サラの囁き(2)
「もし、ユルマズが記事を書いたとしても、編集長はあなたですよね?僕が書いた記事を採用してくれればいいだけじゃないですか?」
「そんな簡単なことじゃない、俺が採用に関わらないようにするだろう。もしくは、他にも何人か採用を決定する人物を加えるだろう。状況が変わった以上、こっちも色々とやらなければならないことがある。マルコが来ることは知っていたが、ああなるとは思ってなかった・・・」
何のことかウムトには分からなかった。
「あいつがどんな記事を書こうとしているのかは見当がつく、昔から煽るような記事を書くのが得意だった。つまらない記事ではあるが、そういう記事を読む人がたくさんいるのも事実だ。会社としては新聞が売れてくれたほうがいい。倫理に触れないギリギリを攻めるのユルマズのやり方だった。これは憶測に過ぎないが、自分の名前ではなくメルべの名前を使うだろう」
フルカンのこういった憶測や、予想が外れるのを見たことがなかったし、事実として受け取ったところで問題はなかっただろう。
「メルべはこのことを知っているんですか?」
「わざわざ、ユルマズが言うとは思えないし、メルべだって鈍感な奴じゃないから気が付いていても不思議じゃない・・・」
フルカンの声には何かが含まれていた。メルべと何かあったのだろうか?病院でメルべと話している時に、彼女が不自然に髪を触れたのを思い出した。
「それじゃ、この記事がまたユルマズとの戦いになるんですか?」
「そうかもしれないな・・・」
それから、ウムトもフルカンにそのボイスレコーダーが偽物であることを知らなかったことを説明した。フルカンはやはり感が鋭く、ウムトが説明する前にヌルがボイスレコーダーを聴いたことをすぐに察した。
フルカンが怒るだろうと思っていたが、なぜヌルがボイスレコーダーを聴きたかったのか、その理由をウムトに説明させた。
「ヌルは調香師のブシュラのアシスタントです。どうやらブシュラとアフメド医師は古い付き合いみたいで、アフメドの妻の死が二人を疎遠にしてしまったみたいです。ヌルがブシュラに録音を聴かせるためにこんな大胆な行動に出るなんて思ってもみませんでした。そもそも、僕がボイスレコーダーについて話してしまったのが原因ですが・・・」
「そうか、信頼に値する人間か?本当にそのためだけにボイスレコーダーを取ったのか?」
「何か企んでいるようには思えません、少なくともあなたみたいな隠し事だらけの人間ではありませんから」
「また殴られたいのか?とにかく俺はそろそろ行かないといけない。謹慎処分中だから連絡を取るのは難しい、一人でアフメド医師について調べろ。他の仕事は後回しにしろ。外出する時はデニズに伝えればいい、話は通してある。あとは、二度とあの不動産屋には行くな」
そうして浮かない顔をしたままウムトの部屋から去った。フルカンはもう二度とウムトを殴ることはないだろう、なぜかはっきりと感じた。部屋にはタバコの匂いが残っていたが、窓を開けて換気するとすぐに消えた。
冷蔵庫にはペットボトルの水だけでなく、牛乳、チーズ、ヨーグルやソーセージなどあらゆるものが買い足されていた。フルカン?そんなことをするような人間だったのか?適当にパンに挟んで食べ、空腹を満たした。午後四時だった。まだまだ沈む気のない太陽の光が部屋に差し込んでいた。




