名のないカフェ(3)
「とにかく、後でまた話すから。適当に時間潰して待ってて」
外に出て時間を潰すことも考えたが、結局そこで新しく入荷されたカセットや、ポータブルカセットプレイヤーを試聴したりしていたら、あっという間に時間が過ぎ、ガムゼに声を掛けられても、すぐに気がつかなかった。
「ねぇ、待った?」
「ごめん、ごめん、そんなことないよ」
「欲しいのあったら言ってね、少しは割引してあげられるから」
「ありがとう、でも今は大丈夫」
「そう、それじゃ行こっか」
ガムゼに連れられるままに外に出ると、思っていたよりも気温が上がっていた。
「ヌル、昼ごはん食べたいんだけど、何食べる?」
こうやって友人と過ごす休日がいつから当たり前ではなくなってしまったのだろうか?ここ最近は思い出したくない出来事が重なり、心が擦り切れていくような、悪い状況に物事が進んでいるとしか思えないことだらけだった。
ウムトに偽のボイスレコーダーを渡し、嘘をついて、ブシュラと録音を聴いたことは本当に自分がしたことなのかと疑うくらい、今思えば信じられないことだった。
特に食べたいものが頭に浮かばず、ガムゼに任せると、ハンバーガーがいつの間にか目の前に置かれていた。朝食を抜いていたのか、ガムゼは二つのハンバーガーを食べ終えると、ヌルのフライドポテトもつまみ、半分くらいガムゼが食べてしまった。
そこまで空腹でもなかったからヌルは何とも思わず、美味しそうに食べるヌルを眺めているだけで満腹になりそうだった。
それから、ファンデーションを買うために薬局に向かい、ヌルがどれにしようか悩んでいる間、ガムゼはそのカフェらしき場所について説明した。一度も行ったことがないのにも関わらず、ガムゼは口を止めることなく話し続け、ほとんど想像の範疇でしかなくても、聞いていて退屈はしなかった。
ガムゼの説明を聞く限り、そこは探偵が集まるカフェらしかった。何の根拠もなかったが、そんな雰囲気の場所らしい。ドラマの見過ぎだったと思ったが、だからこそ、秘密の場所みたいな、そのカフェなのかどうかも分からない場所に行きたがっているのは明らかだった。
まだ日は沈んでいなくても辺りは暗くなりだし、空気もどこか冷んやりしていた。道もはっきりと覚えていないらしく、何度も同じところを通り過ぎていたが、名前も知らない以上、歩き回って探すしかなかったし、ガムゼの記憶が頼りだった。
狭い路地の先にあり、その路地の特徴をガムゼはヌルに教えてくれたが、ガムゼの言った特徴はほとんどの路地に当てはまっていたから、ガムゼの探すその狭い路地が中々見つからなかった。
ガムゼが興奮してその路地を見つけたとヌルの肩を叩きながら言っても、ヌルはそこまで本気にはせず、信じていなかった。さっきもそう言って肩を叩いてきたし、これが三回目だった。今日行く必要もなく、もしその路地になかったら、ヌルはガムゼに日を改めようと提案するつもりでいた。
「ここよ、ここ。やっと見つけた」
ガムゼは今までになく興奮していた。分厚く、重たそうな木製の扉には細かい装飾が施され、真鍮のドアノブには年季が入っていた。お店の名前はどこにも書かれていなかったし、看板も見つからず、ただ小さなガラスの窓から店内を覗くと、確かにそこはカフェのようだった。




