サラの囁き(4)
「一般的に人は知らないもの、要するに未知の事柄に恐怖を感じると思う。死もその一つなんじゃないかな?死んだ人は生き返らないだろ?伝達不可能なものが死なのなもしれない。人間だけじゃなくて、生命があるものは必ず死がある。ただ、『死』こそ『生』なの定義なのかもしれない。花だっていつかは枯れてしまうし・・・」
サラが望んでいた答えなのかは分からなかった。
「そうね、深く考えすぎて自分を苦しめちゃいけない。死が何なのか知ったところで解決できることじゃないのかもしれないね・・・」
サラの顔には死への恐怖は微塵もなかった、医師であるアフメドよりも多くのことを体験し、知っているかのような表情だった。枯れていく花を眺めながら、花の中に眠る死にも触れていたのかもしれない。そうやって自分自身の死も感じ取っていたのだろうか?
死期に近づいた猫は遠くに行ってしまうことをサラはいつの日か説明した。飼い主に死を見せないためなのか?ハーブティーはもうそこまで熱くはなかったし、普段ほとんどど飲むことのないアフメドにとっては不思議な味がした。
サラもマグカップを掴んでハーブーティーを一口飲んだ。まるで音を立てることが罪であるかのように、異様なくらい静かにテーブルにマグカップを置いた。
その夜、アフメドは暗闇のベッドで以前からずっとサラに訊きたかったことを訊くかどうかまた迷っていた。今まで訊かなかった特別な理由はなく、いつも先延ばしにして遠慮していた。隣で横になっているサラはもう眠ってしまっただろうか?
サラはアフメドに背中を向けていた、彼女の長い髪がアフメドの目の前に垂れていて、それは静かに流れる川のようだった。もし眠っているのなら、いつものように先延ばしにしてしまえばいいと思って小さな声でサラの名前を呼んだ。
その声は余りにも小さかったのか、それとも眠っているのか、とにかく返事はなかった。アフメドも眠りにつこうと目を閉じた時、アフメドの声と同じくらい小さかったがはっきりと自分の名前を呼ぶサラの声が聞こえた。それから、サラは身体をアフメドの方に向けて顔を見せた。
サラの顔には眠気があった。起こしてしまったような気がして、少しだけ後悔した。
「寝てた?」
「眠りかけてたけど、あなたの声が聞こえたような気がしたの。夢か、現実かはよく分からなかったけど・・・」
「現実だよ、やっぱり起こしてしまったみたいだね」
「いいのよ別に、何かあったの?」
「いや、特別なことじゃないんだけど、ずっと訊きたいことがあって。今までも何度か訊こうと思ったんだけど、また思い出した時に訊けばいいやとずっと先延ばしにしてたんだ。今も、もし眠っていたらそうするつもりだったんだけど」
「教えて、私もあなたが何を訊きたいのか気になってきた」
二人がもっと若かった頃、よく話した噴水にいるような、誰も知らない洞窟で話しているような、不思議で懐かしい記憶と感覚をアフメドはどうすればいいのか分からなかったが、どうする必要もなかったのだろう。
「君の左の脇腹あたりにあるアザについてなんだけど答えたくなかったら答える必要はないから。前にも少し触れたかもしれないけど、確か生まれたときからそこにあるんだよね?」




