた…遅いよアッシュ…」

 涙を流しながらも笑顔でそう呟かれた。


 こちらは何とか最初の一歩を踏み出せた。ここから何処まで積み上げられるかは時間次第であるが、次はノックス、お前の番だぞ。

 アッシュとシルフィーナを見つめながら、ノームはそう心で思うのだった。



 精霊とよく向き合えと言われたノックスは、サラマンダーを召喚して会話を試みていた。

「やあ、お礼がまだだったね。先日は君のおかげで助かったよ」

「フンッ、契約した以上、魔力さえ出せば力は貸してやる。それだけだ」

「それは本当に感謝している。だけど、俺は君と精魔相互契約(せいまそうごけいやく)を結びたい。理由は説明しなくても聞いていただろう?」

「それはお前の都合でしかない。私には関係ない事だ」

「はは、手厳しいね。何か条件があるなら教えて欲しかったんだけどね」

「……ノックス、仮にお前は、自分が課した条件だけを満たした者を心から信じ、命を預ける事が出来るか?」

「それは……」

「要するにそうゆう事だ。与えられたもので真の信頼関係など築けるはずはない。ただ、一つだけ教えてやろう。過去の私はお前の事を気に入って契約を交わした。だが、今のお前は気に食わん。見つけたのが今であれば、目の前に姿を現す事は無かっただろう」

 そう言い残し、サラマンダーの気配が消えた。

「……いくつ歳を重ねても、人の気持ちを察するのが下手なままだな……」

 今回の相手は精霊だが、本質は一緒だろう。思えばリナリアの時もそうだ。彼女なら理解してくれると決め付け、その本心を知ろうとしなかった。フローラに教えられたおかげで、今夫婦となり、新しい命を授かる事が出来ている。

 過去の俺にあって、今の俺に無いものか…………


 その日の夜、自宅でリナリアに聞いてみた。

「何故リナリアは俺の事を待ってくれたんだ?その……君の事を後回しにしてしまった事も多々あった。今は反省しているが、本来なら見切りを付けられても仕方ない……」

「なあに、今更?」

 笑いながら問いかけられたので、サラマンダーとのやり取りについて話した。

「なるほど…私があなたを待てたのは、アッシュくんとフローラちゃんの事を真剣に考えていたから。あの子達は二人とも心の優しい賢い子達だわ。恩人のロック様の為に出来る限りの事をしたいという気持ちは私も同じよ。でも一番は、あなたが小さい時から約束を必ず守る人だからよ。私の事を必ず幸せにすると言ってくれたあの日から、私はいつまでも待つ覚悟を決めていた。それに……私じゃなきゃ、これ程長い間あなたの事を信じて待ち続けられる人はいないわ」

「リナリア……ありがとう。今、君とこうして一緒に居られて俺は幸せだ」

「私もよノックス。それと、サラマンダーちゃんの事だけど、あなたはもう答えを見つけてるんじゃない?ただ、上手く言い表せなくて迷っている。伝える手段は言葉だけじゃないわ。あなたのやり方で表現したら良い」

「俺のやり方で……」


 翌日、ノックスは再びサラマンダーを呼び寄せる。

「何の用だ?昨日と同じ事を何度言おうが私は変わらんぞ」

「ああ、わかっている。今日は別の願いがあって呼び出した。俺と手合わせをして欲しい」

「ほぅ……いい度胸ではないか。少々腹の虫が治っておらぬからな。加減出来なくても知らんぞ」

「構わないさ。ここでサラマンダーにやられる程度であれば、あのスルードには到底及ばない。下手にアッシュの足を引っ張るくらいなら、今果てても変わりないさ」

「言ってくれるではないか!覚悟は出来ているのだなノックス!!」

「いつでも来いサラマンダー」

「————————————」



 半日に渡る戦いは、ある魔法の行使によって、ノックスの勝利という形で幕を閉じた…

「サラマンダー、先日の戦いはすまなかった。俺は君の力も自分自身の力も、最後まで信じ切る事が出来なかった。そのせいで君の力を囮に使い、君の尊厳を傷付けてしまった。それを謝りたい」

