共鳴(4)
「マルコと多くの時間を過ごす中で感じたことは、花の芽を次々と摘む人です。どんなに小さな芽でも見逃すことなく、周りの誰かが力をつけそうになると、その芽を潰し現在の地位を守りながら、自分だけが上に居ようとします。理由はわかりませんが、今度はあなたから何かを奪おうとしているみたいです。娘である私のことを本当に心配しているんじゃなくて、自分に何かしらの利益をもたらすんです。マルコの周りでは一本の花も咲きませんから」
ダリヤの話した内容以上にその真剣な顔が本気でそのことを訴えていることを表していた。アフメドは、この都市で目に留まったもの、天気とか、そんな何でもないことを話しながら少しずつお互いのことを知っていければと思っていた。
ただダリヤはここに来る前からずっとそのことを最初に話すつもりだったのかもしれないし、これまでに幾度もなく犠牲になった人達をその琥珀色の目で見てきたのだろう。
「あなたが大切な何かを失う前に言っておきたかったんです」
「分かりました、忘れないでおきます」
アフメドから何を奪おうとしているのか?カセットプレイヤーなのか?そんな単純なものではないような気がしてならなかった。
「ところで、素敵な中庭ですね。風が吹き、花や木が揺れて、香りを運んでいる。病院の中庭だとは思えませんでした。手術を終えて退院するまでにたくさんお気に入りの場所が見つかると思います。アフメド医師にもそんな場所がありますか?」
アフメドは何となくその言葉を聞くと立ち上がって窓から中庭を眺めた。
「そうですね、忙しくて中庭に出る時間を見つけられませんが、私にとって一つの部屋がそんな場所だと言えそうです」
「どんな部屋ですか?」
「決して特別な場所ではありませんよ、倉庫みたいなところで埃っぽいですが、ただ落ち着くんです」
そう言い終えると、再び椅子に座った。中庭がダリヤの心をそこまで魅きつけたのは意外だったが、確かに患者たちからも似たようなことを一度ではなく耳にする機会があった。目の前のファイルを開きながらアフメドはまるで今知ったかのようにダリヤに質問を投げかけたが、そんな小芝居する必要があったのだろうか?
「作家だと職業欄に書かれていますが、どういった本を書かれているんですか?」
「物語を書いています。あなたのような見本になるような人生ではありませんが、紆余曲折を経て作家になりました」
「そうですか、本は読まないわけではありませんが、なんせ・・・」
「アフメド医師、何でも時間のせいにするのは良くないですよ。嘘ではないと分かっていますが、もし本当にやりたいことがあるなら、今するべきです」
「医師の悪いところかもしれません。この言葉で何でも許されてしまういますから、大体の人は納得してくれますよ。それから私の人生も真っ直ぐここまで辿り着いたとは言えませんよ。二十代の頃はいつ起きて、いつ寝たのか一日の区切りが分からないまま過ぎていきました。こんな二十代が待っていると知ってたら、医師にはならなかったかもしれません。どんな人生を歩んできたのか聞いた後に、時間が許せば私も少し話しましょう」
アフメドの提案を受け入れたようにダリヤは頷き、これまでの人生について話し出した。




