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親子魔法師  作者: 夏希


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14/21

決心

 アッシュさん……

 何と声を掛ければ良いのかわからない……アッシュさんが英雄ロック・ローランドの息子と言った時、驚きよりも納得する自分がいた。

 あの日、シャドーと名乗る男が私と同じく指揮者(コンダクター)という言葉を発したからだ。

 私が読んだその本は魔王を討伐する勇者アーウィンを主役にした物語。その中に登場する魔法師は英雄と呼ばれる前のロックをモデルにしていた。

 仲間の先頭に立ち、巨大な悪と勇敢に戦う。多くの子供達は物語の勇者に憧れるだろう。でも、私は違った。

 私にはみんなを引っ張るリーダーの役割はとても出来ない。だから、戦場の指揮者(コンダクター)と書かれていた、パーティを支える縁の下の力持ちのような魔法師に惹かれたのだ。

 その魔法師が英雄ロックの事だと知ったのは大きくなってからだけど、そんな憧れを持つだけの私でもシャドーの言った言葉には、有無を言わせない凄みを感じてしまった。あの人は本物のロック・ローランドを知っている……

 物語のロックしか知らない私に何がわかるのだろう。何が言えるのだろう……


「リネアさん、ロックの息子だって黙っていてすみませんでした」

「えっ!?」

 何も言えず立ち尽くしていた私にアッシュさんはそう言った。

「隠しているつもりは無かったんですが、自分からそれを言って回るなんて出来なくて。父ロックが偉大過ぎて自信が無かったのかもしれません。とは言っても義父(ぎふ)がノックス義父(とう)さんですから、十分過ぎるんですけどね」

「……無理……してない…?」

「……してるかもしれません。でも、今少し考える時間があって、改めて思ったんです。父ロックはシャドーが言っていた事なんて絶対に望んでいない。その為にも僕があの人を止めなきゃいけない。悩んだり落ち込んだりする事は後からでも出来ます。だから、リネアさん、もう一度力を貸して下さい!」

 なんて強いんだろう……だから私は……

「はい!いきましょうアッシュさん」

「まずは街の被害を食い止めましょう。ガーゴイルの数は多いですが、一体一体確実に……」


 ”我が力を貸そう 友人(とも)との約束を果たす為に”


「久しいなアッシュ。と言っても、今のお前にはわからんか」

 突如、目の前に現れた初老の男性に話しかけられる。記憶には無いのに、何故かすごく知っている気がする。

「貴方は…ノーム様…ですか?すみません、何も覚えてはいないのですが、何故かそんな気がしました」

「その通りだ。そして、覚えていない事を気にする必要は無い。我が記憶を封印したのだからな」

「それはどうゆう事ですか?」

「この戦いが終わった後にすべてを話そう。其方の幼少期に起こったこと、ロックが最期に我に託したことを」

「……わかりました。どうかお力をお貸し下さいノーム様」

「ノームで構わん。いくぞアッシュ」


 目の前で起こった急展開に理解が追いついていかない。

 先程まで敵のシャドーが放った言葉に悩まされていたのに、精霊ノームが現れて、しかも、話を聞く限りだと英雄ロックと共に戦った精霊ノームで、息子のアッシュくんに力を貸すと言っている……もしかしたら私はとてつもない場面に居合わせているのかもしれない……

「リネアさん、急ぎますよ」

「あ、はい!すみませんでした」

 今は考え過ぎずについていくしかない。



 力を借りるなんてものではない。精霊ノームの力は圧倒的だった。敵の魔力を探知し、見つけるやいなや瞬時に魔法を発動し、ガーゴイルの核を破壊していく。

「これは……僕達が一緒に居る必要はあるのでしょうか?」

 つい本音が漏れてしまう。それ程までに僕とリネアさんに出来る事は限られていた。

「逃げ遅れた人間が居れば保護させようと思ったが、皆しっかりと避難出来ておるな」

 ずっと急いで動き続けていたからちゃんと把握していなかったが、ノームに言われて改めて気付く。ここまで王都に暮らしている人に一切出会っていないことに。

 守護結界の穴を塞ぐために走っていた時もそうだ。申し訳無く思いつつも、建物の被害に気付きながらも目を(つぶ)って駆け抜けた。でも、もし、ガーゴイルに人が襲われていたら足を止めて守っていただろう。

