花柄のワンピース(6)
ウムトもベンチから立ち上がってもう少しだけ中庭を散歩してからベッドに戻った。明日退院することを看護師に知らされると、二、三日前にも言われた気がしたが忘れていた。日が沈むまで中庭を眺めていたがそこに花柄のワンピースを着たダリヤが姿を表すことはなかった。
再び会うことをウムトに言ったが、明日退院する予定だったし、ダリヤがどのくらい病院に滞在するのかも分からなかった。ウムトはアフメド医師の記事を書くためにこれからも病院を訪れるだろう。最後に日が沈む中で一羽のカラスが飛んでいた。
翌日、いつもより早く起きるとウムトは昨日と同じように中庭を歩き回った。ダリヤは姿を現さなかったし、何も見つからなかったが朝の空気は気持ちよかった。荷物をまとめて、あとは病院から出るだけだった。
看護師にアフメド医師に挨拶したいと伝えたが、朝から手術があるようでそれは難しいとのことだった。仕方なく、そのことは諦めて病院を出た。結局、ダリヤを見かけることもなかった。久しぶりにアパートに戻ったものの、部屋の前で鍵が見つからず、バッグをひっくり返して探す羽目になった。
地面に落ちた鍵を拾い、ドアに挿して回したがなぜか扉が開かなかった。どうやら鍵を閉めないまま家を留守にしてしまったと思ったが、もう一度鍵を回して扉を開けると、そこには見慣れない靴があった。見慣れないと言ったものの、その靴を知らないわけではなかった。それから、タバコの匂いがした。
やはり部屋の奥にはフルカンがいた。
「ここで何してるんですか?」
「少しやり過ぎたようだな、もう少し早く退院すると思っていたが。それで、アフメド医師とは話せたのか?」
「少し話しましたが、特別なことは話しませんでした」
「そうか、それでも話すことができたのは重要だったと思う。そろそろ俺にボイスレコーダーを返してくれないか?」
フルカンはウムトに向かって手を伸ばした。
「どういう意味ですか?僕が壊したのを知ってますよね?」フルカンは腕を伸ばしたまま引くことはなかった。ウムトが何もしようとしないのに呆れたように話しだした。
「偽のボイスレコーダーを用意して壊したのは悪くない考えだった。ただ、もう少し上手くやるべきだったな。他の人なら騙せていたし、上手くいってたと思う。どうやってあれが偽物だと気がついたのかも説明しないとダメか?」
何も言うことができずにいるウムトを見て愉しんでいるのだろうか、フルカンは不気味な笑みを浮かべた。
「それじゃ、知っていながら僕のことを殴ったんですか?」
「その発言は、ボイスレコーダーが偽物だったと認めることになりかねないが、いいのか?」
ウムトはもう諦めていた、フルカンは全て知っていたのだろう。でも、どうやって知ることができたのか?ウムトですらその時点でボイスレコーダーがヌルの渡した偽物だとは知らなかった。なのにフルカンはその時点で偽物だと分かっていたような言い草だった。
「同じモデルのボイスレコーダーを買うのは素人のやり方だな。俺じゃやなければ気が付かなかったかかもしれないが、残念ながらこういったことにはお前が思ってるよりもずっと精通してるからな」
それからフルカンは適当な数字の羅列を口にした。




