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親子魔法師  作者: 夏希


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16/21

表裏

 主戦場での戦いは、ニコラス伯爵が王都側の司令官として停戦交渉に当たる事で、とりあえずの終結を迎えた。

 ニコラス伯爵がその立場を務めた事に不満を漏らす他貴族がいたが、

「国を守る為に初めから骨を折れん者に、何故そのような事が言えるのか」

 と言うヴェルナー侯爵の言葉で黙る他なかった。

 そもそも、ニコラス伯爵は貴族としての格からヴェルナー侯爵に司令官の立場での停戦交渉を提言していた。それをヴェルナー侯爵が辞退し、ニコラス伯爵を推挙する形で立場が成立していたのである。

 開戦当初から参戦した上に、高位のヴェルナー侯爵が後ろ盾となった意味は大きかった。


「今回の件でうちの大将の発言力は増す。元々快く思わない者も多いお方だ。より一層心してかかるぞ」

 クライヴはそう仲間に伝えつつも、自分達が仕える人物の決断力と行動力に満足していた。



「終わった……のか……」

 マリーはそう呟きながら、全身の力が抜けていくのを感じた。目の前の戦いに必死で、考えないようにして来た事が波のように押し寄せる。

 守り切れなかった者達がいる。自分の判断が、行動が本当に正しかったのか自問自答するが、その答えは出ない。

 本来ならば隊員達を労わなければならない立場だが、その言葉が出てこない。そんな私の元に向かって駆け寄って来る二人の姿が見える。

「マリーちゃん、本当に、本当に無事で良かった……」

 泣きながらリネアに強く抱きしめられる。

「へへっ、さすがにもう体力の限界だよ」

 アイリスはボロボロになった装備を見せながら、私とリネアを優しく抱きしめながら呟いた。

「二人とも無事でいてくれて本当に良かった……」

「でも…私は多くの仲間を守れなくて……私だけこんな……」

「マリちゃん、それは違う!」

 アイリスに強く否定された。

「例えマリちゃんがこの場に居なくても、この戦いは避ける事が出来なかった。だから、その考えは逆だよ。マリちゃんが居たから、前に立って戦ってくれたから救われた人がいる!お願いだから自分を責めないで」

「そうです隊長!隊長が居なかったら第七部隊は全滅していた可能性だってあります」

「それに俺達だって相応の覚悟を持って守護魔法師団に入っている。王都で暮らす家族を守りたくて、この場に立っている者だって大勢いる。仲間を失った悔しさは俺達も同じだ。あんたが一人で全部背負う必要なんてない」

「そうです!俺も家族を守る為に、自分の意志でここに居ます!」

 次々と第七部隊で賛同の声があがっていく。

「みんな……ありがとう……うぅ…………」

 リネアとアイリスに包まれながら、しばらくその場でみんなで泣き続けた……



「義父さん、大丈夫?」

 そう言いながら手を差し出す。リネアさんはスルードが去った後、しばらく事態が飲み込めず固まっていたが、隊が心配なので先に戻りますと告げ、この場を去っていた。

「ありがとうアッシュ。さっきも助かった。何とかこの場がおさまったのもお前のおかげだ」

「いや、義父さんの一太刀のおかげだよ。あれが無ければもっと手に負えない存在になっていたかもしれない。そうだ、イルミンさんは……?」

 義父さんは確認して首を振った。

「……おそらく、残りの生命力すべてを使って先程の魔法を放ったのだろう……イルミンが最期に言おうとした言葉は、俺には重いものだな……」

 本来であれば、とても魔法を放てる状態では無い。それは奇跡ともいえる、彼の最期の叫びだったのかもしれない……

「義父さん、イルミンさんは前の守護魔法師団の仲間だったんだよね?」

「ああ、そうだ。誰よりもロック団長に憧れ、追いつきたいと努力を惜しまなかった。思いが強すぎるあまり、周りと衝突する事もあったが、一本筋が通った人だった」

「義父さんの知ってるイルミンさんをもっと教えて貰っても良いかな?……おかしな事を言うかもしれないけど、この人は僕が成り得たもう一つの未来の姿に見えたんだ。ロック父さんが亡くなった時、僕はまだ子供で、義父さんに保護してもらえた。セクレート村に行った後も、周りにはフローラやリナリアさんが居てくれて、村の人達も良くしてくれた。だから僕は誰が何を言っていても、ロック父さんを目標に頑張れた」