 今も同じだ。人の被害が無いからこそ、これほどスムーズに行動出来ている。

「でも、どうしてでしょうか?これほど素早くみんなが避難行動を取れるなんて?」

「おそらくノックス団長のおかげと思います」

「義父さんですか?」

「はい、ノックス団長は時間が許す限り、この国に暮らす人々と会話する時間を持っていました。その交流を通して、王都に危機が迫った時は大切な物だけを持ってすぐに避難するように訴え続けていましたから」

 初めて聞いた話だ。義父さんがそんな事をしていたなんて……

「でも義父さんは何故一人でその活動を?守護魔法師団としてやった方が効率が良いのに…」

「ロックもそのようにしていたからだろう」

「はい、これは自分がやるから意味がある行動だと、前任のロック団長がそうしていた理由がやっと理解出来た。だから、わざわざ団員みんなに伝える必要はないとおっしゃっていました」

「———————」


 

「ロック、何故このような非効率な事をする?お前には部下がいるのだから、その者達にやらせれば良いではないか?」

「ノームには非効率に見えるかもしれないけど、このやり方が一番効率というか、効果が高いんだよ」

「言っている意味がわからん」

「人間っていうのは複雑でね、どれだけ正しい言葉だとしても、それを言った相手次第でどれだけ心に残り続けるか変わってしまうんだ」

「自分の命に関わる事でもか?」

「残念ながら、命の危機を経験していないと難しいだろうね」

「難儀な生き物だ」

「でも、その面倒くささが人間なんだ。僕の名声は望んで手に入れたものじゃない。味方からは過剰な成果を期待され、敵からは狙われる対象になるだけの邪魔なものだけど、この国で僕の顔を知らない人は居ないし、真正面から僕の話を無視する人も早々いない。少しくらい有効活用しないとね」

「ハッハッハ、自分の立場や名声すら利用して、そのような人間すらも救おうとはな。ロック、其方もワシには理解出来ぬ立派な人間じゃ」


 時間はかかったが、其方の行いは身を結んでおるぞロック……


「とりあえずこんなものだろう」

 ノームの力と、離れていても同じように戦ってくれる仲間たちのおかげで、ガーゴイルの殲滅に何とか目処がたった。

「シャドーを探しましょう。あいつを止めない限り、この戦いは終わりません」

「…折角チャンスを与えたつもりだったのだがな。英雄を気取りたい子供にロックの意志は理解出来んか」

 探さずともシャドーは再び僕達の前に現れた。

「僕は英雄になど興味は無い。ただ、目の前の大切な人や物を守りたい、それだけだ」

「そのような小さきものの為に大義を見失うとはな」

「何が大義だ!ロック父さんがこんな事を望むはずあるものか!」

「従わぬならお前もこの場で葬るだけだ」


「アッシュ!無事か!」

「義父さん!義父さんこそ無事に解放されて良かったよ」

「ああ、そうだったな。終わった後にゆっくり話そう。リネアくんもアッシュのサポート助かったよ」

「いえ、私の方こそ助けて頂きました」

「貴方様はまさか……」

「久しいなノックス。お前がしっかりせんから助けに来てやったぞ」

「そうでしたか……大変ご迷惑をお掛けしました。お懐かしゅうございます」

友人(とも)との約束だ。構わん」


「再会はそれくらいで良いか?探す手間が省けて助かったぞノックス。貴様には此処で果てて貰わねばならんのでな」

「言うじゃないかシャドー……いや、イルミンと呼んだ方が良いかな」

「気付いたか」

「ああ、最初に疑いを持ったのは、仲間が君の作ったガーゴイルの腕を持ち帰った時さ。そこに見覚えのある模様が描かれていた。意図的かどうかは知らないがね。旧友に君と連絡が付くかも聞いて回ったが、誰も所在を知らなかった。そして、先日の会話とロック・ローランドを名乗った軍事行動。ここまでくれば君以外は考え辛い。今更隠す気もないのだろう?」

