ユルマズとフルカン(1)
ガムゼは落ち着きなくカフェの前を腕を組みながら行き来しながら、ヌルが扉から出てくると、すぐに駆け寄ってきた。
「遅かったね、なにかあったの?」
「ハンカチを落としちゃって。あの女性が拾ってくれたの。それで、何を聞いたの?」
「できれば言いたくないけど、言わないとダメよね?」
「どういう意味?」
「驚かないでね」
ガムゼが聞いた単語は、『ダリヤ』、『アフメド医師』、そして『調香師』だった。三つ目の単語はブシュラのことであり、自分も関係ないとは言えなかったし、ボイスレコーダーを聴いたことが原因なのかもしれない。
二人は何者なのか、どこまで知っているのだろうか?ただヌルの顔は知らなかったのだろう。もし知っていればヌルに気がつき、声を掛けなかったとしても、何かしらの反応は見せるはずだった。
だとしても、明日アトリエに来る可能性は十分にあり、どう対応すればいいか思い浮かばず、話してはいけないことを話してしまったら、ウムトが窮地に追い込まれてしまうのかもしれない。
二人が何について話していたのかはそれとなく想像することができたが、ダリヤとは一体何者なのか?この一連の出来事に関係のある人物なのは確かだとしても、はじめて耳にする名前だった。
ヌルは二人がアトリエを訪れることで、ブシュラに余計な心配をかけさせたくなかったが、ガムゼはそれよりも目の前のヌルのことが心配だった。
「誰なの、あの人たち?」
「ごめん、話せない」
「どういう意味?」
ガムゼの顔を見ることができず、納得してくれないのは分かっていても話すことはできなかった。
「とにかく今は言えない。お腹痛いからもう帰るね、今日はありがとう」と言い残して、逃げるようにその場を去ったが、家に帰ってから自分の身勝手な行動に嫌気がさし、後悔しても遅かった。
ガムゼを傷つけてしまったかもしれないし、もう一緒にどこかに出掛けてくれない気がした。布団に潜りながら、メルべと呼ばれていた女性の服装や立ち振る舞いが頭をよぎり、赤いルージュはどこのブランドなのか気になっていた。本当に綺麗な赤色で、薔薇のようだった。
昨日の出来事を受け止め切れないまま朝を迎え、珍しくアトリエに行きたくないと思い、布団に潜ったまま出たくなかった。それでも、二人がアトリエに来るかもしれないと考えれば、ブシュラを一人にすることはできなかった。
家を出てアトリエに向かう足取りは重く、もし二人が来たらどう対応すればいいか具体的な策が思いつかないままアトリエに着き、いつものようにブシュラが先に中で準備していた。
「顔色良くないわよ、何かあったの?」
「眠れなかっただけです、心配しないでください」
嘘ではなかった。ベルが鳴るのをその日は心配しながら、鳴らないことを、もし鳴ったとしても郵便物であることを願っていた。
そんなことを考えながら仕事に集中できるはずもなく、昼過ぎにベルが鳴った時は心臓が止まるかと思うくらい驚き、恐る恐るアトリエの扉に向かった。ただ、そんな心配は無用だったし、扉の外にいたのはメルべでも、配達員でもなかった。