「アッシュ……」

「思い悩み、時に間違った選択をした時に話せる相手がいる、諭してくれる人が居る事は当たり前じゃない。この人がした事は許される事では無いけど、僕はそのすべてを否定するだけの言葉は持たなかった。だからせめて、この人の事をもっと知らなきゃいけないと思ったんだ」

「————————」

 イルミンさんが見聞きし、経験した事は現実だ。彼が言った言葉は、自分が知らないからと言って、無いものにはならない。だから僕達は多くの事を学ぶ必要がある。過去を知るからこそ、変えられる現在(いま)や未来もあるのだから……


「ノックス!アッシュ!無事か!」

「ノーム!」

「ノーム様」

「すべてワシの判断ミスだ。よもやあれを狙って来るなどと……スルードはどうした?」

「イルミンの魔法を躱した後、何かを確認するような仕草をして退いていきました。申し訳ありません。外で彼奴とは対峙したにも関わらず、伝えられていませんでした」

「そうであったか……いや、仕方あるまい。すべてはワシを表に引き摺り出す為に仕組まれたこと。ワシの動きを確認したからこそ隠す必要が無くなったのだろう……」

「ノーム様、スルードが言っていた事はすべて本当なのですか?私達は皆、ロック団長が彼奴を討ったとばかり思っておりました。それがまさかこのような事に……」

「奴の言葉は知らぬが、恐らく間違いでは無いだろう。アッシュの成長を見た時、ワシが知るすべてを語る決意はしておる。だが、今少し待て。其方もワシも身体の回復が必要だ…明後日、其方達の拠点に再び赴く。そこであの時起こった事を語ろう」

「……わかりました。しかし、スルードが再び襲来する心配は無いのでしょうか?」

「彼奴とて身体は万全では無い。彼奴を封じた10年という歳月が今しばらくの猶予となる事がせめてもの救いだ……今は焦るで無い」

「はっ!」

「アッシュ、お主には辛い現実を告げる事になるやもしれん。心して来い」

「ノーム……どんな事も受け入れる覚悟は出来ています!」

「頼むぞアッシュ……」

 そう告げ、ノームは姿を消した。


 精霊の生命力の源は魔力と信仰心である。簡単に消え去る事はないが、大きく魔力を消費すれば弱るし、その源の魔力を消し去る程の魔法等を受ければ存在を保つ事は出来ない。

 ノーム自身もこの時、復活したスルードと対峙し、一撃を浴びせたものの、返り討ちにあい大きく弱っていた。大地に逃げる事で、かろうじて魔力を繋ぎ止めていたのだ。

 やはり、ワシだけの力では復活したばかりの奴にさえ及ばん。ロックもアーウィンも居ない今、奴を止められる可能性はアッシュとノックスに託すよりあるまい……

 自身も来るべき解錠の為、魔力の回復を図るより無かった。



 守護魔法師団では、団長のノックスとアッシュが本部隊に戻り、此度の戦いが完全に終結した事が告げられた。

 改めて安堵の声はあがるが、多くの犠牲者を出してしまった事実に歓喜に湧き立つような事はなかった。

 慌ただしくも、仲間の亡き骸が集められ、鎮魂の儀が執り行われる。

「数多くの勇者達によって、多くの人々が、国が守られた。その勇敢なる意志を今ここに讃えよう…………残された我々もまた、その意志を継ぐ事を英霊達に誓わん!」

 共に戦い、励み、笑い合った仲間との別れは簡単に受け入れられるものではない。

 もう二度このような起こさせない。アッシュは強く心にそう誓った。


 鎮魂の儀の後、守護結界の魔力を意図的に少なくした守護魔法師団の内通者は、悲しい結末を迎える事となる。

 人徳者として陰から守護魔法師団を支えていたオリバー副団長が、自らその事実を告げ、自首したのだ。

 オリバー副団長も、以前の守護魔法師団に所属していた義父さんの昔からの同僚であるが、災厄によって大きく人生を狂わされていた。

「言い訳をするつもりはない。私の行いで多くの犠牲を出してしまった。私にここに居る資格は無い。どのよう形でも罪を償うよ。ノックス……すまない」

 そうしてオリバー副団長は投獄された。

 後に語ったとされる話では、スルードの災厄によって守護魔法師団が解散され、職を失うとともに、所属していた人達の評判も悪化した。妻から離縁を告げられ、子供とも離れ離れになり、細々と冒険者として活動していたようだ。多くの不満を持ちながらも子供の為に……そんな我慢の日々の中、元同僚のイルミンと出会ってしまった。

