雲の隙間から差す光(5)
「サラとアフメド医師は一緒にこの都市に来たんですか?」
「そうじゃなくて、偶然ここで出会ったみたいだけど、本当に偶然なのかは分からない。ある日突然、アフメドは転校生として私のクラスにやってきたし、先生は私の隣の空いていた席に座らせたの。その時はこんなに長い付き合いになると思っていなかったし、人生とはそんな想像もしなかったことが起きるものでしょ?遅くならないうちに、そろそろ帰りましょう」
ブシュラは机に置かれていたグラスを手にキッチンへ向かい、ヌルもテーブルを拭いて綺麗にした。もう少し聞きたいことがあったし、別に帰りが遅くなっても問題なかったが、ブシュラを引き止めてまで話そうとは思っていなかった。
ブシュラは電気を消して、アトリエの鍵を閉めてから「それじゃ、また明日」とヌルに言ってから歩き出した。二人の帰り道は反対方向だったから、二人は段々と遠ざかり、お互いに振り返ることなく帰途に着いた。
ふと、サラの墓で見たあの薄茶色の猫が気になり、最後に振り返った時にまるで誰かに撫でられているようだった。雲の隙間から差す光が、気持ちよかったのだろうか?それとも・・・。
サラは猫が好きだったし、猫もサラのことが好きなようだった。一匹の猫が二人の前に現れれば、いつもブシュラではなく、サラの膝の上に跳び乗り、気持ちよさそうに撫でられる猫を何匹も見てきたし、サラの膝の上で眠る猫を撫でたこともあった。
映画を観た帰り道、公園のベンチで座ってサラと話していると、そこら辺をうろうろしていた猫が何の迷いもなくサラの膝の上に跳び乗ってきた。サラの墓を訪れた時のような夕暮れの光が二人の座っているベンチを照らしていた。
その猫の長い尻尾を掴むように撫でながらサラは悲しそうに言った。
「子供の頃家で猫を飼っていたの、よくこうして膝の上で眠るものだった」
その猫の最後を思い出したのだろうか?
「そうなんだ、本当に猫は膝の上が好きみたいね」
ブシュラにはこのくらいの返事しかできなかったし、これで十分だったのかもしれない。そのまま話し続けていると、突然その猫はサラの膝から降りた。
サラはその理由も分かっていた。
「そうよね、私の膝はもう陽の光に照らされてないもんね」
そのまま猫を目で追いかけていると、まだ夕暮れに照らされている近くのベンチの上に跳び乗ってサラの膝の上で撫でられていた時と同じように体を丸めて目を閉じていた。何ら特別ではなかったが、猫を見るサラの横顔をはっきりと今でも覚えていた。
そろそろ帰ろうと、サラは近くのベンチで眠っている猫に向かって「またね」と大きな声で言ったためにブシュラを驚かせ、サラもびっくりしたブシュラに目を丸くした。話しながら歩いていると、忘れた頃に一匹の猫が二人の足元を風のように素早く走り去っていった。駆けていく猫はどこか遠くに行きたかったのだろうか?隣にいたサラは行き先を知っているかのような表情を見せていた。
前後の会話はほとんど覚えていなかったが、その日サラが何気なく発した言葉が家に帰ってからも気になり、水の底から浮かび上がってくるように、ブシュラの記憶の表面で漂っていた。
「赤い薔薇を手にするために、望んで自らの手を赤く染めることができるのなら、それは愛と呼べるかもしれない・・・」
フランスの詩人の引用かもしれない、それは初めて耳にする言葉だった。