「フンッ、わかっておるならば許してやろう。火属性は四属性で最大の威力を誇る。同程度の魔力、技であれば理論上負ける事はあり得ない。それを忘れるで無いぞ」

「ああ、必ず俺がスルードを倒す。その為に改めて頼みたい。サラマンダー、君の力を貸してくれ」

「アグニアスだ」

「えっ?」

「私の真名はアグニアスだ。ノックス、お前と精魔相互契約(せいまそうごけいやく)を結んでやる。だが、たかがスルードなどと言う魔物一匹に劣ると言われた事は許しておらぬからな!私の真の力をお前にも見せてやる。覚悟しておけ!」

「はは……あれは全力のサラマンダーと戦わなきゃいけないと思っただけで…少し言い過ぎてしまったな……」

 何はともあれ、アグニアスと契約を結ぶ事が出来た。まだ不完全なあの魔法をアグニアスの力で強化する事が出来れば、スルードにも通用するはずだ。

 もう何も迷う必要は無い。後は進むだけだ。そう自分に言い聞かせ、ノックスはアッシュにあの告白をする事を心に決めた。

 

【人物紹介】

アッシュ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。幼少期に契約を結んだシルフと和解し、元々秘めていた力の使い方を思い出し始める。


シルフィーナ:精霊シルフの女の子。アッシュの幼少期に出会い、その素質と純粋な気持ちに惹かれて契約を交わす。封印から解放され、改めてアッシュと共に戦う決意をする。


ロック・ローランド:元勇者パーティの魔法師。パーティ解散後は王都にて守護魔法師団団長を務めた。スルードの災厄にて元凶を封印したが、10年の時を経て封印は破られてしまう。


ノックス・メイソン:かつてロックの部下として王都守護魔法師団の副団長を務めた優秀な魔法剣士。アッシュ、フローラ兄妹の養父。新生守護魔法師団団長を務める。サラマンダーと精魔相互契約を結ぶ事に成功した。


アグニアス:ノックスが契約した精霊サラマンダーの真名。プライドが高く、ようやく過去のように自分自身の手でスルードを討つ決意を固めたノックスに力を貸す。


フローラ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。家族の事を大事に思う心優しい女の子。


リナリア:ノックス・メイソンの妻。控えめな性格ながらも芯の強さを持つ女性。


マリー・ウィンスロー:守護魔法師団隊長。金髪の美少女で、魔法師の実力も別格。自分の目指したかった姿をアッシュに重ね、意識している。 


アイリス・アシュレー:王都守護騎士団の団員。マリーとは大の仲良しで、元冒険者パーティを組んでいた。


リネア・ハーネス:守護魔法師団第七部隊に所属する風属性魔法師。マリー、アイリスとは元冒険者パーティを組んでいた。


ヒース・ビアーズ:元冒険者。マリー・ウィンスローに憧れて守護魔法師団へ入団さかた炎属性の魔剣士。


チェリル:第七部隊の賑やか担当魔法師。実は高い魔力を有しており、影で努力を怠らない。


クライヴ:Sランク冒険者で一流の剣士でありながら、冒険者パーティを率いるリーダーも務める。


モーガン:守護魔法師団第二部隊隊長。土属性の優れた盾使い。


ヴェルナー:公爵位の貴族。過去にロックとの因縁があり、守護魔法師団を毛嫌いしているが、国を思う気持ちは誰よりも強い。


ニコラス・ゴードウィン:伯爵位の貴族。ノックスの父から剣技を学んだ過去があり、ノックスとは古くから付き合いがある。


マーカス・ゴードウィン:ニコラスの弟。兄を尊敬し、その手足となって活動を支えている。


スルード:ロックに討たれたと思われていたが、奇跡的に生き残り、自身の本体を封印から解いて完全復活を果たした。封印され続けた恨みを晴らす為に王都の壊滅を狙っているが、現在は封印されて失った力を取り戻す為に力を蓄えている。

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