 同じ境遇の仲間の誘いは、溜め込み続けた気持ちを吐き出すには十分過ぎる魅力を持っていた。

 計画の為に、再建された守護魔法師団への復帰を果たした後に予想外の事が起こる。その名誉が回復した事で、元妻から復縁の話が出たのだ。

 冒険者としての稼ぎを子供の為に仕送りしていた背景はあった。だが……

「皮肉なものです。何もしなければその話は無かったでしょう。復讐の為の行動が、自分が一番欲したものを招いたのですから……」

 同じ境遇で支え合った仲間か、望み続けた家族か。

 悩んだ末に、オリバー副団長は家族を選んだ。イルミンとは決別し、イルミンもそれを受け入れた。元々の真面目な性格もあり、守護魔法師団内でも重要な役割を担っていったが、一通の手紙が届く。

 ”最終段階だ。結界に細工をすればお前の家族の命は保証する。何もしないならばお前が全力で守り抜くが良い”

 かつての友から送られて来た最大限の温情だろう。

 イルミンがかつてとは比べ物にならない魔力を手に入れていた事は知っていた。いくら結界があろうが守り切れる保証など何処にもない……


 自らの気持ちに振り回され、揺れに揺れた男は、副団長の自分を守って散った部下を見て過ちを認める。これ以上、罪を重ねて、どのような顔で子供の前に立てば良いのだろうかと……


 様々な思いが入り乱れるが、時間はいつまでも待ってはくれない。スルードの災厄で命を落とした英雄ロックの最期を、唯一知るであろうノームの言葉を聞く為、多くの者が集まっていた。

【人物紹介】

アッシュ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。実父に憧れて魔法師として日々修練に励んでいる。


ロック・ローランド:元勇者パーティの魔法師。パーティ解散後は王都にて守護魔法師団団長を務めた。スルードの災厄にて元凶を封印したが、10年の時を経て封印は破られてしまう。


ノックス・メイソン:かつてロックの部下として王都守護魔法師団の副団長を務めた優秀な魔法剣士。アッシュ、フローラ兄妹の養父。新生守護魔法師団団長を務める。


フローラ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。家族の事を大事に思う心優しい女の子。


リナリア:ノックス・メイソンの妻。控えめな性格ながらも芯の強さを持つ女性。


マリー・ウィンスロー:守護魔法師団隊長。金髪の美少女で、魔法師の実力も別格。自分の目指したかった姿をアッシュに重ね、意識している。 


アイリス・アシュレー:王都守護騎士団の団員。マリーとは大の仲良しで、元冒険者パーティを組んでいた。


リネア・ハーネス:守護魔法師団第七部隊に所属する風属性魔法師。マリー、アイリスとは元冒険者パーティを組んでいた。


ヒース・ビアーズ:元冒険者。マリー・ウィンスローに憧れて守護魔法師団へ入団さかた炎属性の魔剣士。


チェリル:第七部隊の賑やか担当魔法師。実は高い魔力を有しており、影で努力を怠らない。


クライヴ:Sランク冒険者で一流の剣士でありながら、冒険者パーティを率いるリーダーも務める。


モーガン:守護魔法師団第二部隊隊長。土属性の優れた盾使い。


ヴェルナー:公爵位の貴族。過去にロックとの因縁があり、守護魔法師団を毛嫌いしているが、国を思う気持ちは誰よりも強い。


ニコラス・ゴードウィン:伯爵位の貴族。ノックスの父から剣技を学んだ過去があり、ノックスとは古くから付き合いがある。


マーカス・ゴードウィン:ニコラスの弟。兄を尊敬し、その手足となって活動を支えている。


オリバー:守護魔法師団副団長。ノックスとは再結成前からの同僚。イルミンと裏で繋がり、此度の襲撃計画に加担していた。しかし、ノックスや現守護魔法師団団員への思いにも偽りは無く、世の中と自分の気持ちにすら翻弄し続けたとも言える人物。


イルミン:シャドーを名乗っていた一人。前身の守護魔法師団に所属した魔法師。スルードの災厄で妻と子を失い、憧れたロックにすら恨みを持つも、真実を知ることでその恨みは王都とそこに暮らす人々すべてに向けられた。


スルード:ロックに討たれたと思われていたが、奇跡的に生き残り、自身の本体を封印から解く機会を伺って暗躍していた。

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