「ああ、そうだ。ここでお前を葬り、この国に復讐を果たして俺は名実共にロック・ローランドになる。今の呼び名など些末なことだ」

「お前の復讐の為にロック団長を利用するな。妻のハンナの為だとしても、彼女はこんな事を望む女性ではない。お前が一番知っているはずだイルミン!」

「………………今更そこまで調べたか……副団長の任に就きながら、仲間を見捨てて王都を去ったお前に何がわかる!俺はあの日以降、あれだけ敬愛したロック団長すら恨んだ。何故あれほどの力を持ちながら妻とそのお腹の子を救ってくれなかったのかと!だが、事実は違った。すべてを失い酒に溺れた酒場で、ハンナに贈った特注の宝飾品を付けた女を見つけた。問い詰めた先に辿り着いたのは、災厄の日に略奪をした連中だ」

「…………」

「笑ってしまうだろう?俺達が命懸けで守ろうとしていた中にそんな連中が居たことに。そして、真実を求めて俺はあの日起こった事を調べ尽くした。ロック団長に唯一落ち度があったとすれば、その命を失った事だけだ。だから悔い改め誓ったのだ。何をしてでも不当な罪を着せられたロック団長の名誉を取り戻す。そして、俺がロック・ローランドに成り代わりこの世界を正しく導くとな!」

「そこまでお前は……来るぞ!」


 ”大地の怒り(ガイアインパクト)


 大地が大きく揺れ僕達を飲み込まんと亀裂が走る。

 この人がこれまで苦しみ、至った結論は、ある種の正しさを持っているのかもしれない。その苦しみを本当の意味で理解出来ない以上、僕はこの人の言葉を否定するだけのものを持たない。

 だけど、ここでこの人は止めなければならない。何より、この人自身が誰かに止めて欲しがっているように見えるのだから……


「アッシュ、助けは必要か?」

 ノームに問いかけられる。

「ありがとうノーム。でも、この人だけは僕と義父さんで決着を付けなきゃいけない気がするんだ。出来る事ならば、周りへの被害を可能な限り防いで欲しい」

「任せておけ」

 そして僕は大地を鎮める為、地面に手を付き魔力を込めた。

【人物紹介】

アッシュ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。実父に憧れて魔法師として日々修練に励んでいる。


ロック・ローランド:元勇者パーティの魔法師。パーティ解散後は王都にて守護魔法師団団長を務めた。スルードの災厄にて元凶と相打ちになり亡くなっている。


ノックス・メイソン:かつてロックの部下として王都守護魔法師団の副団長を務めた優秀な魔法剣士。アッシュ、フローラ兄妹の養父。新生守護魔法師団団長を務める。


フローラ・メイソン(ローランド):英雄ロックの実子。家族の事を大事に思う心優しい女の子。


リナリア:ノックス・メイソンの妻。控えめな性格ながらも芯の強さを持つ女性。


マリー・ウィンスロー:守護魔法師団隊長。金髪の美少女で、魔法師の実力も別格。自分の目指したかった姿をアッシュに重ね、意識している。 


アイリス・アシュレー:王都守護騎士団の団員。マリーとは大の仲良しで、元冒険者パーティを組んでいた。


リネア・ハーネス:守護魔法師団第七部隊に所属する風属性魔法師。マリー、アイリスとは元冒険者パーティを組んでいた。


ヒース・ビアーズ:元冒険者。マリー・ウィンスローに憧れて守護魔法師団へ入団さかた炎属性の魔剣士。


チェリル:第七部隊の賑やか担当魔法師。実は高い魔力を有しており、影で努力を怠らない。


クライヴ:Sランク冒険者で一流の剣士でありながら、冒険者パーティを率いるリーダーも務める。


オリバー:守護魔法師団副団長。ノックスとは再結成前からの同僚。


モーガン:守護魔法師団第二部隊隊長。土属性の優れた盾使い。


ヴェルナー:公爵位の貴族。過去にロックとの因縁があり、守護魔法師団を毛嫌いしているが、国を思う気持ちは誰よりも強い。


ニコラス・ゴードウィン:伯爵位の貴族。ノックスの父から剣技を学んだ過去があり、ノックスとは古くから付き合いがある。


マーカス・ゴードウィン:ニコラスの弟。兄を尊敬し、その手足となって活動を支えている。


イルミン:シャドーを名乗っていた一人。前身の守護魔法師団に所属した魔法師。スルードの災厄で妻と子を失い、憧れたロックにすら恨みを持つも、真実を知ることでその恨みは王都とそこに暮らす人々すべてに向けられた。



スルード?:シャドーを名乗るもう一つの存在。何かに気付き戦場を後にした。



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